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第一章・始まりは…
02・リュシフェルも歩けば、母の懸念が当たる⁈
しおりを挟む王宮の文官としてリュシフェルは忙しない日々を送っていた。
イルティアンテ王国王立学院卒業後、リュシフェルは実家のノワール伯爵家を継ぐ次期女伯爵となるべく後学の為に王宮にて文官として仕える道を選んだのである。
父のノワール伯爵はリュシフェルが手元に残り跡を継ぐことを単純に喜んだ。
だが、母であるノワール伯爵夫人にはリュシフェルが舞い込む縁談から逃れる為の時間稼ぎをしているように思われ、その身を案じていた。
「お仕事も大事なことよ。けれどフェルは遠くない将来一緒に歩むことになる結婚相手のことを真剣に考えているのかしら。
一度きちんとオリフェウス様とお話しなくてもいいの?後悔しないと言える?」
王立学院時代、一時期リュシフェルは塞ぎ込んでしまったことがある。
その時のことをノワール伯爵夫人は忘れていない、否、忘れられない故の発言だった。
「お母様、御免なさい…今日から次期クレピュス辺境伯ヴィクトァール様のお世話係としてのお仕事が始まるから早く登城しないといけないの。
そのお話は、また今度!」
「フェル!……」
ノワール伯爵夫人の気遣わしげな声を背にしてリュシフェルは玄関ホールからノワール家所有の馬車へと足早に歩んでいく。
王立学院でも優秀だと認められた時の嬉しさを覚えているからこそ、外交から内政に及ぶ広い分野のいずれかの文官に成りたかった。
勿論、それだけではないことはリュシフェル自身も自覚している。
思い出すと胸がズキリと痛む。その痛みは未だ色褪せることはない。
忙しなく仕事に追われることで痛みを一時的にでも忘れられることが、現時点でのリュシフェルの救いであった。
ーーお母様、御免なさい。まだオリフェウスと向き合うだけの強さが持てないの…弱くて御免なさい。
いつの間にか玄関の外にまで出て見送りに来た母に向かい、リュシフェルは元気よく手を振ってみせる。
一見、屈託ないように映る娘の笑顔を不安気に見詰めながらノワール伯爵夫人は知らず知らずのうちに呟いていた。
「ヴィクトァール様といえば、あの子と婚約のお話も取り沙汰された方よね……大丈夫なのかしら…心配だわ」
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