星野にて竜を駆るもの

思考機械

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12話「エザーリンへ」

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(色々あったが、3時間後には出発か)
 軌道ステーション発着場のハンガーに固定された400t級自由貿易船『ルイーゼ・ヴォルフ』号を見上げながら、取り敢えずは一息つく。
 タバコを咥え、火をつける。
 エルマがチャーターしたエザーリン行きの船だ。一般的な中型自由貿易船。
(フォッカーの積み込みも完了したし、リイナは先に乗らせた。あとは……)
 一応、船長への面通しも済ませた。船長というより正に『商人』という雰囲気の男だった。

「こう見えても私は堅実で臆病な男なんですよ」
 彼は治安の悪いエザーリンで商売する気は無いらしく、俺達を星系に運んだら直ぐにガス・ジャイアントで燃料補給して他星系に飛びたいらしい。
(まぁ星系内まで運んでくれりゃフォッカーでエザーリンまで行きゃいいか……)
「地表まで送って貰いたかったがな。タモンの手を煩わせる事になるが……すまない」
 いつの間にかエルマが隣に立っていた。
「いや、かまわんさ。チャーター料もバカにならんだろ?その分、少しでも値切れたんだろうし」
 携帯灰皿でタバコをもみ消す。
(まぁ、あの機内を見られるのはアレだけどな)
 少し憂鬱な気持ちになるものの、まぁ仕方ない。
「ところで……」
 そう言ってエルマに向き直って驚いた。
 そこにいたエルマの姿は。
 水色のワンピース。そしていつも後ろで縛っていたその淡いブロンドは肩まで下ろされている。
「へっ?」
「どうした?」
 エルマが耳元に髪を掻き上げる。
「ス、スーツじゃないから驚いた」
「あぁ。一応プライベートだからな。いつもスーツな訳じゃない。……30半ばのおばさんには似合わんか……」
 エルマが俯く。どうしたそんなキャラだったか?
「いや悪くない。似合ってるし」
 うん。本当に似合ってる。でもまぁなんというか普段とのギャップがね。

「で、なにか質問か?」
 エルマが俺を見上げる。
「そ、そうだ。取り敢えず向こうについたらどうするんだ?」
 ちょっとその可愛い雰囲気のエルマを見る事が出来ず『ルイーゼ・ヴォルフ』号を見上げながら聞いた。
「私は到着後は向こうの調査員に会う。宙港街に彼のオフィスがあるのでな。タモンはどうするんだ?」
「俺はちょっと行きたいところがあってな」
 特殊降下猟兵大隊が降下したといわれる地方都市。ミサイル攻撃で壊滅してそのままらしいが。

(今回の調査は自主的なもんだと言っていたし、エザーリン行きも同行させてくれた。俺とは本当に親友のように付き合ってくれていたらしいし、実際、覚醒後も良くしてくれている。リイナの事、ちゃんと話した方がいいか……)
 それによってエルマがエザーリンで得る情報の重さも変わってくるかもしれない。

「まぁ向こうに着くまで亜空間ジャンプで1週間もある。色々決めていこう」
 エルマもハンガーを見上げる。
「あぁ。それと……」
「なんだ?」
「リイナの事なんだが。色々今回のエザーリン行きについて訳ありなんだよ。事情はジャンプ中にでも詳しく話す。『エザーリン・スキャンダル』に大きく関わっていると俺は思ってるんだ」
 エルマは視線を落とし、しばらく沈黙した。

「なんかすまん……黙ってるつもりじゃ……」
「……ようやく私の事を信用してくれたんだな……」
 俺に向き直ったエルマが微笑む。
「なんだ……訳ありだと気づいてたのか?」
「お前は判りやすい。なにか話していない事があるんじゃないかとは思っていたよ」
 そういって俺のおでこをつつく。バレてたか。


 
 昇降口から『ルイーゼ・ヴォルフ』号に乗り込む。
「お待ちしておりました。こちらです」
 この船のスチュワートらしき男が現れ、俺とエルマを先導して案内する。
「こちらは客室区画になります。今回の旅はお客様達だけですのでご自由にお使いください」
 そういって隣接する船員区画らしき方へ姿を消した。
 案内されたのはロビー。そこを中心に客室が4つ。
「あ!いらっしゃいましたね。旦那様達遅いですよ」
 そのうちの1つのドアが開き、リイナが顔を出した。メイド服ではなく、前に買ったスペースジャケットにスカートといった服装だ。
(ふむ。ガーターベルト装備だな。感心感心)
「エルマさん。ここの区画特等室ばかりです。どれも良いお部屋ですよ」
 そういって隣の部屋の扉を開ける。
「まぁチャーターだしな。俺にはもったいない部屋だけどな」
 部屋に入り、見渡す。
 風呂・トイレ・キッチンスペースも完備して、居間とベッドルームもある。
「ほぉ。タモンは2等寝台の方が良かったか?」
 続けて入ってきたエルマが言う。
「もう冷凍睡眠はごめんだわ」
 10年寝たんだぞ。もういいわ。
「部屋割りはどうしますか?」
 ロビーからリイナが聞く。
「4つもあるんだ。それぞれ好きな部屋使えば良いさ」
 俺はベッドに倒れ込んだ。ふむ。広くて良いじゃないか。
「ん?遠慮しないでリイナと同室でも構わんぞ」
 居間のソファーに腰掛け、背を伸ばすエルマが笑う。
「それは……」
 そこで顔を赤くするなリイナ。



「ふむ。各部屋調べたが、盗聴器の類いは無いようだな」
 しばらく席を外していたエルマが、俺とリイナが寛ぐ初めの部屋に帰ってきた。
「ロビーにも無かったが、話をする時はこの部屋が良いだろう。他の3部屋をそれぞれの部屋にするか」
 俺の向かいに座り、脚を組むエルマ。お前その服装でその格好は……

