愛しの君へ

秋霧ゆう

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第2章

ロス 中編

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 あの日から僕は背筋を伸ばして校内を歩けるようになった。
 僕が思っていたより、皆良い人だった。
 僕が対抗試合に参加することが決まり、先輩達は僕をにくむんじゃなくて応援してくれた。 
 同級生達は「1年なのに凄い」とか、同じ教会出身の人達は「あの時はごめん」と謝ってくれて「これからよろしく。そんで頑張れ」とも言ってくれた。
 昔、憎くてしょうがなかった貴族が一番に僕に謝ってきた。
 本当は僕がこの学園に入学してきた時点で謝ろうとしたけど僕が殺気立ってるように感じ近づくことが出来なかったっと言っていた。
 改めて挨拶をした。
 彼の名前はレイ。
 レイも昔は色々あったらしい。レイは貴族の父とメイドの母の間に産まれたらしく家では家族から疎まれていたらしい。今思えばあの日の魔法適正検査の時も1人だった。
 基本は誰かしら家族と来るのに。
 
 レイも、僕と同じだったんだ。

 それから僕はレイと共に過ごすようになった。僕はずっと戦場に居たから、色んなことに疎い。レイが僕の横に立ってサポートしてくれるようになった。

「対抗試合、頑張れよ」
「うん。ありがとう」
「剣士学園は動きが見えないって有名なんだ。どうするんだ?」
「う~ん。とりあえず、氷の部屋アイスルームで床を凍らす?」
「上級魔法じゃん。使えるのかよ」
「まぁね」
「でも床だけにな。客席までは凍らせないでくれよ」
「うん。気をつける」
「頼むからな!」
「うん」

 初めて友が出来た。
 レイの他にも僕に声をかけてくれる人は増えていった。
 いつも1人だった僕にはいつしか沢山の友に囲まれるようになった。

「最近楽しそうだな」
「陛下」
「友は出来たか?」
「はい、沢山」
「どうだ?」
「どうだ、とは?」
「いいものだろう」
「はい。それはとても」

 僕の表情を見て陛下は嬉しそうに笑った。
 そして遂にやってきた魔法学園と剣士学園の対抗試合。

「たたた、頼むぞ」
「皆で勝つんですよね」
「ああ」

 対抗戦は全部で7試合。
 勝敗は「勝・負・負・勝・負」。次の試合で負けたら僕の出番はなく魔法学園が負けてしまう。
 先輩が勝負に出た。

「しょ、しょ、しょ、召喚術・でよ!ファイアドラゴン!!!」
「ドラゴンだって!?」

 ドラゴンの召喚なんて僕にも出来ない。
 大量の魔力・体力の消費に体が持たない。
 それに召喚術は僕達人間の魔力でゲートを作り、そのゲートを通って召喚獣がやってくる。ドラゴンなんて存在するかも分からないのに、魔力が持つわけがない。
 剣士学園の生徒も笑っている。

「い、でよ!!!」
「まさか、成功したのか!?」

 目の前が煙で覆われた。
 煙はだんだん晴れてきたが、目の前には巨大な蟹が現れた。

「何で!?」

 思わず声に出た。

「先輩は!?」

 召喚に成功?した先輩はその場で倒れていた。相手剣士は蟹の下敷きになっている。
 先輩が危ないと思い、僕は浮遊魔法で蟹の隙間を通り先輩の元へ行き、救助した。
 コロッセオで見ていた観客は先生の指示の元、急いで外へ出るように伝えられた。

