愛しの君へ

秋霧ゆう

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第2章

第43話 夏休み・肝試し

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「せんせー、これから妖精部の活動するから朱音貸してー」
「ダメだ!」
「何で?だってせっかく、全員揃ったんだ。ついでに活動しないと」
「今朝のことを覚えてるだろ」
「そ、それは…」
「活動が終わったら先生に連絡してその後僕らがちゃんと送り届けるので」
「お前らも生徒なんだが」
「じゃあ俺も行くよ」
「お前な」
「今日はここに泊まる予定だったし皆が良ければ俺は大丈夫ですよ」
「はぁ分かった。けど、20時までに帰ってくること。分かったな」
「はーい。お母さん」
「誰がお母さんだ!!」

 そして、妖精部部員と奏汰はキャンプ場へと移動した。

「えー、みんなここで過ごすの!?」
「うんそうだよ」
「羨ましい!!私もここで過ごしたい」
「だーめ」
「高槻先生と約束しちゃったから?」
「それもあるけど朱音は女の子でしょ」
「でもお兄ちゃんが入れば安全でしょ」

 蒼と朱音、完全に2人きりの世界に入っていた。気まづい妖精部員達と奏汰。

「あ、あの」

 この気まづい雰囲気に話を切り出したのは近衛だった。

「昨年の夏の活動は何をしたんですか?」
「昨年…」

 昨年やったこと…。
 それは海の家のバイトして蒼が暁に前世のことを話して喧嘩した記憶しか出てこなかった。

「あー昨年はな…」
「夏休みは確か喧嘩して帰ってこなかった?」
「喧嘩というかなんというか」
「それで活動は」
「それは蒼が提出してくれたんだよな。なんて書いたんだ?」
「いや部長なのになんで知らないんですか」
「いやーあの時期は結構色々あってな」
「そうですか。で、蒼先輩どう提出したんですか?」
「あーあれは確か旭が海の妖精を見つけて側に居てもらえるようにアプローチしたものの関係は上手くいかなかった的なことを書いたかな」
「妖精見つけたんですか?」
「いや、それは……振られた話を思い出させるな…」

 一気に暗くなる旭になんとなく察した1年生達。

「じゃあ、今年はなんて書きます?」
「朝に私と康太が会った場所!森の妖精とかにする?」
「する、とかじゃなくね?」
「いやそれはそうなんだけど」
「よし!行くかー!!」

 やけくそになった旭。
 奏汰はというと部屋の隅で一言も喋らず座っていた。

「で、ここで何すんの?」
「妖精探し」

 そう言って探し始めて15分。

「もう嫌だー!!」
「朱音!まだ始まって15分だぞ」
「そんなこと言ったって虫だらけじゃん!こんなところに妖精なんて居るわけないでしょ!!!」
「分かった。じゃあ、二手に分かれよう」
「はぁ!?」
「朱音、康太、近衛。そして俺と蒼と奏汰さんだ」
「普通、私とお兄ちゃんと康太、旭君と兎田と奏汰さんみたいな分かれ方にするでしょ」
「良いんだよ。じゃあまたあとで!」

 そして、旭と蒼、奏汰は少し距離を取る。
 朝、高槻先生と別れキャンプ場に向かっていた時に旭と暁と蒼でとある計画を立てていた。
 1年生のドキドキお近付き大作戦!
 普段から週一でしか会わないし、部活動が終わると近衛はすぐにバイトに向かい、朱音もダンス部の練習に行くためあまり関係が良くないと思った3人は仲良くなるための肝試しを計画したのだ。

「3人にしちゃって大丈夫なの?」
「はい!俺達も3人の見える場所に待機してますし、ちゃんと仲良くなれるように仕掛けも用意してますよ。ケヘヘっ」
「悪い顔してるな~」
「朱音ちゃんは蒼君の妹なんだよね?心配じゃないの?」
「まぁ、うちの妹は強いですし妹ももう高校生ですからね。すきに恋愛して楽しく過ごしてもらえたらそれで満足ですよ。まぁ万が一妹が泣くようなことがあれば叩き潰すんですけどね」
「へ、へぇ」

 蒼のドス黒い表情に顔がひきつる奏汰。
 1年生サイド。
 妖精探しはせず恋バナで盛り上がっていた。

「え?九条先輩恋人いるって蒼先輩から聞いたけど」
「やっぱそうなの!?」
「俺聞いてないんだけど!!」
「だって一昨日旭先輩が恋人と誕生日パーティするからって蒼先輩、うちで泊まったし」
「一昨日って、3日…」

 康太はすぐに気がついた。
 3日がロスの、ギルベルトの恋人の誕生日であることに。
 そこに、暁は火の初級魔法で脅かす。
 1年生達は恋バナをしているが2年生達は肝試しをしているため、暁が魔法を使う。火の玉を出した。
 火の玉をすぐに気づいた康太。そして、それが魔法だとすぐに分かった。

「はっ、そういうこと。じゃあ俺勝ち目ねぇじゃん…」

 その光景を見てやっとロスが転生していることに納得した。
 康太が初恋が叶うことがないと悲嘆していると火の玉に気づいた朱音が叫ぶ。

「きゃー。早く、早く逃げるよ!!」

 朱音が康太と近衛の腕を引っ張る。
 涙目の康太。

「ちょ、え、どうしたの?怖い?怖かったの?それとも強く引っ張りすぎた?」
「いや…」
「えー大丈夫!?!?」

 朱音は動物や人は怖くないけれど、肉体が存在しないもの、幽霊や怪奇現象は怖いと感じる。それが森ともなれば怖さも倍増する。
 康太は思った。朱音は怖いはずなのに震えながらも前に引っ張ていくその姿がとてつもなくかっこよく見えた。
 失恋で動けなくなった自分を引っ張っていく朱音の姿が、前世のギルベルトと重なって見えた。辛い時に光り輝き皆を引っ張っていく後ろ姿がカッコよくて、あの時と同じ感情が再び湧き上がった。そのことに胸がギュッとなるのを感じた。
 その後無事脱出した3人。
 森を抜けると笑っている暁、蒼、旭。
 康太、近衛から手を離し、すぐに蒼に抱きつく朱音。

「怖かったー」
「もう大丈夫」

 朱音に手を離されて残念そうな康太。

「残念だったな」
「なっ、んなことねぇって」

 康太は恥ずかしそうに顔を真っ赤にして、近衛に反抗する。
 そんな姿を見て、1年生の仲が深まったことに嬉しそうにする旭であった。
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