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俺から見た世界
九日目
しおりを挟むキッチンから物音が聞こえて目が覚める。
鼻歌交じりに食器の重なる音も聞こえてくる。
俺は重い体を起こして台所に向かうと楽しげにレシピ本を開きながら鼻歌を歌う死神が居た。
「あ! おはよ!!」
死神がこっちに気がついて、ニコニコと笑っている。
「この本すごいね!! 僕の知らないものばかり! どれも美味しそう! ねぇねぇ! どれ食べたい!?」
ペラペラとページをめくりながらヨダレを垂らして、俺に見せてくる。
「んーじゃあトーストとスクランブルエッグお願いしようかな?」
「おっけー! 任せてよ!」
トーストのページを開いてすぐ準備に取り掛かる死神。
また火傷しそうで心配そうにソワソワしながら見守っていたら、死神から台所を追い出されてしまった。
(一応俺の家なんだけどな……)
しばらくすると死神がトーストとスクランブルエッグが乗ったお皿を持ってくる。
パンは少し焦げていたが、食べれないほどではなく、スクランブルエッグはちゃんとふわふわに仕上がっていた。
今日もいつも通り死神の作ってくれた美味しい朝食を食べて出勤する。
オフィスに入るとまたジロジロと見られた。俺は動物園の動物じゃないのに……
パソコンを開いていつもと同じように仕事を始めると、背後に人の気配がする。
気のせいかと思い、初めは無視をしていたが、気配が消えない。
嫌な気配を感じ、後ろを振り返るとまた課長が立っていた……結構睨みながら。
「君。ちょっとこっち来て」
いつもと違い、口調が少し荒い気がする。
俺は言われるがままついて行ったが、個室に案内され、俺が入った途端扉に鍵を閉めてブラインドを下げた。
「おい。俺が昨日言ったこと覚えてるよな?」
? 唐突に言われ一瞬ぽかん。としたが、すぐに気を取り戻し冷静に答える。
「はい」
「言ってみろ」
「昨日は女性社員に近寄らないように言われました」
「その他には?」
「? 二度とこんなことをしないように……と……」
「ちゃんと覚えてるよな? ならなんであんなことをしたんだ」
「?????」
課長の言っていることが理解できず、しばらく考えようとしたが、スネを思い切り蹴られた。
「っ……!」
思わず痛みで足を抱え込むようにしてしゃがむ。
次の瞬間お腹に鋭い痛みが襲ってきた。
「二度とするなって言ったよな」
「っ………はい」
「じゃあなんで昨日の夜女性社員を無理やりホテルに連れ込んだんだ」
「……はい??」
訳が分からない。俺は昨日真っ先に帰った。なんなら寄り道をしたとしても本屋くらいだ、それがなんで夜にホテルなんて……
髪を鷲掴みされ、無理やり上を向かされる。
「おい! なんでそんなことやってるか聞いてるんだよ俺は」
「……身に覚えがございません……」
「嘘つくな! そんなわけが無いだろ! 被害届も出てるんだぞ! こっちは!」
「本当に……知らないんです。俺は……」
必死に痛みに堪えながら訂正する。何せ身に覚えがない話なのだから疑われる方がおかしい。何かの間違いだ。
「この写真見てもそう言えるのかよ!!」
そう言われ見せられた写真はホテルの前で肩を抱いてホテルに入ろうとする男女。女は確かに見たことがある。同じ部署の女性社員で間違いない。
だが、男は……俺と後ろ姿は少し似ているが、俺じゃない。
体格が違うのだから。
「どうなんだよ! えぇ!? 否定できないだろうが!」
「違うんです……よく見てください。俺じゃありません……」
必死で涙を堪えながら訴えるが、努力も虚しく信じて貰えない。
「言われたことも守れない! 仕事もできない! お前には何も無い! 一体お前は何が取り柄なんだ! 生きてる価値もない無能が!!」
写真を床にたたきつけ、鷲掴みしていた頭を下に振り下ろす。
ブチブチと髪の毛が抜ける音がした。そのまま課長は大きな足音を立てながら部屋を出ていった。
何度見てもこの写真は嘘だとわかる。そんなに俺を加害者に仕立てあげたいのか……?
俺は服装が乱れていたので軽く整えて、個室を出た。
先程より視線を感じた。みんなが俺を見て笑っているのがわかる。
もう辛い。俺を見ないでくれ。一人にしてくれ。
パソコンを開いてさっきまでの作業に戻ると、頭から熱いものをかけられた。
「あら? ごっめんなさ~い? 手が滑っちゃって~許してくださいね! すみませんスーツを汚してしまってぇ? これで良かったら拭いてください!」
ボロボロになった雑巾を手渡された。
背後から笑い声が聞こえてくる。
なんでいるの?
ざまぁみろ
すっきりしたー!
分相応だよね
早く死ねばいいのに
なんでここまで言われなきゃならないんだ……
なんで……なんで!
会社から抜け出し、逃げるようにして家に駆け込む。
布団を頭からかぶり、叫び出したい程の感情に蝕まれる。
扉からノック音が響いた。
「ねぇ? 大丈夫? 何か食べた方がいいよ? あ! 僕今日カレー作ったんだ! 分量がわからなくてついつい作りすぎちゃってさ! 良かったら一緒に食べよ……」
「なぁ……部屋から出てってくんない?」
「……え?」
「だから……部屋から出てけっつってるんだよ!」
死神に向かって怒鳴り声を上げた。
死神は顔を真っ青にして表情が引きつった。
気づいた時にはもう遅かった。死神は耳としっぽを伏せるようにして項垂れる。
完全な八つ当たりだって俺は分かっていた……分かっていたがどうしても我慢できなくなっていた。
死神は傷ついた顔で扉に手をかけた。
「あ……ごめんよ……」
ゆっくりと扉が閉められた。
俺は一体何をしてるんだよ……死神は悪くないだろ……
罪悪感と苛立ちで胸が張り裂けそうだ……
その日は一晩中布団に向かって泣き続けた。
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