「う、うわー!!!」
「ギルベルト!?お前何やってんだ」

 剣士学園のやつが蟹に捕まってるようだった。

「わー」
「この声、レイ!?」
「助けてくれー」

 その場に居た先生、生徒が巨大蟹に攻撃を仕掛けるも鉄のような硬さで攻撃は通らなかった。
 そんな状況で僕はすぐにコロッセオの上空に飛んだ。

「水の中級魔法・水流ウォーターフロー

 水流は大量の水を召喚するというもの。
 戦場では水で敵の酸素を奪い溺死させるものだが、ロスはこの大量の水をコロッセオの中パンパンに入れた。
 そして、すぐに。

「火の中級魔法・火矢ファイアアロー

 蟹に向かって火の矢を撃ち込む。
 段々と熱くなるお湯に蟹はハサミを開いた。その隙に逃げ出すレイと剣士。

「あ、まずい。さっきの下敷き助けなきゃ」

 僕は自分自身にバリアを張り、下敷き剣士の元へ行き下敷き剣士にもバリアを張り、浮遊魔法で逃げる。
 空に上がると、蟹は茹で上がっていて、魔法士・剣士、皆から大きな歓声が上がった。

「レイは!?」
「ありがとなー!!!」

 僕は心底ほっとした。
 僕は地面に戻り、下敷き剣士を教会の人に渡した。
 僕も治療は出来るんだけど、教会が預かってくれた。
 その後、召喚術をした先輩も目を覚ましたようで僕に謝罪と感謝を述べた。
 するとそこに、

「お前凄いな!!!」

 さっきレイと一緒に蟹に捕まっていたやつだった。
 
「魔法の威力とんでもねぇな!!!」
「あ、ありがとう」
「お前、名前は!?」
「…」
「どうした?」

 僕には名前がない。
 僕のような捨て子で赤い目で不気味なやつは名前を受け取る資格はない。
 今までも名前をやる!と言われ皆につけられたけど、次第に「お前」と呼ばれるようになった。

「名前は…ない」

 こういうと、皆は1度黙って「そっか」という。そしてお前と呼び始める。
 それでいい。

「名前無いの不便だな。よし!お前のことはロスって呼ぶ」
「ロス?」
「おう、赤って意味だ」
「いや知ってるけど」
「何で赤?あ、もしかして蟹見て言ってる訳じゃないよね?」
「あ、当たり前だろ!お前の目、赤くて綺麗じゃん。だからロス」

 「綺麗」なんて初めて言われた。今までこの赤い目のせいで散々化け物と言われた。胸がキュっとなった。

「良い名前だろ!ロス」

 でも、こいつと会うのはまた来年だし、ロスって名前もきっと忘れる。
 僕はそれでもいいと思ってた。
 けど、次の年もその次の年もこいつは、ギルベルトは僕のことをロスと呼んだ。
 そんなギルベルトに影響してか、魔法士の友達皆が僕のことをロスと呼び始めた。国王陛下も僕をロスって呼び始めた。
 そんな皆から呼ばれる“ロス”が大好きになった。
 そして魔法学園も4年生となり、最後の対抗試合、僕とギルベルトは最終試合で戦うことになった。

「今年は負けねぇからな!!」
「昨年もそう言ってたけど、確か開始10びょ…」
「うるせー!」

 煽る僕に顔を真っ赤にして言い返した彼が僕のなかで何かが変わってきていた。

「今年は俺が勝つ!!」
「ふふん。やってみなよ」

 開始の合図と共に僕の方へ突っ込んでくるギルベルト。昨年と同じ戦法。馬鹿なのかな?

「火の初級魔法・火弾ファイアボール
「昨年と同じ方法では負けん!俺を学ばない馬鹿だと思ったか!?」
「思ってるよ!」
「なんだとー!?」

 ギルベルトはロスの火弾を軽やかに避ける。ロスがその姿に驚いていると剣士が使える瞬間移動のような力でロスの背後を取る。

「貰ったー!!!」
「ふふっ」

 ギルベルトが剣を下に振り下ろすもロスのバリアによって弾かれる。

「なっ!?」
 
 ギルベルトが驚いている隙にロスは電光石火の如く雷の魔法を駆使しギルベルトから離れる。しかし、ギルベルトも負けて劣らずロスから離れず攻撃を仕掛けた。
 だが、ロスの方が1枚上手。どんな攻撃だろうと軽やかに躱し反撃をする。
 その動きはあまりにも速くて観客を置いてけぼりにする。
 2人は1度距離を取った。

