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100話「彫像」

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「なんか……色々とバレちゃったね……」

 夜警の順番、俺とカズミとドロシーで焚き火を前に空を見上げてた。

「すいません……わたしとリズさんがつい……」

 カズミの呟きに、ドロシーが頭を下げる。

「別に責めてないわよドロシー。ヒロヤはモテるから……私やドロシー、リズが抱いてもらってるって分かれば……ね」
「それは優越感と嫉妬感が刺激されて、なかなかに複雑な感情になりますね……」
「あのさ……俺の話題なのに置いてきぼり感半端ないんだけど……」

 少し手を挙げて発言してみる。

「アルダもエルダもメルダも……ヒロヤ好みだもんね?」

 俺に腕を絡めて寄り添い、下から見上げるカズミ。うん。間違いなく可愛いしゅき

「確かに、あの小柄な身体にあのサイズの……胸と……お尻は……凶器ですよね」

 カズミと反対サイドのドロシーは俺の手を取り、指を絡めている。うん。えっちだ。

「ほ、ほら……トルドから預かってる女の子なんだから……おかしな事出来ないよ」
「本人達がその気でも?」
「俺はカズミとドロシーとリズで超満足してるよ」
「だからマルティナがまだなんだってば」

 頬を膨らませるカズミを見ながら、朝マルティナに起こされた時の事を思い出す。

(前の夜にえっちしまくったからって……マルティナにもあんな気持ち抱いちゃったからなぁ……)

 答えに窮した俺は、膝に顎を乗せているスノーウルフの頭を撫で続けていた。



「さてと、そろそろ交代だね。リズとレナとマルティナ、三人とも同じ天幕で寝てるんだよね?」
「二人用天幕だから窮屈だろうにな……」
「……ちゃんと理由があるんですよ。寝る前に三人で揉めてましたから」

 ドロシーがニッコリ笑って次の当番の三人が眠る天幕に向かって歩いていき、俺とカズミを手招きする。

「あらら。なるほどね」
「これは一緒に寝なきゃ揉めるわよ……」

 覗き込むと、レナ、リズ、マルティナが一頭のスノーウルフにしがみついて眠っている。

「このもふもふはクセになりますからね。……レナさん、リズさん、マルティナさん、交代ですよ」

 ドロシーが三人を起こす。しがみつかれているスノーウルフは起きたのだが、身動きが取れずにこっちに助けを求めるような目を向けてくる。

「……ひょっとして……」

 俺は馬車に向かって走った。
 そっと中を覗き込んでみると……

「……やっぱりな」

 三姉妹も一頭のスノーウルフを中心に、それぞれがもふもふを堪能するように眠っている。

「これは私も楽しみね」

 俺の後ろから馬車を覗き込むカズミ。

「一緒に寝てくれる?」

 俺の足元に付き添うスノーウルフにカズミが訊ねる。

「……ガウ」

 ……オッケーのようだ。

 三人をなんとか起こし、交代で俺とカズミとドロシーが天幕に潜り込む。

「さ、おいで!」

 俺達と夜警を務めたスノーウルフが天幕に入ってきて、ど真ん中で寝そべる。

「……好きにしろって言ってるみたいですね」

 ドロシーが笑う。

「じゃあ、もふもふを堪能させてもらうわよ」

 カズミがスノーウルフの首元に抱きついて寝そべった。

「それではわたしも」

 ドロシーはスノーウルフの胸元に顔を埋める。

「俺は枕にさせてもらっても良い?」
「ガウ」

 良いらしいので、お腹に頭を乗せる。

「……おぉ……このもふもふは……」
「うん。なんか落ち着くよね」
「……暖かいし、ぐっすり眠れそうです」

 うん。これはクセになるわ。



 ぐっすり眠れた俺達は、朝の仕度を済ませて軽く食事を取り、ダンジョンに向けて荷物をまとめる。

「携行食とかは最小限で。なるべく身軽にして潜るよ」

 リズの言うとおり、リュックを背負わず、なるべくポーチに収まるように荷物を厳選する。

「お前たちは、ここで待っててくれ。馬たちを守るんだぞ」
「「「ガウッ!」」」

 うん。良い返事だ。

「転送の魔導石は埋めておいたよ。これで準備オッケー!」

 レナがダンジョン入り口の脇からこちらに駆けてくる。

「よし!じゃあダンジョンに潜るよ。先頭はマルティナとアルダ。そしてヒロヤとカズミが続いて。少し距離を開けてアタイとレナが続くから、エルダとメルダはそれについてきて。最後方のドロシーは充分に後ろに注意してくれ」

