愛しの君へ

秋霧ゆう

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第2章

第39話 夏休み・海の家後編

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 次の日。

「よし、揃ったね!今日からお前たち2人の他に私の孫がメンバーに加わる。昨年同様にお前たちの次の週から頼む予定だったんだが、予定が合わなくてね。よろしく頼むよ」
「よろしくお願いします。九条先輩、桐生先輩」
「お、お前、近衛!?」
「はい」
「なんだい、知り合いかい?」
「うん。部活の先輩なんだ」
「そうかい。じゃあ気まずくなったりはしないだろ。今日も一日よろしく頼むよ」

 そして始まる。過酷な海の家バイト。
 ナンパを交わし、そんな旭と蒼の姿に嫉妬する男達に喧嘩を売られ、やり返し、蒼に怒られ、松代さんを召喚し、焼きそばやらフランクフルトやら飲み物を売る。
 どんどん上がる夏の気温に壊れてく旭。

「このフランクフルト…ロスくらいか?」
「違うし!僕こんなに小さくないし!!」
「旭、少し休んできな」
「んー、だいじょうぶー」
「近衛!」
「はい!」
「旭を裏に連れてってくれない?」
「分かりました!」
「九条先輩、行きますよ」

 旭が裏に行ったことで蒼が表に出る。
 そして、再び起こるナンパの嵐。それをことごとく交わす蒼。

「お兄さん、こんにちは」

 無視する蒼。

「連れないなぁ。蒼くんは」

 名前を呼ばれ、誰だ?と顔を確認する。

「やっほー☆」
「由香里さん」
「覚えててくれたんだ。今年は旭くんと一緒じゃないの?」
「あー、いや、暑さでダウンしちゃって」
「え、大丈夫?」
「今は裏で休んでます」
「そっか。それよりさ、今年もお祭りがあるの。一緒にどう?」
「それは旭に聞いてみてからじゃないと」
「うん。もし一緒に行っくれるなら旭くんに伝えといて。ちーちゃんはもう恋人いるから狙っても無駄だよって」
「大丈夫ですよ。旭も居ますから」
「え、もしかして蒼君」
「違います」
「そっか。私達がそうだから旭くん達もそうなのかと…。うんじゃあ、安心だね!どうせお隣だしまた会えるでしょ。じゃあ夏祭りの件、よろしくね!」
「はい」

 由香里は千夏とボブの元へ行った。
 そして少しずつ人の波が減ってきた。

「近衛!」
「はい」
「近衛も休憩入っちゃって」
「いや、でも」
「いいから」
「それじゃあ、お先に失礼します」

 海の家で蒼とじじいの2人きりになった。

「桐生君、今年もありがとうね」
「いえ、楽しくやらせてもらってます」
「迷惑もいっぱいかけてごめんね」
「お気になさらず」
「妻も夏の時期以外は落ち着いてるんだけど、この時期になるとどうもおかしくなるんだ」
「ははは」
「それに孫も世話になってるみたいで」
「近衛は大丈夫ですよ。バイト命って感じだけど話せば普通だし、気が利くし」
「…近衛も懐いてるみたいだし少し話を聞いてくれるかい?」
「はい」
「近衛の父、私達の息子だね。息子は近衛が5歳の時に交通事故で帰らぬ人となってしまった。奥さん、近衛の母親はそれからおかしくなってしまってね、家に帰って来なくなった。気づいたときには近衛はご飯もろくに食べれず痩せぼそっていてね。それから近衛はうちで引き取って育てて、でも何か思うところがあったんだろうね。高校はこの家を出て一人暮らしをして今までにかかったお金はバイトして返すと言うんだ。私達はそんなこと望んでいないんだけど、ただ近衛が幸せに生きてくれれば良いんだけどね。でも今年会った時近衛の表情が明るくなってた。私達とも話すようになってくれた。これは、桐生君と九条君のおかげだと思ってるんだ。だから、ありがとう」
「いえ…」

 近衛の過去に言葉が詰まる。なんて返すべきか考えていると、裏から旭の声が。

「ふっかーつ!!!」
「先輩、うるさい」
「す、すまん」

 蒼とじじいは顔を見合わせ笑った。

「それじゃあ、お客さんも落ち着いたし九条君も復活したみたいだし桐生君も休憩行っておいで」
「はい」

 じじいは1人海を眺めていた。だが、おもむろに立ち上がり、海の方に走って行った。
 蒼はそんな姿を後ろから眺めていた。
 松代さんが若い男をナンパしているようでじじいは止めに行ったのだ。
 裏から戻ってきた近衛が声を殺して笑っていた。

「面白いですよね、あの2人」
「うん、そうだね」

 近衛は心穏やかそうな表情をしていた。

「じゃあ、休憩もらうね」
「はい、ありがとうございました」

 裏に行くと、旭と暁がいた。
 復活したはずの旭は何故か倒れていた。

「どうしたの?」
「近衛の後を追いかけて行こうとしたら足を滑らせて頭強打」
「馬鹿だなー。暁、旭の頭を冷やしてあげてくれる?」
「おう!」

 蒼がお昼ご飯を食べているところに暁は話しかける。

「あいつも結構ハードモードな人生だな」
「聞いてたんだ」
「うん。僕も親が居ないから辛いの分かる」
「そうなんだ」
「うん。僕は捨てられたんだ。名前だってなかった。ロスっていうのはギルが付けてくれたんだ」
「そっか」

 暁は過去を思い出しているのだろうか。頬を赤く染めて言った。


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