愛しの君へ

秋霧ゆう

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第1章

第21話 面談

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 次の日、旭と蒼、そして翠は学校へ向かった。
 個別で先生と面談をすることになったのだが、そこへ椿と椿の母親が怒鳴り込んできた。

「うちの息子を殴ったのはどなた?」
「…僕です」
「あんたが」
「俺もです」
「2人!?2人がかりで息子を殴ったというの!?信じられない。先生、今すぐこの不良達を退学にして」

 先生も参戦する。

「ですから、何故2人が仙道君を殴ったのか話を聞いているところですから少しお待ちください」
「はぁ?理由が必要なの?殴ったことに関して理由が必要なの?謝罪もないし」

 ハッとする旭と蒼。

「すみませんでした」
「私に言われて謝罪されてもね」
「お母さん?」
「椿!私が話を付けてくるから家で休んでなさいって言ったじゃない」
「大丈夫だって」
「それにあなた、昨日は殴ったのは1人って言ったのに、2人が殴ったんですって?お顔がこんなに腫れちゃって…」
「だから大丈夫だって」

 完全に2人の世界に入る椿と母親。
 椿が現れてから爪が食い込むくらい力強く拳を作る蒼。
 暁が蒼の手を触り声をかける。

「大丈夫だ。桐生蒼。何かあっても僕が、旭が守ってやる」

 その言葉を聞き、力が抜ける蒼。
 暁が蒼に声をかけている状況に、今までより2人の距離が縮まった状況に嬉しくなり、旭はほんの少し笑った。

「何を笑っているの!」
「す、すんません」
「それに私見ていましてよ、あなた息子が現れた時また殴ろうとしてましたよね」
「…そんなことは、ありません」
「いいえ。私この目でちゃんと見てましたもの」
「お母さん。昨日のあれは、2人とちょっと喧嘩しちゃっただけで」
「あらあらあらあら、なんて優しいの」
「僕が蒼君の癇に障ること言っちゃったんだと思う」

 蒼の表情が険しくなる。

「キャー。やっぱり殴るのね!殴るつもりなのね!」
「落ち着け、大丈夫だ。大丈夫だから。僕を見ろ」

 暁が蒼の目の前に移動する。

「深呼吸だ。深呼吸するんだ。僕と一緒にやるぞ。ひっひっふー。ひっひっふー」
「ち、ちがっ」

 暁に対し、小声で指摘する旭。
 そんなやりとりを聞いて蒼は落ち着きを取り戻した。

「はいはい。このままじゃ埒が明かないので、分かれますよ。桐生と九条、お前らは教室で待機」
「はい」

 蒼、旭、暁は生徒指導室を出ようとする。
 その瞬間、椿の母親が蒼の顔をビンタした。

「何してるんですか!!」
「良いじゃない。ちょっとぐらい。この子何にも反省なんてしてないじゃない。息子を殴っておいてさっきもまた殴ろうとしてて…」
「桐生!」
「だ、大丈夫です」
「すぐ行くから待ってろ」
「はい」

 3人は部屋を出るも椿の母親の金切り声は廊下に響いている。

「蒼、大丈夫か?」
「ああ。…旭、もし」
「ん?」
「もし、退学になったらどうする?」
「働く!」

 自信満々に答える旭。申し訳なさそうにする蒼。

「おいおい。俺は俺の意思で椿を殴ったんだ。蒼に心配される筋合いはねぇからな」
「うん。ありがとう」
「そんで、蒼も俺と同じとこで働くだろ?」
「それも、いいかもね」

 教室に入ると、翠に江田、小鳥遊。そして噂を聞いて心配になって集まったクラスメイト達。

「大丈夫か?」
「蒼、頬が赤くなってる。どうしたの?」
「ちょっとね、」
「椿の母ちゃんにビンタされてた」
「ちょ、旭!」
「…そう」
「に、兄ちゃん?」

 これから、殺しに行こうかという表情の翠。

「こ、これが伝説の紅に染まりし閃光」
「江田先輩?それ恥ずかしいから言わないでって約束しましたよね?」
「す、すまん」
「何それ」
「……荒れてた時のあだ名」
「あはは、兄ちゃんそんな呼ばれ方してたんだ」
「ちょ、笑わないでよ。江田先輩のせいだからな、覚えとけよ」
「ご、ごめんて…」

