愛しの君へ

秋霧ゆう

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第2章

ロス 前編

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 僕の名前はロス。
 僕の持つ最初の記憶は、僕のような捨てられた子供が集まって生活する孤児院の記憶。
 僕は生まれつき目が赤いから、魔物と言われ皆から「早く死ねばいいのに」って言われてた。
 ご飯は1日1食貰えたら良い方で、毎日ちょっとのスープと黒焦げで硬いパンを食べて生きてきた。
 5歳の頃、教会で行われる魔法適正検査で僕は圧倒的な魔力を周囲に見せつけた。
 魔力が強ければ強いほど、周りは褒め称える。僕は嬉しくなって、先生や同じ孤児院で暮らす皆を見た。
 けど、皆の目から分かるのは大きな拒絶。聞こえてくる言葉は「気持ち悪い」「化け物」「やっぱり魔物だったんだ」とか。
 教会の人達はすぐに言葉を慎むようにとさとしていたけど、孤児院の人達は辞めようとはしなかった。
 
 魔力がある人は貴族だろうが、平民だろうが、僕のような孤児院の人間だろうが全員平等に教会所属の魔法士として育てられる。
 5歳で既に出来上がっている貴族と平民の壁。平民はまだいい。貴族からして親の居ない子供はさげすんでもいい奴隷だと思っているようだった。
 「あれを持ってこい」「これを持っていけ」「温かいお茶を注げ」ちょっとでも失敗したら、すぐに叩かれ、殴られ、熱々のお湯を、キンキンの水を頭から掛けられた。
 教会の魔法士達は見つけたらすぐに止めて、すぐに治療をしてくれる。
 けど、貴族に対しては特に注意をしているようには見えなかった。
 そうだろう。教会は貴族からの寄付金でどうにかなっている。貴族無しでは潰れる他ない。だから、僕達に「ごめんなさい」と謝りながら怪我を治すことしかしなかった。
 貴族達はそれも許せなかったらしい。
 僕達が怪我を治して貰っていると、乱入して教会の魔法士を連れて行ってしまう。
 そして、僕は光の魔法・回復魔法を覚えた。

 回復魔法は10年修行を積まないと習得出来ないというが、僕は1年で6歳の頃には習得していた。
 回復魔法を使える人は貴重で、少しでも使える男性は何歳だろうと戦場に駆り出された。女性は教会で民を治す役目があるので戦場には行かない。
 そして僕は最年少6歳で戦場に入った。
 同期の皆が温かいご飯を食べ温かい部屋で寝て、怖い思いなんてない、そんな場所で特訓するなか、僕は硬いパンを食べ、寒いテントの中でゴツゴツした地面の上、1枚の薄い布を掛けて寝て、沢山の人が死んでいくようなところにいた。僕の治療が間に合わなかったから、僕は沢山の人に罵られる、地獄のような場所で生きていた。

 でもある日、生活が一変した。
 戦場に駆り出されて10年。
 戦場に代替わりした新皇帝陛下がやってきた。兵士の指揮を高めるためだろうか。兵士が全員頭を下げ皇帝陛下は一人一人声を掛けていた。
 皇帝陛下は僕に気づくとすぐに僕の元へとやってきた。僕を見るやいなや、

「何故…何故子供がここに…」
「僕は、回復魔法が使えますので」

 焦点が消えたような、死んだ目をした僕を陛下は抱きしめた。
 周りの付き添え達は汚れるから離すようにと陛下を止めに入った。
 けれど、陛下は僕を離さなかった。
 そして僕は陛下が寝泊まりする豪華なテントに連れられふかふかのベッドで眠るようにと命令された。
 でも、寝れなかった。
 真夜中でも続く戦い。聞こえてくる悲鳴に僕はすぐに支度をして出ようとする。しかし、陛下と陛下の側近に全力で止められた。
 テレポートを使って戦場で回復魔法を使っていると、それを見た陛下の側近にすぐ連れ戻された。
 挙句の果てに縛られた。すぐに脱出するもまた縛られた。
 そして次の日、陛下は戦場の指揮官と話をしていた。何の話をしていたのかは分からなかった。けれどその日から僕は陛下の側近の1人として戦場から離れることとなった。

 陛下の最年少の側近となったが、僕の仕事は何も無かった。
 ただ、温かい部屋で温かいご飯を食べて、寝て、何も無い時間が流れた。
 何日も何日も何もない時間だけが流れた。
 たまに部屋の外に出て、花を眺め、木を眺め、外の温かな風が気持ち良かった。
 でもそれと同時に思ってしまう。戦場では今も沢山の人が戦っているのに僕はこんなところで何もしていない。それが僕は怖かった。
 この10年が僕を変えた。
 杖を持って外に出ようとすると、すぐに捕まり部屋に戻された。
 そんなやり取りを何度も行い僕は陛下に呼び出された。

