星野にて竜を駆るもの

思考機械

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14話「潜行」

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「状況は……悪いのか?」
 対Gシートを蹴って、エルマがコクピットへくる。
「このままエザーリン首都惑星に向かうのは問題だな。数時間後には接敵する」
「そうか……」
「取り敢えずは潜航中だが……」
 電磁マスカーは相手の探知行動を無効化するが、こちらからも探知行動は行えない。
「駆逐艦の艦種が判明しましたよ」
 リイナが振り返る。
「ガーゴイル級駆逐艦。間違いなく連合宇宙軍の船ですね……ただ……」
 モニターに当該駆逐艦の三面図が映し出される。うん。標準的な宇宙軍駆逐艦だ。
「通常ドライブからの推進剤吹き出しのクセや外装の特徴からガーゴイル級の114番~116番艦である可能性が高いです」
「よくそこまで調べたな。で、所属は?」
「退役及び解体された事になってますね」
 リイナがうつむく。
「退役後の軍艦は民間に払い下げられたり、惑星防衛艦隊に配属されたりするからな。後者ならともかく、民間払い下げだとそこから先に転売されてると追えなくなる」
 エルマも『お手上げ』というポーズをとる。
「所属不明か」
「相手側戦闘艇グループの予測航路です。直前のルートと加速度から予測しています」
 正面スクリーンに星系内図が映し出され、いくつかのルートが表示される。
「戦闘艇は3つのグループに分かれて追跡に入りました。こちらがこのまま首都惑星に向かうとすれば、恐らく4時間後に私達が到着する以前には、2つのグループが予測されるルートを通り先に到着してるかと。あくまで予測なんですが……」
「いや、リイナ。いい予測だよ。戦闘時もそうだったけどほんと優秀だ」
 頭を撫でてやる。ほんと俺いらねぇぐらいだわ。
「えへへ。ありがとうございます」
 ニッコリとリイナが笑う。
「エザーリン行きのスケジュールがまんま筒抜けだったみたいだな。リイナへの尾行者か、それとも私がつけられていたか」
 エルマが俺のシートの背もたれに腰掛け腕を組む。
「『ルイーゼ・ヴォルフ』号に情報を漏らされた可能性もあるが……まぁどちらにせよどこかで時間潰してほとぼりが冷めるのを待つか……」
 俺も腕を組んで頭をひねる。
「とにかく、センシング機器を使えないのは危険です」
 リイナがコンソールを叩く。
「細かな宇宙塵ならまだしも、デブリやアステロイドはセンシングで先に見つけておかないと危険です」
「そうだな。まずは電磁マスカーを解除だ。これからエザーリン主星に向かって針路を取る」
 その後、主星を背後にエザーリン首都惑星に向かう。少しでも相手探知機器への目くらましになればいいが。
「了解」
「わかった。まぁ取り敢えずは腹ごしらえしないとな。二人は航行に専念してくれ。私が軽く何か作ってくる」
 そういってエルマはキッチンへと向かった。
 俺は新たにルート構築の作業に入った。



「どんな感じだ?」
 エルマがサンドイッチとコーヒーを持ってパイロットシートに来た。
「到着がかなり遅れるが、なんとかするよ。首都惑星軌道上まで行けば、やつらも無法はできないとは思う。……建前であれ警備艇ぐらいは出さなきゃならんだろうさ。駐留軍としてはね」
 俺はサンドイッチを頬張りながらルート設定を終えた。
「私が宇宙軍の駐留部隊にコンタクトしようか?情報部少佐の立場を使えば護衛艦ぐらいは……」
「護衛艦の代わりに所属不明艦が1ダースは来るね。賭けてもいい」
 俺はコーヒーを飲みながら言った。
「取り敢えずは主星を背中に背負いながら首都惑星を目指すよ」

「ところでリイナ」
 コパイシートでサンドイッチを頬張るリイナに話しかける。
「ふぁい……何でしょうか旦那様」
「電磁マスカーで遮断する前の『相手センシング装置』の情報はわかるか」
「ちょっと待ってくださいね…」
 リイナはサンドイッチを食べながら目を閉じる。
「……はい。確認できました」
「じゃあ、次に探知された時、それに対して欺瞞情報を送る事って可能か?」
 リイナは目を開き、俺をみてニヤっと笑う。
「なるほど。『位置情報・加速度・加速方向』等、嘘の情報を返すんですね」
「かなり高度なジャミングになるが…」
「可能ですよ。早速プログラムに取り掛かります」
「可能なんだ……軍の優秀なハッカーでも手を焼きそうなのに」
 エルマが感心したように言った。
「それ以上に優秀なようだよ。俺の相棒は」
 リイナに出来なければ、俺が直接やろうと思ったんだが、リアルタイムで誤情報を発信し続ける事に注力すれば、操艦や他の事に専念出来ない。
『意識プログラム』という例えれば『情報化された人間』の様な状態にあるリイナには容易い事なのかもしれない。
「主星を背にしていれば、相手のセンシング機器もそう正確には探知出来ないだろうからね。誤情報を返すのも普通より遥かに容易になるはすだ」
「それに吊られてる間に首都惑星に近づくわけだな。いい作戦だ」
 エルマが後ろから俺の頭をポンポンと叩く。
「えへへぇ……じゃねえよ同い年だから。年下扱いすんなよ」
 俺はコーヒーを飲み干した。



