愛しの君へ

秋霧ゆう

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第2章

第45話 修学旅行編1日目

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 テストも終わり修学旅行の日がやってきた。
 空港には8時30分集合。
 現在8時20分。

「えっとまだ来てねえのは九条と桃山と佐藤だが佐藤は残念ながら欠席だ」
「何でー?」
「体調不良だ。それで?桐生、九条はどこだ?」
「…知りません」
「はぁ?」

 いつも一緒にいる旭と蒼だが、今、蒼は集合しているのに旭は居なかった。
 数分前のこと、蒼と共に一度は集合場所に来た旭だったが転倒するおばあちゃんを見かけおばあちゃんを空港の職員さんに預けるといいどこかに行ってしまった。
 桃山が一緒に行くと言い任せたのが馬鹿だった。
 桃山は極度の方向音痴で今頃はどこにいるのか…。
 すると1本、電話が蒼の元に掛かってきた。

「もしもし」
「蒼~、迷った」
「だと思った。で?どこにいるの?」
「分かんねぇ」
「今目の前に何が見える?」
「えっと、第2ターミナル…」
「馬鹿なの?」
「え?」
「第2ターミナルは国際線。第2ターミナルには電車で行くしかないんだけど。乗ったの?」
「お、おう。桃が戻るにはこれが1番だって」
「桃のこと信じちゃダメでしょ」
「うわっひで~」
「とりあえず電車乗って第1ターミナルに帰ってきて」
「お、おう」

 そして電話を切った。

「先生」
「どうした?」
「旭と桃が第2ターミナルに行っちゃったらしくて迎えに行ってきます」
「いやいい。俺が行く。お前らだけだと心配なんだよ」
「あの~」
「何か!?」

 余裕を持っての集合時間にはしているが、もう既に全員集合している他のクラスは次々に搭乗口へ向かっているため取り残されるA組とC組とF組。
 そして他の先生から話しかけられる高槻先生。

「うちのクラスの生徒も第2ターミナルに居るらしくて改札で待つように伝えたので一緒に連れてきて貰えますか?」
「あー、分かりました。名前聞いてもいいですか?」

 そうして高槻先生は改札へ走っていった。
 数十分後。
 高槻先生のあとを旭、桃山、そして他クラスの生徒30人を連れて帰ってきた。

「多くね!?」
「いや~助かりました」

 A組は2人。C組は1人。F組は27人。

「ほぼ来てなかったじゃん。最初の集合時間で13人しか来てなかったってこと?」

 旭と同じように第2ターミナルに行ってしまった者、シンプルに第1ターミナルで迷っていた者、そして他校に紛れていた者を高槻先生が発見し連れてきたのだった。

「危ねぇ危ねぇ。つっきーが来なかったから俺福岡行ってたわ」
「つっきー言うな。で?全員揃ったな?じゃあ移動するぞ」
「はーい」

 A組、C組の生徒が移動を始める。するとF組の先生が声をあげる。

「えっ!?うちまだ揃ってないの???」

 F組の生徒が1人行方不明になってしまったそうだ。

「さっきまで居たよね!?」
「居ましたね」
「どこ行ったの!?」
「さぁ」
「さぁって」
「はぁ。山田先生、A組の生徒も一緒に連れてってもらってもいいですか?」
「もちろんですよ。それからF組の生徒も一緒に行きましょう」
「助かります。残り1人、西島を見つけ次第すぐに向かいますので。よろしくお願いします」
「はい」

 高槻先生、F組の担任森先生を残し搭乗口へと向かった。
 向かった時点でもう他のクラスの生徒はほぼ飛行機に乗り込んでいた。

「では御手洗に行きたい人はすぐそこの御手洗に行ってきてください。飛行機の中にも御手洗はありますが混んでしまいますからね。まだ出発には余裕があるので今行ってきて下さい」

 ぞろぞろと御手洗に向かい、全員がまた集合したところで飛行機の中へと入る。
 それから数分待つも、高槻先生達はまだ来ない。

「大丈夫かな?」
「さすがにもう…」

 すると汗だくになった高槻先生、森先生、そして西島が入ってきた。
 西島はどうやら腹痛になってしまったようで御手洗に行っていたらしい。
 他の生徒に伝えたが、その生徒は他クラスだったようで先に搭乗口へ言ってしまったのだとか。伝えられた生徒はその人が何組の誰なのか分からず伝えられなかったのだとか。
 ともあれ、何とか修学旅行の北海道へ旅立つことが出来たのだった。
 飛行機が遂に動き出し興奮する旭、桃山、矢島。

