愛しの君へ

秋霧ゆう

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第2章

第36話 蒼と康太

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 放課後。
 旭はバイトへ行き、蒼は部室へと向かう。

「久しぶりだなー。あれ?」

 今日は火曜日だから誰も居ないはずだが、何故か康太は居た。

「あんた誰っすか?」
「僕は妖精部2年、桐生蒼」
「あぁ、王国の。俺は妖精部1年の三月康太っす」
「君が帝国の」

 蒼は睨みつける康太に頭を下げた。

「な、なんすか!?何のつもりっすか!?」
「事情は旭から聞いた。君の妹を殺したのは僕の直属の上官だった。だから、」
「やめてくださいっす!!!」
「…」
「本当にやめてください」

 蒼は頭を上げた。

「俺はあんたに頭を下げられても意味が無いんす。だってあんたも家族を殺されて苦しい思いをしたって聞いたっすから。俺もあいつが憎いけど、多分俺よりもっともっとあんたの方が苦しいはずっすから」
「…」
「俺は自分の方法で、この世界の方法であいつを地獄まで追い詰めてやるんす。旭さんには言えないっすけどね」
「うん。旭は優しいやつだからね」
「そうっすね」

 康太は康太なりの方法で椿、いやリシャールを追い詰めると宣言し、蒼もそれをただ頷いて聞いていた。

「ところで、今日は部活は無いはずだけどどうしたの?」
「あー、いや特に理由はないっすけど、何となく行きたいなと思って」
「そうなんだ。実は僕もなんだ。といってもね、僕は数ヶ月学校を休んでて久しぶりに登校したから部室どうなってるのか見たくて」
「そうなんすね」
「三月君入った時、部室綺麗だった?」
「綺麗…………だったっす!」

 無理に言ってることが丸わかりである。

「そっか。教えてくれてありがとう」
「いえいえ」

 一方、旭。
 レジで寝ていたが、寒気がして起きる。

「暁、お前氷の魔法使ったか?」
「使うわけないだろ」
「そうだよな」

 話は戻って、蒼、康太。

「ところで質問が1つあるんすけど」
「何かな?」

 質問…。前世関連のことだろうか身構える蒼。

「あのもしかして1年の桐生朱音と兄妹っすか?」
「えっ…うん」

 身構えていたのにまさかの質問で驚く。

「そっか。じゃあ、蒼先輩って呼んでもいいっすか?」
「もちろん」
「あの、すんません。もう1つ質問が」
「何?」
「あの、その、旭さんと幼なじみって聞いたんすけど」
「うん」
「旭さんの小さい頃のこと、聞いてもいいっすか?その俺、旭さんに憧れてて」
「うん。いいよ。旭とはね、6歳の頃に出会ったんだ。僕が親の転勤でこっちに引っ越してきて、昔は泣き虫でいつも泣いてた。まぁ、虐められてたしね。そこに僕が割って入って仲良くなったんだ」

 康太が目の前でプルプルと震え出し、勢いよく立ち上がる。

「どうしたの?」
「旭さんを虐めてた?そいつ殺しにいきます」
「待って待って、子供の頃の話だし、もう小学生の頃に仲直りしてるから」
「そう、すか」

 康太は再び椅子に座る。

「旭はね、良い奴だよ。僕が苦しい時側にいて助けてくれて、慰めてくれて、僕の代わりに相手を殴りに行って」

 旭との日々に思わず笑みが溢れる。
 その蒼の話す姿を見て、康太も笑みが溢れる。

「良いっすね。相棒みたいな感じで」
「うん。だから僕も旭が何かに困った時は全力で助けることにしてるんだ」
「俺も旭さんを憧れてるから旭さんに困ったことがあれば助けたいんす」
「うん、良いね。2人で頑張ろう」
「はい!!」
「それじゃあ帰ろうか」
「はい」

 部室を出るとそこには、赤面した旭が立っていた。

「あれ?今日バイトじゃなかった?」
「今日は特に人が少ないから店長が上がっていいって。それで杏ちゃん先生の宿題忘れて取りに来た。そんで、蒼の靴がまだあったから探してた」
「へぇ。それより旭、照れてる?」
「なっ!照れてねぇよ。ほら、帰るぞ」
「はいはい」

 旭と蒼が歩き出す。1人立ち尽くす康太に旭が言う。

「康太、何やってんだ、行くぞ」
「はい!!」

 自分も2人の仲に入れてもらえたことが嬉しい康太は走って2人の間に入り、共に帰った。




 


 



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