 みんなリズの指示に頷く。

「以前のマップは貰ってるけど、随分変わってるんだろうね」

 マルティナがギルドから貰ってきたダンジョンの地図に目を落とす。

「階層は全部で五階層あったんだっけ?多分、フロア数は変わらないと思うの。そこまで大きな力を使う余裕は無いはずよ……『光の玉ウィスプ』……」

 レナが『光の玉ウィスプ』を唱える。俺とカズミの後ろが明るく照らされる。

光の玉ウィスプ

 カズミも同じ様に唱え、マルティナの少し前方が明るく照らされた。

「よし!行こう!」

 リズの掛け声と共に、俺達はダンジョンに潜って行った。



 以前、ドロシーと二人で通った回廊を進んでいく。
 そして同じ扉に辿り着いた。

「……以前は罠や鍵の類はなかったんだよね?」

 マルティナが振り向いて俺に問うので、頷いて答えた。
 マルティナは扉の前に座り込んで調べる。

「……やっぱり大丈夫。開けるよ?」

 扉を開け、中の様子を伺う。

「うん。前にオットーと戦った場所だ。なにも変わってないと思う」

 ガランとした広いホール。みんなで中に入っていく。

「ここは以前のダンジョンと変わってないみたい。向こうの扉は正規の入り口に続いてるね。多分、あの部屋の隅に落とし扉があって……下にいく階段があるはず」

 マルティナが部屋の隅を指差す。さっき目を通した地図が既に頭に入ってるみたいだ。
 そこで、俺はオットーと戦った時と様子が違う事に気が付いた。

「ん?」
「……どうしたヒロヤ」
「わたしも気が付きましたヒロヤさん……」
「あぁ……そうだよドロシー。リズ、前に来たときにはあんな彫像並んでなかった」

 部屋の壁の上方に十数体の悪魔を模した様な彫像が並んでいる。

「……全員散開するよ。三姉妹はこの場でカズミを守ってやって。アタイにはマルティナとレナがついてきて。ヒロヤはドロシーと向こうの扉の辺りに走って」
「うん……あれはガーゴイルだね……」

 レナがポツリと呟く。

「来るよ……散開!」

 リズの合図で、俺とドロシーは向こうの壁に向かって走った。と同時に、壁の彫像達が翼を広げて飛び上がった。

「クロスボウの無駄撃ちはしちゃだめだ!空飛んでる相手に当てるの難しいから!」

 リズはそう指示を出して、複合弓コンポジットボウに矢をつがえて撃つ。
 放たれた矢は、見事にガーゴイルの一体を捉え、頭部に矢が刺さったそれは床に落下して動かなくなる。

「カズミとレナは魔術で応戦!他は相手が近づいてきたら斬りつけろ!飛んではいるけど、向こうも攻撃する時は近づいてこなきゃならないからね!」
光の矢ライトアロー!」
炎の矢ファイアーアロー!」

 レナとカズミの魔術で、さらに数体のガーゴイルが墜落する。
 俺のところにも数体のガーゴイルが飛来する。
 『闇斬丸』に手を掛け、相手の攻撃を待つ。
 左右からガーゴイルが向かってくる。一体は腕を振り上げ、もう一体は足の爪を向けて突っ込んでくる。
身体強化フィジカルブースト!」

 腕を振り上げて向かってくるガーゴイルにこちらから飛び掛り、抜きざまに胴部を一閃する。振り返り、足を向けて飛び掛ってくるガーゴイルを頭部から真っ二つに斬る。
『闇斬丸』を鞘に収め、ふとドロシーに目をやると、抜き放ったエストックを支えにして、まるで棒高跳びの様に宙を舞っていた。
 滞空時間の長い、高く飛んだ跳躍。そして、中空を飛んでいたガーゴイルの頭部に『かかと落とし』を見舞っていた。思わず見惚れてしまう様な美しい技。
 リズの矢は飛び回るガーゴイルを確実に捉え、レナは魔術を続けて行使する。マルティナはリズとレナの隙を狙って飛来するガーゴイルをショートソードとマン・ゴーシュで斬りつける。
 魔術を行使するカズミを守る様に、三姉妹も近づくガーゴイルにハンマーの一撃を喰らわせていた。

(みんな良い動きしてる)

 俺は手近に迫るガーゴイルを両断しながら、目の端でみんなの動きを追っていた。



 十分も経っていないと思われるが、ガーゴイルは全て仕留めた。

(やっぱり、このメンバー強いや……)

 改めて仲間……いや家族の強さを心強く感じた。

「相手が硬かったせいか、矢が使えねぇな……」

 ガーゴイルに突き刺さった矢を回収しながらリズがぼやく。

「どうよ!メルダ達も使えるっしょ?」
「あぁ、心強いよ」

 俺は素直に頷いた。

「みんな!怪我は無いね?」

 リズがみんなに確認する。全員、かすり傷一つ無い。

「よし、じゃあマルティナ、落とし扉を探してくれ」

 さて、いよいよ下層へと向かうぞ。
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