「お前に良い話を持ってきた」
「良い話、ですか?」
「そうだ。戦争が終わった」
「…え?」
「ずっと終わらしたかったんだ」
「勝ったんですか、負けたんですか?」
「そうじゃない。私と相手国の王と話し合い、休戦…、いや、同盟を組むこととなった」
「同、盟」
「そうだ」

 頭がくらくらした。
 戦争が終わり、やっと安心安全な世界で暮らせるようになるはずなのに僕の存在価値が何もなくなったようで怖くなった。

「それでだ!お前、学校に行かないか?」
「…学校、ですか?」
「やりたいことが何も無いなら学校で沢山のことを学べ」
「もう魔法は学び尽くしました」

 僕はこの時点で帝国最強の魔法使いとして君臨していた。

「魔法だけじゃない。友は良いぞ」
「友?」
「ああ、私も昔は学校など行く必要が無いと思っていたが、いざ通うと共に競い、共に学び、共に遊ぶ。仲間は良いものだ」
「いえ、結構です」

 と、断ったはずだが陛下は毎日のように僕の元へと通い、僕を説得してきた。
 一月の間毎日通う陛下に僕は負けた。
 学校に通うことにした。

 けど、魔法学園に通っているのは、昔共に過ごした教会所属のメンバー。
 10年前、僕は戦争に行き皆はもう死んだと思っていたらしい。
 化け物が死んでくれたから戦争は終わったと思っていたやつもいた。
 

 こんなところで友なんて…。


 そう思いながら、淡々と毎日を過ごしていた。
 ある日、学校長に呼び出された。
 そこには、魔法学園の生徒会メンバーも居て僕を睨みつけてきた。

「こんにちは、君が救世の天使だね」
「何それ?」
「あれ、知らない?」

 救世の天使?何そのだっさいネーミングセンス。

「10年間、戦場を駆け回り沢山の命を救った子供。それは君のことだろう?」
「戦場には居たけど、沢山の命は救えてないです」

 これは本心だ。
 脳にこびりついている「お前のせいで友は死んだ」「お前は裏で回復魔法掛けるだけだから楽で良いよな」と言われた記憶。
 生徒会長が話を続ける。

「僕は戦争に行った人に話を聞いたんだ」
『あの時は親友が死んで気が動転していたんだ。あの過酷な日々を生きられたのはあの子がいたおかげだ。謝ることが出来るなら謝りたい』
『ずっと地獄のような時間だった。何度も死のうとした。でも、あの子を見る度に思った。私はまだ死ねない。あの子と同い年くらいの私の子供を戦争に送らせないために生きて戦わなければと思った』
『回復魔法、10年も習得に時間がかかるというのにあの歳で習得してこの戦いに来てくれてどんなに助かったか』
『あの歳でこんな残酷な世界を見せることになってしまった。謝りたかった。礼をしたかった。けど、戦争を長引かせあの子が来てしまったことが悔しくて何も話せなかった。今更遅いかもしれないが、何年も我々を救い続けてくれてありがとう』

 戦場の兵士からの手紙が何十枚もびっしりと書いてあった。
 僕は僕の存在理由が分からなくて無我夢中であの場に居ただけだった。
 戦場でも孤児院でも教会でも“ありがとう”なんて初めて言われた。
 僕はその場で崩れ落ち、涙が止まらなくなった。
 睨みつけてきたと思っていた学校長も生徒会の先輩達もハンカチを貸してくれて僕を抱きしめてくれて、背中をさすってくれた。
 誰も僕を睨みつけてなんかいなかった。
 僕が僕自身が僕を傷つけ、僕が皆を遠ざけていただけだった。

 数分後、僕は落ち着きを取り戻した。

「取り乱してごめんなさい。僕を呼んだのはそんな話をするためじゃないですよね?」
「うん、そうだよ。君には、毎年行われる魔法学園と剣士学園による対抗試合に参加してもらいたい」
「対抗試合?」
「そう。名前の通りなんだけど、毎年魔法士と剣士が戦うんだ」
「何のために?」
「来る日の戦いと信念のために」
「そうですか」
「それで、通常は2・3年だけなんだけど、君に参加してもらえないかなと」
「通常2・3年生だけなら僕は出るべきではないと思うのですが」
「でも君は最強だ」
「…」
「てか、是非僕らを助けてほしい!!!」
「……え?」
「僕らはずっと負け続けてるんだ。あいつら、生身の人間のはずなのに。魔法攻撃は基本効かない、魔法を使っているかのような動き。どんな体をしているんだ!!!」

 淡々と説明をしていた生徒会長だが、だんだんと様子がおかしくなる。周りの生徒会メンバーも学校長もずっと頷いている。

「頼む!!!」

 生徒会長は頭を下げお願いしてきた。
 これは命令ではなく初めてのお願い。

「わ…かりました」
「本当か!?言質はとったからな!!!」

 あまりにも一生懸命な姿に出ることを決めてしまった。
 僕に前を向く勇気をくれたのは、生徒会長が戦場の皆に会いに行ってくれたから。
 僕はもう大丈夫だ。
 皆のために頑張ろう。


 
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