愛しの君へ

秋霧ゆう

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第2章

第47話 修学旅行2日目

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 今日は班ごとで一日の流れが違う。
 旭達は午後にリバーカヤックをやるため、今は生キャラメル、アイス作りをしている。
 本来は楽しい時間のはず。
 他の班は楽しそうに失敗している。

「なぁ、そろそろ仲直りしてよー」
「…」

 蒼は別に喧嘩している訳では無いため無視。暁は蒼の肩に乗って黙っている。旭は暁の方を見ては下を向き、また見ては下を向く。

「はぁ…」

 矢島、桃山、久我はため息が出る。
 
「次はこの皿に各々好きな絵でも文字でも書いて自分だけの記念品を作れ。ペンは机にあるのを使え」

 桃山は絵が上手い。班のメンバーの特徴を捉え、可愛くした絵を描いている。
 久我は字が綺麗。カラーペンのはずなのに何故か筆のような綺麗な文字で書いている。
 矢島は北海道に関する物を字と絵で描いていた。
 
「なぁ桐生。それ何だ?」
「え?どれ?」
「どれっていうと全部だけど。じゃあこれ?」
「あぁこれ妖精」
「…は?」

 蒼は絵が下手。画伯。

「このにょろにょろしてるのは?」
「頭」
「あ、そう。じゃあ頭の横のは?」
「え?腕」
「そ、そっかー」
「よ、妖精ってことは羽つけるでしょ?羽つけたらもっと可愛くなるんじゃない?」
「妖精に羽はないよ」
「妖精って言ったら羽あるだろ」
「ないよ」
「まぁ思い描く妖精は人それぞれか」
「九条は?」
「ん?」
「何書いてんだよ」

 桃山と矢島が旭の皿を見る。

「おぉ」
「桐生のを綺麗したバージョンみたいな」
「まさしくそれだ」
「こっちにも羽は無いのか」
「妖精に羽は無いだろ」
「そうなのか?」
「妖精部が言うんだから間違いないね」

 そして完成した。
 久我は最後まで黙々と字を書き続けた。
 そして昼はまたジンギスカン。

「うぇ。また食べれない」
「やっぱ無理かー」

 各々で肉が乗ってる皿が目の前にあるも桃山は全て旭と矢島と久我に託していた。

「桃ごめん。僕も沢山はいらないかも…」
「そっかーごめんなー」
「昨日はテンション上がってたしお腹すいてたから食べれたけど今日は無理かも」
「九条は食えるか?」
「ああ!」

 そして肉は全て旭と矢島が平らげた。

「野菜も無理か?」
「うん。臭いがついてて無理そう」
「でもこの後運動だけど耐えれるか?」
「大丈夫」
「お菓子は色々持ってきてるからこっそり食べる」
「分かった。もし辛くなったら言えよ」
「ありがと」

 昼食も終わり、午後の体験、リバーカヤックの時間となった。
 リバーカヤックとは端的に言うと川下りである。
 座る場所は事前に決めていた。
 先頭に旭と蒼。その後ろに久我と桃山。その後ろに矢島と佐藤。
 だが、乗る直前に暁が蒼にコソコソと話し、蒼は矢島と席を交代することになった。

「おいっ」

 旭は蒼の肩を強く掴む。
 暁に対して言った言葉だったが、周りからは蒼に言ってるように見える。

「九条ー、席に着けって」
「お、おい」

 矢島が旭を移動させる。
 楽しい楽しい修学旅行のはずなのに旭と蒼…。本当は旭と暁なのだが、ギスギスした雰囲気に矢島、久我、桃山は心の底から楽しめそうになかった。
 だが始まってしまえば、それはそれは楽しいものだった。
 旭と蒼の席が離れたこともあるだろう。
 旭の表情は少し暗かったものの、水の流れが早くなりスリルを味わい、農場のすぐ側を流れているのか臭いがキツイとこを通ったり。それはそれは盛り上がった。
 その後はホテルに戻り、部屋は昨夜と同じで旭と矢島が入る。

「お前らなんでそんな喧嘩してんだよ」
「…」
「せっかくの修学旅行。高校生活最初で最後の修学旅行。それも明日で終わり!明日の自由行動は暗い雰囲気じゃなくて楽しく終わりたいんだよ!」
「あぁ」
「…それじゃあ今すぐ仲直りしてこい!」
「…は?」
「俺は久我と桃を連れて売店に行ってくる。その間に九条と桐生は仲直りしろ」
「分かった」