「強くなったね!ギルベルト!!」
「ハァハァ。お前はまだ余裕がありそうだな」
「だって僕は戦場で10年間生き延びたんだ。ちょっとやそっとじゃ負けないよ」
「そういや、そうだったな」
「ねぇギルベルト」
「何だ?」
「これから僕の最大の魔法を見せてあげる。この魔法に耐えられたら君の勝ちでいいよ」
「ははっ、偉大なる魔法使い様の力を俺なんかに見せてもらえるか。乗った!!」
「ギルベルトならそう言うと思ってたよ」

 僕は杖を前に構え呪文を唱え始める。

「おいおい、マジか」

 基本的な魔法は初級魔法・○○とか中級魔法・○○とかで済むのに対し魔法の前に長めに呪文を唱えるとなると超級以上の魔法となる。超級以上となると使えるのは今までの帝国の歴史の中でロスを含め5人しかいない。ロスの前の4人目に関しては100年以上前にいた偉人である。

「…全ての雷よ、我が元に。我の願いを聞き届けよ。我が名はロス。全ての雷を制御する者なり。神級魔法・雷神走破ライトニング

 この魔法は使い手の頭上に沢山の雲を集め、使い手を除き、雷を指定した場所にいる場所に落とし全てを焼き尽くす魔法。雷は人や物を通りどんなに広い場所であろうと必ず焼き尽くす。
 ロスが戦場で使っていた魔法であり、皆から感謝されることとなった最大の魔法である。ただし、魔力の消費が激しいため3日に1回しか撃つことは出来ない。
 学校の先生、教会の魔法士、観客の魔法士がすぐ客席に大型のバリアを貼った。
 そう、この魔法は人を貫通させる力。戦場でもバリアを張った敵兵士はいたが全て無意味だったと知るものは多い。魔法士達はこのバリアが聞くかどうかは一種に掛けだったが魔法を使った。

「はぁはぁ。あい…つは?」

 四つん這いになり、立ち上がることも出来ない程に疲れきっているロス。
 前を向くとギルベルトは立っていた。
 湧く観客。
 しかし、その3秒後ギルベルトは静かに後ろに倒れた。

「しょ、しょ、しょ、勝者は魔法学園最強のこのおと…」
「待って」
「は、はい?」

 ロスは杖に寄りかかって立ち上がった。

「僕が魔法を撃った時、ギルベルトはまだ倒れてなかった。僕が全力で撃ったこの魔法をギルベルトは耐えたんだ。だからこの勝負は僕の負…」
「待て!!」

 負けを宣言しようとしたロスだが、剣士学園の人により止められる。

「お前とギルベルトがどんな賭けをしてようが関係ない。あいつは倒れた。だからこの勝負は…」
「邪魔をするな!脳筋め」
「何だと!?」

 次に会話に割り込んだのはレイだった。

「この国の英雄が、偉大なる魔法士が負けと認めたんだ。お前らは静かにそれを受け入れればいいだろ!!」
「ダメだダメだ」
「なんでだよ受け入れろよ」
「それでは剣士の誇りが汚される」
「何だよ、剣士の誇りって」

 どんどん悪化する剣士と魔法士の言い争い。ロスはコロッセオの真ん中でこの言い争いを止めようとするも怒号がデカすぎて止めることが出来ずにいた。
 そんなカオスの状態にギルベルトも目を覚ました。

「あ、ギルベルト。起きた?この状況どうしたら…」

 ギルベルトは目覚めるやいなや、ロスにキスをした。
 いきなりの状況に意識がロストするロス。
 衝撃的すぎて、争っていた剣士、魔法士の全員が言い争いを辞め、口をポカンと開けている。

「この勝負、引き分け!!」

 ギルベルトが宣言する。

「ひひひ、引キ分けだ~」

 司会者も衝撃的すぎて思わず声が裏返る。

「失礼しました。引き分け、引き分けです!!!」

 盛り上がる会場。
 それからロスが目を覚ましたのは次の日だった。





 
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