星野にて竜を駆るもの

思考機械

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3話「ファルクス・アーシェハイザー」

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「……様、私を連れて言っては下さりませぬか?」

 目の前が赤熱し鋼のような深紅の輝きで埋め尽くされた。
 思わず目を閉じた顔へ、強烈な風圧が叩きつけられる。

「……妾達も行くかぇ?」

( 待て!! )
 しかし、すでに身体は言う事を聞かなかった。
(俺はこのまま朽ちるのか……)
 大地に横たわったまま、何故か熱いものが目から零れるのを止めることが出来なかった。
 そして、自らの意思に反して次第に暗闇が全てを覆いつくしていった……


 知らぬ間に浅い眠りに落ちていたらしい。

「強襲降下開始5分前」

 心の準備を促すけたたましいブザーと艇長の落ち着いたバリトンが現実へと引き戻す。
(またあの夢か)
 軽く頭を振って、澱の様に淀んだ残像を振り払う。
 そして目立たない様にそっと目尻をぬぐった。
 部下たちには汗を拭った様に見える事を祈る。

 いつもの目覚めの悪い夢だ。
 何の意味があるのかはわからないが、何か大切なものを失ったと言う喪失感だけが残る。
 その、何とも言えない虚無感が耐えがたかった。

 だが、装備の重さが否応なしに現実に己を引き戻してくれた。
 現実ははるかに厳しいとしても、己で対応出来る事の方がずっとマシだ。

 薄暗い格納庫に収められた降下ポッドに乗り込みつつ辺りを見回すと、全員がほぼ同時にうなずいた。

(全く戦争好きな野郎どもだな)

 思わず口元に笑みが浮かぶ。
 大きく頷き返して手を上げると、全員がポッドの積層装甲蓋を閉じた。
 ヘルメットをポッドに接続すると同時に網膜に直接投影される情報を確認しつつ、最終チェックを終える。

 何故、今更こんな作戦を行う必要があるのか誰も分からない強襲作戦。
 作戦指揮官すらもが理解していない様子だったのが異常だった。

「降下30秒前」

 艇長が最後の心の準備が出来てるかを確認してきた。
 現在、大気圏を侵攻作戦速度で急速降下中だ。

 衛星軌道上からは友軍戦艦の猛烈な支援砲撃が行われている。
 先に侵入しているECM機の強力な弾幕ECMも。
 そうやってこじ開けたわずかな隙間から、我々特殊降下兵団が強襲をかける。
 問題は、帰りの事はあまり考えていない事だ。
 いつの降下作戦もそうだが、帰還する手筈がうまくない事が多いのだ。
 そのたびに割を食うのは我々になる。
 今回も厳しい事になるのは間違いない。
 もっとも、手軽な降下作戦なんて聞いたこともないが。

 ロードマスターが祈りの言葉の様にカウントダウンを開始する。

「5・4・3・2・1・GO!!」

 轟音とともに射出される降下ポッド。
 硬質のマユで作られたようなそれは表面を大気圧縮熱で真っ赤に輝かせながら一直線に降下する。
 周囲は見えないが、装甲ポッドにくるまれた屈強な兵士たちが地獄へとダイブ中のはずだ。
 まさに、地獄の底へとまっしぐらに飛び込む悪鬼さながらに。

「10 seconds to release altitude. Power cable disconnection. Entrust control.」
(ポッド解放まであと10秒。給電ケーブルを解除。コントロールを移譲します)

 管理管制コンピュータが無機質な音声で告げる。

「ROG. Accept control.」
(了解。コントロールを受諾する)
 機械音声に負けず劣らず無機質な声で返答する。

 地獄の蓋が開くまで約10秒。
 軽い金属音とともに動甲冑に最後まで給電していたケーブルが外れ、操作系がオートからマニュアルに変更される。
 降下に備えて、姿勢制御用スタビライザーを作動させる。
 スタビライザーが無ければ、重装備でバランスの悪いことこの上ないこの甲冑はまともに降下することなど出来はしない。
 敵の有視界対空砲火が始まったのか、時折衝撃を感じる。
 とはいえ、強襲降下中の装甲ポッドに出来ることはない。
 ただ、直撃しない事を祈るのみだ。

「Good luck Captain.」
(ご武運を。大隊長殿)
「Thanks for your help.」
(ありがとう。支援を感謝する)

 味もそっけもない機械音声の激励を受けてポッドから放り出される。

(青い……)

 実際は対空砲火や軌道砲撃によって薄汚れているハズなのだが、何故かそう思った。

 急に明るくなった視界を守るべく降りてきた減光バイザー越しに対空砲火の閃光と破片が飛び込んでくる。
 感傷などに捕らわれている暇はない。
 各中隊の状況が表示され高度や降下速度、降下地点などの情報が目まぐるしく表示されていく。
 今のところは目立った損害はないのは幸いだ。
 軌道上からの強力な支援砲撃とECMで有効な対空砲火が行えないからだ。
 だが、その制圧時間は残念ながらそう長くはない。
 本格的に反撃される前に降下しなければ、いい的になってしまう。
 安全に減速できるギリギリの高度までそのまま落下していく。

「You have reached the specified altitude. Thruster ignition.」
 (規定高度に達しました。スラスターに点火します)

 規定高度に達した動甲冑は自動的にバックパックの使い捨てスラスターを全開にして
 急速に速度を減殺し、丘陵地帯に降り立つ。
 着地の衝撃をスタビライザーが中和し、片膝をついた姿勢を取る。

「All fire control system released. Combat action started.」
(全火器管制システム解放。全力戦闘行動可能状態)
「ROG」
(了解した)

「A中隊降下地点に到達」
「制圧後安全確保」
「了解」
「C中隊、敵の守備隊と交戦中」
「B中隊カバーします」
「D中隊安全確保、目標へ移動開始」

 次々と報告が入る。
 実際にはデータリンクによってわかってはいるのだが、それだけでは伝わらないものもあることを、歴戦の兵士たちはよく理解していた。

「大隊各員、お前たちが最も得意な事を実行せよ」

 あちらこちらで小さな笑いが漏れる。
 重度の戦争病患者たち独特の乾いた笑い。
 だが、諦観や自暴自棄などとは縁遠い笑い。

「だが、死ぬな。それだけは守れ」

 今度は全員がはっきり了解と答えを返した。


 積層装甲の甲冑に身を包んだ異形の重装騎士たちの宴が始まった。
 銃撃と硝煙の戦争行進曲を鳴り響かせながら。
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