「まぁ1週間の旅の道中、のんびり行きましょう。よろしくお願いしますエルマさん」
 リイナがキッチンスペースから現れ、それぞれにコーヒーを配る。
「こちらこそよろしくリイナ……って呼び捨てで構わんか?」
「もちろんです」
「私の事も呼び捨てで構わんぞ……って美味っ!」
 エルマはコーヒーを一口飲んで唸る。
「久々に美味いコーヒーを飲んだ。ジュエル宙港街のコーヒーショップでもこれだけの味は出ないぞ。ありがとう」
 エルマの評価を聞いて嬉しそうに微笑むリイナ。
 そして『ルイーゼ・ヴォルフ』号の発進時間を迎えた。



「なるほど……研究所か……」
 乗員がロビーに運んできた料理を部屋に持ち込み、俺は食事しながらリイナと研究所の事をエルマに話した。
「しかし、リイナがアンドロイドか。確かに言われてみれば……つかほんとよく見ないとわからないな」
 食後のコーヒーを飲みながらエルマがリイナをまじまじと見る。
「黙っていてすいません」
 リイナがペコリと頭を下げる。
「……っていうか、起動して即ヤっちゃうタモン。お前も男なんだな」
 ニヤニヤしながら俺に視線を移す。
「す、『据え膳喰わぬは男のファジー』って言葉もあるだろ!曖昧じゃだめなんだよ!」
「『恥』ですよ旦那様」
 ため息と共にリイナが言う。
「ぷっ!し、しかし間違いなく『エザーリン・スキャンダル』絡みであるのは間違いないな」
 笑いをこらえつつエルマが言った。
「あぁ。あの無理な『エザーリン奪還作戦』も例の降下作戦も、間違いなく研究所目的だろうな」
 自らのくだらない発言をスルーしてもらうべく、なるべく真面目な顔で答える。
「時間はある。様々な可能性を考えつつ検討しないとな」
 エルマも真面目な顔で答えた。



 亜空間ジャンプ中は船窓からも面白いものは見えない。歪んだ深く青い空間が見えるだけだ。
 特等客室区画と船員区画の間にある展望室兼喫煙所でタバコを吸う。
 エルマもリイナも部屋に戻り、今頃は風呂でも入ってるだろう。

「……俺も一服終ったら風呂入って寝るか……」
「私も付き合ってもいいか?」
 エルマが隣の席に座る。並んで船窓越しに亜空間を眺める。
「ふぅ……お互い辞めなきゃならんよな」
 隣からメンソールの香りがする。
「俺もなるべく本数は減らそうかと……って……え!」
 エルマ、その格好は…
「そ、そのナイトウェアで共有箇所にくるのはマズくないか!」
 肩からガウンを掛けてるものの、その下、赤のスケスケじゃん。下着見えてるし。
「あぁ、気にするな。いつも寝るときはこれだし、私はこれしか持ってない」
 そう言って俺に煙を吹き掛ける。
 眼鏡もかけてないから、なんていうかその…妖しい色気がね……
「アーソウナンデスカ」
 なんだよ今日はドキドキさせられっぱなしだなコイツに。
「と、取り敢えずは客室区画に戻ろうか。船員に見られちゃちょっと……ね?」
 タバコを消させて、手を引いて戻ることにする。



「せめてここだけに。な」
 特等客室区画のロビーへと戻ってエルマに言った。
「30半ばのおばさんのこんな格好に誰も欲情しないって」
 エルマはそう言って笑うものの、いや色気ありすぎますし欲情誘いますってば。
「と、取り敢えず俺も風呂入って寝るわ。明日からチョコチョコと戦闘艇の調整も進めたいし」
 そう言ってエルマにおやすみと言った。
「リイナの部屋には行かないのか?」
 エルマは笑いながらそう言う。
「行かない」
 なんだよエルマ変だよ。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



(ちょっと暴走しすぎたか)
 タモンの去ったロビーでソファーに腰掛けた。
 まぁ、たまには女らしい格好もしなきゃならんと思ったのは確かだ。
 スーツ以外にもちょっと洒落た服も持ってきたし。
(でも……やっぱり嬉しかったな)
 タモンが『エザーリン奪還作戦』の事を聴きに来たとき、何か話していない事があるとは思っていた。
 私が信頼に足る人間か判断付きかねてたんだろうと思う。
(覚醒後も親しくはさせてもらっていたとはいえ、以前の関係を思い出したわけじゃないからな)
 でも、話してくれた。やっと信用してもらった。以前の信頼関係が戻った気がした。
 つい嬉しくて、こんな格好をタモンに見せてしまったわけだが、赤くなる彼が可愛かった。
 それが見れただけでも……
(満足満足♪)
 彼とどうしたい訳じゃない。はずだ。
 今更、私の女を見せてどうする。とも思う。
 今の関係を維持したい。彼の力になれる人間で居たい。そうする事で彼の近くに居られるだけで満足……のはずだ。
(しかし、この湧き上がる気持ちは……なんだ?)
 彼に告白して、恋破れてから恋愛と言うものとは無縁の生活をしていた。
 というか、彼への気持ちを抑えることなど、今までずっとできなかった。
(こんな邪な気持ちを持ったまま『親友関係』を続けていると彼が知ったら……どうなるだろうな……)
 私はこの年になっても『男』を知らない。
 彼以外の男に抱かれるなんて想像も出来ない。

(だからといって……)

 何度も繰り返し考えた事だ。

(だからといって、彼を求める事はできない)

 彼の消えた部屋の扉を見つめ、私も自分の部屋に戻るべくドアのノブに手を掛けた。



 私は……今夜も自分で慰める行為に耽るのだろう……



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