 そんなやりとりを交わし、教室の空気が明るくなった。
 そして、先生が扉を開けた。

「おーい」
「せんせー」
「笑い声聞こえてんぞ。仙道の母ちゃんやっと落ち着いてきたんだから、笑い声とか出すな」
「すんません」
「あと、桐生と九条以外は外出てろ」
「嫌です」
「おい、生徒会長。お前全員外に連れて行け」
「嫌です」
「おい」
「大丈夫だよ。兄ちゃん。外行ってて」
「…分かった。でも廊下に居るから何かあったらすぐに呼んで」
「うん」
「はい。じゃあ行くよ。江田先輩に関してはこれからちょこっとお話があります」
「あ、はい」

 翠の圧に負けて、江田、小鳥遊、クラスメイトは廊下に出ていった。

「で、理由は話せるか?」
「…」
「…」
「…。はぁ。話せないのか」
「先生に言ったところで」
「またそれか」
「…」
「大した話では無いです。椿が僕の大切な人を傷つけたと知って僕が感情のままに殴った。それだけのこと」
「…ゲームの話か?」
「違う」

 旭が否定する。

「はぁ。実はな仙道も似たようなことを言ってたんだ。だから2人は悪くないって。めんどくせぇな」
「せんせーとは思えないセリフ」
「しょうがねぇだろ。俺はお前らの担任である訳でお前らを信じたい。お前らの善行も今までに何度も見てるしな」
「せんせー」
「でもな、今回は仙道を殴ったこと。信じてやりてぇが全てを信じることは出来ない」
「分かってる」

 その後も先生との面談を行い、蒼は停学。まぁ今日から冬休みということもあり、ただの休み期間となりそうだが。旭は再試地獄が決定。
 今後のことは旭の再試の際に伝えられることとなった。

「それじゃあ、頑張ってね旭」
「おう!」

 蒼と翠は帰宅し、旭は再試部屋へと向かった。

「あれ?何で居んすか、江田ぱいせん」
「昨日はお前らが心配で集中出来なかったんだよ!!」
「江田ぱいせん…」
「あれ、でも小鳥遊ぱいせんは」
「あいつは社会は終わったが国語に行った」
「そうなんすね」

 教室に高槻先生が入ってきた。

「あれ?せんせー。金城せんせーは?」
「金城先生は仙道の母親と話してる」
「え?まだ」
「まだ」

 3時間以上ノンストップで話しているようだ。

「そんなことは良い。再々試験を始める。全員、引き用具以外は鞄にしまえ。試験を終えたら俺の元に持ってこい。今回の合格ラインは40点とする。それでは始め!!」

 赤点は29点以下。最初の再試はテスト同様30点以上で合格。テストの内容は同じのため、不合格だった場合、次の日から+10点が合格ラインになるのだ。
 今回は再試2日目のため、30点の+10点で40点以上が合格となる。

 45分が過ぎた頃から合格者、不合格者が呼ばれはじめる。
 50分を過ぎた頃、江田は合格。旭は不合格をもらった。

「アハハ、何で選択問題しかねぇのに間違えるんだよ」
「江田、九条は心配だったんだよな。これからのことについて。でも、試験は集中した方が良いぞ」
「あーそうか。笑って悪かったな」

 素で間違えた旭は、先生が慰めの言葉をくれるが素直に喜べないのであった。
 旭と江田は共に試験が終わり、階段を降り下駄箱へと向かう。先を歩いていた江田が腕を横に振り、旭の動きを止める。

「なんすか、江田ぱいせん」
「俺の後ろに回れ」
「えー」
「回れって」

 そこには椿の母親がいた。
 後ろから覗き込んでいた旭はすぐに隠れる。

「全くもう、こんな低レベルな学校だとは思わなかったわ!!」

 さいわい、椿も椿の母親も旭には気づかなかったようだ。

「…まだ居たんか」
「そっすね」
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