俺と可愛い死神

ヴルペル

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俺から見た世界

八日目

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「おはようございます」

早起きをして支度を済ませ、会社に行く。
 朝ごはんを会社で食べることにした俺は課長の机に先日仕上げた書類を置き、付箋で要件を書きまとめた。

昨日できなかったか自分の仕事を早めに終わらせて早く帰りたい一心でパソコンを起動し、システムを入力していく。
後ろが何やら騒がしくなっていく、パソコンから目を離して室内を見渡すと結構な人数が出社していた。

「ねぇ……あれ……ふふ」

「え?  あ!  ほんとだ……くすくす」

チラチラと視線が送られる。
何か嫌な感じがしたが、俺は仕事を片ずけることを優先させた。
肩を強めに叩かれ、驚いた俺が見上げると課長が後ろに立っていた。

「君。ちょっといいかな?」

「あ……はい」

資料の確認だろうか?  俺は課長の席に言われるがままついて行った。

「資料作成お疲れ様!  後で確認しておくよ」

「え?  あ……ありがとうございます」

「ところでさ」

さっきまで笑顔だった課長が打って変わって険しい表情で耳打ちしてくる。

「君。女性社員に手を出して泣かしたって本当か?」

「え???」

俺が女性社員に手を??  そんなわけない。今まで彼女がいたことすらない俺にそんな勇気はない。
必死に違うことを伝えようとするが、上手く言葉が出てこない。口下手な俺が何を話しても言い訳にしか聞こえなかった。

「ある女性社員がな?  お前に手を出されたと言ってきたんだ。証拠もあるから下手に嘘つこうとしたらすぐ分かるからな」

証拠も何も俺は本当に何もやっていなかった。
肩を強めに押さえつけられ威圧される。俺はただ頷くことしか出来なかった。

「次からは絶対やらないように。あと女性社員がお前のこと警戒してるからむやみに近づくなよ」

課長は言いたいことだけを言い残し、俺に席に戻るよう伝えた。
全く訳が分からない。二日連続で課長から呼び出しを食らうなんてなんて不運なんだ。俺は自分の運勢を呪った。

朝から無駄に精神を消耗したので珈琲を飲んで切り替えようと休憩室に向かうが、室内から大きめの話し声が聞こえてきた。

「お前聞いたか?  あの話」

「あー!  知ってる!  あれだよね!」

「あいつも不憫だよなぁ(笑)  セクハラ疑惑なんて(笑)」

「そうそう(笑)  しかも資料全部やり直しのやつさ!  元々の資料って別の企画に回したんだろ?  課長の小野田さんもよくやるよなー(笑)」

楽しげに俺の悪口を話している。資料が別の企画に……?
俺が頑張って作った資料が俺以外のやつが自分が考えたものとして発表したのか??

俺は休憩室に背を向けて自分の席に戻る。嘘だ。絶対に嘘だ。俺の話じゃない。そうだよ。だいたい俺の名前も出していたかったじゃないか。

自分の心を宥めるように別の人間だと思い込むようにした。
だが、別の人間が俺と同じような目にあっているとは思えない。
俺は自分の仕事に没頭してさっきまでの話を聞かなかったことにした。

「っしゃ!!  終わった!」

自分の仕事が終わり、久しぶりに定時で帰れる喜びをかみ締めていた。
外はまだ明るいし、社員の方も何人か残っている。

「お先に失礼致します!  お疲れ様でした!」

そう言うとカバンを持って足早に退勤する。
以前、終わったあとにのんびりコーヒーを飲んでいたら仕事を追加されたからだ。もう二度とそんな役はごめんだ。

「おーい!!」

後ろの方から声をかけられたが、俺は無視して早足で家に帰る。

「待ってってば!!  ねぇ!」

しつこいと思い俺は鬼の形相で振り返る……が
そこには小さい足で息を切らしながら必死に走っている死神の姿だけであった。

「もう!  待ってってば!!  ちょっ……もう無理……」

パタッと地面に倒れ込み息を切らしている死神に俺は心配になり、駆け寄って抱き抱えてやる。

「置いてくなんて酷いなぁ……今日もざんぎょー?  かと思って待ってたのに」

「ごめんって……」

あの時は会社から逃げるしかなかったことを伝えると、死神は分かったふうに頷いて許してくれた。

「ところでさ?  お願いがあるんだけど……」

死神は目をきらきらさせながら俺の腕の中でオネダリポーズをとっている。なにか企んでないといいが……
俺は無愛想に返事を返した。

「なに?  俺ができないことはダメだからな?」

「僕ね!  レシピ本が欲しい!!」

「レシピ本?」

「そう!!」

俺はいまいちピンと来なかったが、死神がキラキラした顔で話し続けた。どうやら社内で彷徨いていた時に偶然料理の話が聞こえたらしく、聞いたことの無い料理で一度作ってみたいのだとか……
料理本には色々な料理の作りかたがわかりやすく書いてあるから是非とも欲しい!  との事だった。

別に俺としては美味しいご飯を作ってくれるに越したことはないし、二つ返事でOKした。

帰る途中近場の本屋に寄って死神が色々な料理本を吟味した後買ってあげた。

家に帰ると、死神が嬉しそうにページをめくる。次はどんな料理を作ってくれるのか……
明日からのご飯が楽しみだ。
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