 3時間はロスしただろうが、主星方向から首都惑星に向かうルートにのせた。
 このまま何もなければ数時間後には首都惑星に到着するだろうが、それまでに先程の戦闘艇グループと遭遇するだろう。
「リイナ。前方警戒を密に」
「了解。センシング警戒を開始します」

 それから1時間ほど経っただろうか。
「前方距離約80,000、戦闘艇3機確認しました。約3分で接敵します」
「段取り通りだ。気持ちよく騙してやれ」
「了解。誤情報を発信します」
 1分後、相手は明後日の方向に加速を始めた。
「かかった。針路このまま。首都惑星を目指す」

 やがて、向こうとの距離が離れてゆく。今から気づいてこちらを追撃したとしても間に合わないだろう。
「ふぅ。このまま無事に到着出来そうだな……」
「警戒!右舷距離100,000に艦影。情報から先程の駆逐艦隊の1隻かと思われます。現在の速度から10分後には接敵」
「敵ながらよくこっちを再発見したな」
(もう少しだったんだがな)
 取り敢えずは最大加速を開始する。
「リイナ。戦闘艇はもういい。駆逐艦に対してジャミング開始してくれ」
「現在、解析中です……完了。ジャミング開始します」
 俺は駆逐艦の予測ルート上に爆雷を投射した。2分後には爆散する。
「距離70,000。駆逐艦から爆雷の投射を確認。その数多数」
(来たか……)
 フィールドの出力を上げ、パルスレーザーの迎撃システムをオンにする。
「誤情報の位置への投射ですが、こちらの進路上にもいくつか来そうです」
 リイナが極めて冷静にアナウンスする。
「パルスレーザーで爆散前に迎撃する」
 やがて、3機の爆雷がスクリーンで確認できる距離に現れた。
「パルスレーザー速射」
 戦闘艇からいくつもの光の束が爆雷に向かって飛ぶ。
 2機撃破。
 俺は45mmオートキャノンをマニュアルで操作。前方に捉えた爆雷に向けて発射する。
「全弾撃破」
「第二波投射確認。こちらの進路上です」
(迎撃で位置を確認されたか)
 爆雷を避けるには進路を変更する必要がある。
(戦闘艇3機とやりあうか、駆逐艦とやりあうか……)
 せっかくやり過ごした戦闘艇グループに向かうのもシャクだ。かといって1隻とはいえ、駆逐艦相手となると…
「別方向に艦影。駆逐艦の左舷方向距離50,000。通信が入ってます」
「新手……じゃないのか?」
「メッセージ読み上げます。『進路そのままで。駆逐艦と投射爆雷はこちらで迎撃する。幸運を』です」
(味方?)
 俺は制御スラスターを噴射し180°回頭。爆雷爆散時の衝撃をできるだけ緩和する為に急減速する。
「800tブリュンヒルデ級商船のようです。スクリーンに拡大します」
 リイナが目を閉じたままアナウンスする。
「これは……」
 その艦影がスクリーンに映し出される。
 一見、商船だが、その船体から張り出された数々のセンシング機器のアンテナや多数の砲塔群。まるでハリネズミの様だ。
「武装商船……いや、仮装巡洋艦だな」
 俺の後でエルマが呟く。
 戦時に多数投入されたという、現用の商船を改造した通商破壊用の艦種。兵站撹乱に大活躍したらしい。
 最大限速しながらコンソールのモニターを注視する。
 仮装巡洋艦から発射されたレーザーは、長距離射撃にも拘らず正確に進路上の爆雷を掃射していく。
 同時に、駆逐艦の至近距離に投射された爆雷が爆散。駆逐艦はその存在を閃光とともに消した。
「なんて正確な射撃だ。……敵じゃないよな……」



 戦闘艇は仮装巡洋艦の案内に従い、ランデブー軌道にのせる。
 10分後には接舷し、開かれた格納庫へと戦闘艇を滑り込ませる。
 格納庫内の圧が上がり、やがて戦闘艇から降りられるようになる。
「さて……どんな奴がお出迎えしてくれるのかな……」
 俺は個人ロッカーからジェットピストルを取り出し、腰に仕舞う。
「気をつけろよ。助けてくれたようだが、正体不明の相手だ」
 エルマもジェットピストルを取り出し、スライドを引く。
「あぁ。俺が先に降りる。エルマとリイナは後に続いてくれ」
 俺は戦闘艇のハッチを開け、外に飛び出す。
 広い格納庫内、正面の通路のドアが開き、一人の女性が姿を現す。
「タモン!やっと見つけた!妾の主様!」
 紅い髪、紅い瞳の女性が、0Gの格納庫内で俺に飛び込んでくる。両手を拡げて。
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