「う、動いだぞ!!」
「外!外どんなの?まだ地面じゃん…」
「これから飛ぶんだよ」

 興奮しっ放しの3人に怒りたくても席が遠くて怒れない高槻先生は振り返り蒼に目配せする。
 
「はぁ。3人とももう少し静かにして。僕たち以外にも人が乗ってるんだから」
「わ、悪ぃ」

 声量は小さくなったが動きは大きかった。
 でもまぁ静かになったし良しとする蒼だった。
 だが、飛行機が地面から離れるとまたもや騒ぎ出す一同。そんな状態に高槻先生は再び蒼に目配せするも諦めてくれと言わんばかりの表情に嘘だろと顔をしかめる高槻先生。

「地面がどんどん小さくなってんぞ」
「俺の家見えるかな」
「見えねぇだろ」
「見えるかもしんないだろ」
「つうか、蒼はともかくとして久我は何でそんか静かなんだよ!!」
「もしかして怖いんですか~?」
「は?飛行機なんて何度も乗ってるし今更何とも思わないんだけど」
「お前…裏切り者かー!?」
「うるせぇっ!!!」

 遂に高槻先生がキレた。
 あまりにも騒がしくしすぎたようだ。
 先生の怒号に静まる機内。
 そして焦ったように周りに謝る高槻先生。

「やばくねぇか?」
「これあとで怒られるパターンだろ」

 そして、機内で歩くことが許可されると高槻先生はすぐに旭達の元へとやってきた。

「お前らな」
「だって初めての飛行機だし…」
「限度がある。桐生、こいつらのお守りはお前の担当だろ」
「お守り!?ひっで~」

 そう言うと高槻先生に睨まれる旭たち一同。

「はぁ。頼むぞ桐生」
「出来る限りはやりますよ」
「出来る限りじゃなくてやれ」
「はぁ、分かりましたよ」

 そして高槻先生は自分の席へと帰って行った。周りの人に謝りながら。
 その後は特に騒がず無事、北海道へと辿り着いた。

「北海道ー!」
「寒ぃ」
「向こうじゃまだ学ラン要らねぇけどこっちは必要だな」
「A組は4号車のバスに乗れ!」
「うーす」

 バスの行き先はホースパーク。

「馬・馬・馬!!」
「初めて見たな!馬」
「乗りたいね~」

 馬に興奮する矢島、桃山、久我。
 一方、旭、蒼、暁は前世嫌という程見たため弱そうとしか思えなかった。前世で見ていたのな軍馬であり、戦場に生き、戦場で死す。戦場を駆け抜ける馬をよく知るため、ひ弱な馬を見ても胸の高鳴りのようなものは何も無かった。
 時間は経ち、次は昼ごはん。

「昼ごはんはジンギスカン!」
「なんだろうな…。ジンギスカンは羊だけどなんかくるものがあるな」
「さっきまで元気な馬たちを見てたもんね」
「なんだこの地獄…」

 などと話していたが、一口食べると先程見ていた動物達のことは何一つ考えず肉を平らげていった。しかし、

「桃、食わねぇの?」
「うん。ちょっと苦手かも」
「じゃあもーらい」
「うん。むしろ食べて」
「何が苦手なんだ?」
「臭み?かな。豚とか牛とかと違う感じ」
「そっかー。じゃあこっちの野菜は?」
「それも臭いが付いちゃってて無理かも」
「そっかー。あとで何か食うもん探すか」
「うん」

 そして昼食の時間も終わり食べ終わった班から自由行動になった。
 2時間もあるパーク内での自由行動。

「お前ら!自転車借りようぜ。5人乗り」
「おもしれぇ」

 他の班メンバーも自転車を借り、走り回っている。それに便乗したがったのは矢島だった。

「俺が先頭」
「いや俺が目つけたんだから俺が先頭」

 この自転車縦に並ぶタイプのため、旭と矢島が言い争いをしている。
 なかなか決着がつかないため、蒼、桃山、久我は3人でジャンケンをし、先頭に桃山、2番手に久我、3番手に蒼が座った。

