俺と可愛い死神

ヴルペル

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俺から見た世界

十日目

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今日俺は死神と口を聞かず家を出た。
口を聞かなかったというか、死神は家にいなかったので避けるようにして会社へ向かう。

会社に行ってもまた笑われるだろうが、今は家にいる方が苦痛だった。
死神に八つ当たりをしてしまった。
その罪悪感が拭いきれない。思い出しただけでも胸が痛くなる……俺は申し訳の無さに押しつぶされそうになっていた。

もし、もし帰って死神が居たら……謝ろう。
謝って許されることではない。
分かっていたが、謝らないと気がすまなかった。

いつものようにパソコンを開いて仕事を始める。
今日は課長の姿が見当たらず、何か言われることなく始められそうで一安心した。

資料を印刷するためにコピー機に向かったが、印刷をする紙が足りなくなったのでコピー機に紙を入れ直す。

女性社員が笑いながらこっちに歩いてくるが、俺を見た瞬間小さく悲鳴をあげ、汚物を見るような目で睨んで足速に去っていく。

「やっば……最悪なんであんな所にいるの。気持ち悪い」

少し離れていたところで呟いたつもりだろうが俺にはバッチリ聞こえていた。いや、わざと聞かせていたのかもしれない
印刷をし終えて席に戻ろうとすると人とぶつかってしまった。

「う~わ、最悪ぅ~触っちゃった。ばっちぃ」

あからさまに嫌な顔をされた。ぶつかった衝撃で手に持っていた書類がバラける。急いで拾い集めるが、書類を踏まれた。

「あ~?  こんな所に紙が落ちてたんだぁ?  ごめんねぇ?  気づかなくてつい踏んじゃた!  拾うの手伝ってあげるね!」

汚いものを持つかのような手で次々と書類を拾い上げられる。

「うわ。何これ……大切なものかと思ったらただのゴミじゃん」

そう言われると書類が目の前で破かれた。一枚。二枚三枚。
ビリビリに破かれた紙が目の前で紙くずとなって舞落ちてくる。

「これでよし!  あとのゴミの片付けよろしくね!」

ヒールを履いた靴で紙くずの山をグリグリと踏んずけて去っていった。
それから何度も印刷をし直すが、その度にコーヒーをぶちまけられたり、破かれたり、俺のパソコンをいじって書類の内容を変えられたり。
散々なものだった。

何度やれば気が済むんだ。俺がお前に何をした。
俺はもう何もかもが嫌になり、机に突っ伏したまま思考を停止させる。
後ろからヒールの音がした。

「あっれぇ?  仕事もしないで居眠り?  いいご身分だこと!  あんたの仕事が私たちにも回ってるの気が付かないわけ?  本当に迷惑なんですけど」

「目障りだから消えてもらえる?」

プツンッ

俺はなにかが吹っ切れた気がした。
頑張って支えていた紐がプツリと音を立てて切れた。

(……このフロア何階だっけ?)

後ろから声をかけられているが俺の耳には全く届かなかった
ゆっくりした足取りで窓の方へ進む。
窓を開けると強い風が部屋に入り込む。

下を見下ろす。人が小さい……十分な高さだ。

靴を脱ぎ、身を乗り出す。

「だめだよ!!!」

聞きなれた声。ふわふわな感触が顔を覆い尽くす。

(死神……?)

「うわ!  なにこれ!?  黒い霧!?」

その瞬間俺の周りが黒いもので覆い隠された。

「だめだよ……」

頭の上から涙が流れてくる。

「君はまだ死んじゃダメだよ……死んだら僕が許さないから……地獄まで追って行くからな!!?」

死神が地獄まで追って行くとか……本当にやりそうで笑えない話だ。
大粒の涙を流しながら俺の顔を見つめる。

「こんなに辛い思いをさせてごめんね……」

死神は何も悪くないのに俺にずっと謝ってくる。何度も何度も。頭を深く下げて。

「俺の方こそごめんな……」

「謝らなくていいよ……悪いのは僕の方なんだから……本当にごめん」

「いや……俺の方がごめん」

「違う!  僕の方だ!!」

お互い謝りはじめたのでキリが無くなる。
俺は自分がやろうとしたことを深く反省した。
死神が見ていないと思って死のうとしたこと。
死神にこんなに泣かれるとは思っていなかった。

俺の事でこんなに泣いてくれるとは思っていなかった。

「もう……帰ろうか……」

そう言うと覆いかぶさっていた黒いものが薄れていく。
周りの人は倒れており、寝ているようだった。
起こそうとした俺は死神に腕を引っ張られ、起こしちゃダメと言われた。

帰り道にさっきの状況のことを聞いたがなかなか教えてくれなかった。
家に帰ると昨日の残りのカレーの匂いが立ち込める。
死神はカレーを温め直してお皿に盛りつける。

「なぁ……さっきのこと聞いてもいいか?」

「うん。分かった……」

死神は重々しく口を開いた。

「あの人たちは大丈夫。少し眠ってもらっただけ。明日には全て忘れてるから安心して」

それを聞いて俺は安心した。実の所、死んでいたらどうしようかと思っていた。
俺は朝のことを思い出した。

「……ごめん」

ずっと死神に謝りたかった。八つ当たりしたこと。傷つけたこと。

「なにが?  さっきずっと謝ってたじゃん?」

「いや……それじゃなくて……昨日の夜のこと……」

「昨日?  あー……」

「本当にごめん。いくら謝っても足りないと思うけど……ごめん!  許して欲しい……」

「いや!  いいよ!  君が生きてくれてるだけで僕は嬉しいよ!」

死神は俺を安心させるために笑顔を見せてくれた。俺はこんなに良い子を傷つけてしまったんだ。
改めて実感して俺は涙が止まらなくなる。

男のむせび泣きなんて見るに堪えないものだろうに。

死神は泣き止むまでずっと俺の頭を撫で続けてくれた。
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