 旭が蒼と暁。ついでに久我と桃山が居る部屋の前で深呼吸をする。
 コンコン。扉を叩く。
 桃山が扉を開き、旭の表情を見てすぐさま久我を連れ出す。

「仲直りすんだぞ~。仲直りするまでこの部屋には帰ってこないから安心しろ」
「悪いな…」
「良いってことよ」

 桃山と久我は矢島と共に売店へ。
 旭は部屋に入り扉を閉める。
 ベッドに座りテレビを見ている蒼と静かに蒼の肩に座る暁。
 暁を見て、旭はすぐに頭を下げた。

「悪かった、俺は嫉妬したんだ。お前には俺が居るのに最近のお前は『  』の奏汰に夢中になってて、酷いことを言った。ごめん」
「…僕こそ、ごめん旭」

 旭の謝罪を聞き、暁は旭の目の前まで飛んでいき、旭に謝った。

「『  』は昔の僕たちに似てて、大好きだった。あの時間に戻れたような気がして。旭だから、ギルだから良いのに。僕は、それを、分かって、なかった」

 涙ぐみながら暁は話す。

「何があった?」
「昨日1人でライブに行って、そしたら、あいつ僕らを馬鹿にしたんだ」
「え?」

 遡ること22時間前。

「今日は僕のソロライブに来てくれてありがとー!!しかも、今日はデビューしたての時からの、猫をかぶり始める前からのファンだけのライブだからね」
「…猫をかぶり始める?」
「この前ね、母校のダンス部合宿に行ったんだ。部員とか僕…俺を見るなりキャーキャー騒いで。気持ち良かったー!野郎共はうるさかったけど」
「あはは」

 観客の笑い声が飛ぶ。

「それでさ、妖精部とかいう妖精を探す部が出来たらいんだよね」
「僕たちのことだ!」
「妖精部、何する部だと思う?」

 「分かんなーい」「教えてー」観客からの言葉を返す。

「妖精を探す部なんだと。ハハハッ。高校生にもなって妖精探しだと。頭イカれてんだろ。妖精なんて存在する訳ねぇだろって」

 この言葉に会場全体で笑いが起きる。

「妖精探して何が悪い…」

 暁の声は誰にも届かない。

「それでその部活には熊を素手で倒せる女が居るんだとか。嘘言ってんじゃねぇよ。そのまま食い殺されろってな。あーでもその女は良い体してたなー。食えば良かったか」

 その言葉に対してもまた笑いが起きる。

「2年は1年の恋愛に首突っ込んで、馬鹿じゃねぇの?夜の森で妖精探してついでにくっつけさせようとしててさ。その時、俺はこう思ったね。熊が出てきて、こいつら殺してくれねぇかなって」
「なんで、なんでそんなこと言うんだよ…」
「あーそれから、これも言っとかねぇとな」
「?」
「今日のこの話他言無用だぜ。絶対SNSに書いたりするなよ」

 奏汰の本性に暁はすぐにライブ会場から出た。

「ごめん。ごめん、旭。…僕は仲間を傷つけるやつは十倍返しにしないと気が済まないんだ」

 黙って話を聞いていた蒼が一番切れていた。愛する妹を侮辱したからだ。
 すると急にテレビで『  』の奏汰の速報が流れた。

「僕は許せなかった。本当に許せなかった。だから、やり返してきた」
「そうか。…え?やり返してきた?」
「うん。僕はもう魔法を使えるんだよ。魔法と現代の技術を使ってその時の映像をDVDに保存してテレビ局や週刊誌に匿名で送ってきたんだ」
「えげつねぇ」
「良いだろ。国を部活を支えるのは部長のパートナーである僕の役目だ」
「ははっ、だな。ありがとな、暁」
「おう!」

 その後、ネットでは「ありえない」「気持ち悪い」「二度と姿を現すな」他にも何千と言葉を受け奏汰は活動休止となった。
 
 そして、旭と蒼が部屋を出ると、そこでは先生に怒られてる矢島の姿があった。
 売店から戻る途中、他校の女子生徒を見てナンパをしに行こうとしたらしい。女子生徒の後ろをコソコソと動く姿に女子生徒は恐怖を覚え叫び、先生が出動し騒動となり、矢島と先生は謝罪しに行ったらしい。
 そして怒られ始めて10分が経ったそうだ。
 怒られているにも関わらず、部屋から出てきた旭と蒼のにこやかな表情を見て、矢島は笑ってしまった。
 そしてまた怒られるのであった。
 









 

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