「しゅっぱ~つ!」
「ちょ、待てよ」

 3人で出発したため追いかける旭と矢島。だが、走りながらの乗り込みは危険のため、絶対にしないようにと最初に説明があり2人は3人が止まってくれないと乗れなくなった。
 でもどうしても乗りたかった矢島が危険な乗り込みをし見事に転け、たまたま通りかかった先生に怒鳴られた。
 矢島がやったことであり、4人は関係ないと先を行こうとするも、連帯責任で怒られた。
 そして、先生も一緒に回ることとなり、全力で楽しめずに時間はあっという間に終わった。

「悪かったお前ら…」

 最後に一言謝った矢島であった。
 飛行機で怒られ、ホースパークで怒られた一同はホテルまでのバスでは静かだった。
 ある意味心配になる高槻先生だった。
 ホテルに着き、指定された部屋に入る。
 夕食の時間までは自由時間になった。

「俺らは2人部屋だな~」
「そうだね」
「3人だろ」
「じゃあな!」

 ガチャン。扉を閉めた。

「楽しかったな~」
「そうだね」
「朝から大変だったな蒼」
「うん」
「旭が迷子になって、先生から怒られて。蒼はお守りだもんな」
「旭のお守りは暁がやってもいいんだよ?」
「いや遠慮しとく。僕はこれから行くとこがあるんだ」
「どこ行くんだ?」
「ふふんっ。今日は札幌で『  』のライブがあるんだっ!!!」
「金払えねぇのに?」
「それはそれ。別にいいじゃん」
「いやダメだろ」
「僕の姿は旭と蒼にしか見えないんだよ。誰にも見られないんだから大丈夫だよ」
「見えないとしてもそれって犯罪だろ」
「なんだよー、別に良いじゃんか!」
「お前それでも最強の魔法士かよ」
「はぁ!?」
「父親が国王で法律を厳守するのが俺たちの役目だろ」
「そんなの前世の話じゃん。今の僕達には関係ない」
「魔法士としての誇りはもう無いのか」
「そういう旭だって」
「俺が何したって?」
「いつもいつも女の子にデレデレしちゃってさ、剣士の誇りなんてとっくに捨ててる癖に!!今更何言ってんだよ!!!」
「俺には前世みたいな力はねぇけどお前はまだ違うだろ!?」
「剣士なんて魔力がなくたって努力次第でなんとかなるだろ!!旭はいつも、いつもいつもいつも食って寝て食って寝て、勉強だって蒼と僕が居なかったら何にも出来ないクズだろ!!」
「お前なっ!!!」
「ストップ」
「蒼は黙ってろ」
「そうは言ってらんない。廊下に先生と矢島達が来てる。声デカすぎだし、喧嘩はとりあえずストップして。あと、暁」
「何だよ」
「クズ呼ばわりはちよっと言い過ぎ」
「それは…」
「そして、旭。前世と今世を混ぜるな」
「けど」
「じゃあ僕はずっと旭を殺した人殺しだ」
「それは違うだろ」
「前世と今世が一緒だと言うならそういうことになるんだよ」
「わ、悪い」
「…じゃあ、先生達に説明に行こう」
「おう」

 旭と蒼は廊下に出た。
 暁は黙って『  』のライブに向かった。
 その後、喧嘩し部屋で騒いでしまったことを謝罪し、夕食の会場へ向かった。
 そこには山盛りになった蟹があった。

「好きなだけ食えー」
「待ちに待った蟹だー!!」

 数十分後には蟹の殻が山盛りになった矢島、桃山、久我のお皿とそれなりに食べている蒼の皿と全然食べていない旭の皿が並んだ。
 食べ終わった者から部屋に戻るように言われた。
 旭は全然食べずに先に部屋へと戻ってしまった。

「なぁ桐生、相談があるんだけどいいか?」
「うん?」

 そして部屋に戻った一同。
 旭の部屋に入ってきたのは矢島だった。

「矢島?何で??」
「お前らさっき喧嘩してたじゃん。この後絶対過ごしずらいし、桐生と変わったんだ」
「そうか」
「俺の部屋で暗い顔は許さねぇぞ!!」

 と言うと、枕を旭の顔面へ投げた。
 そして始まる2人だけの枕投げ。
 そしてその部屋の前に立つ高槻先生。
 この後2人はこっぴどく怒られたのだった。




 



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