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第一章・始まりは…
10・『願いの泉』
しおりを挟むミナールはリュシフェルの友人という立場を利用してオリフェウスへと近づいていった。
そして何気ない様を装いながらオリフェウスへリュシフェルの話題をふり、
「そういえば、リュシフェル様とお話ししているうちに知って驚いてしまったのですけれど…オリフェウスはご存知かしら?」
殊更、オリフェウスの興味を引くように前置きをして、こう告げたのだ。
「あのヴィクトァール様から見事なドレス一式を贈られたリュシフェル様はそれはそれはお喜びのご様子でしたわ!
とは言え、それも当然のことと言えますわよね…御父上ノワール伯爵様もお認めになられた婚約者候補ですもの、ヴィクトァール様は」
ヴィクトァールがリュシフェルの婚約者候補…しかもノワール伯爵にも認められている、だと⁈
何を俺はうかうかしていたんだ???
大事なリュシフェルを横から掻っ攫われるとは…!
ミナールの話を耳にし焦燥に駆られたオリフェウスはリュシフェルの姿を求め歩いていく。
折よく『願いの泉』のある方角へと向かうリュシフェルを学院の敷地にて見つけることができた。
『願いの泉』とは広い学院の敷地の奥まった場所にある冬でも凍らないと言われる清らかな水が渾々と湧き出る泉のことであり、そこには大理石で出来た真っ白な女神像が建っている。
だが、ただ不凍の泉という訳ではない。
学院に昔から伝わる古式ゆかしい告白の聖地でもあるのだ。
泉の女神像の前で男性が女性に礼を取り、自らの手を女性へと差し出す。
女性は男性の思いを受け入れる場合は、その手を取ることが決まりとされている。
女神像の前で女性に手を差し出すことは永遠の愛を誓う告白と同じ意味を持つ。
しかも正式な婚約の申込みと同格と見做されるほどの扱いなのだ。
泉の女神像の前で女性が差し出された男性の手を取れば、その二人は女神の祝福を受けて一生幸せに結ばれる、とも言い伝えられていた。
ここで一連の儀式を行い、幸福な結婚生活を送る卒業生も多い。
学院生ならば誰もが知っている、憧れを抱き夢見る場所。
幸せが約束されるという伝説まで語り継がれるほど有名な告白の聖地、それが『願いの泉』なのだ。
その『願いの泉』に向かって、いつの間に合流したのか、ヴィクトァールがリュシフェルに寄り添い洗練された仕草でエスコートしながら歩いているではないか。
…リュシフェル!何故、ヴィクトァールが一緒なんだ⁈
絵になるふたりの姿を目にしたオリフェウスは驚きと焦りから我を失ってしまった。
まるでオリフェウスが我を失うのを待ち構えたように現れた者がいる。
それはミナールだ。
薄く微笑を浮かべ再び現れたミナールは横目でリュシフェルとヴィクトァールへと視線を流した後、にっこりと微笑を深めオリフェウスの前に立つ。
焦燥に身を焼くオリフェウスをまるで嘲笑うかのように、苛立つほどのんびりとした口調でミナールは話し掛けてきた。
「学院内でも公認との声も上がるのも頷けるほど、お似合いのおふたりですわね…」
「一体…何の用だ、コームプシェ男爵令嬢?」
「あらあら!ご機嫌斜めですわね、オリフェウス様。
そういえば、ヴィクトァール様はリュシフェル様に何かを申し込まれるおつもりだとか…」
「それは、本当なのか?」
「ええ。リュシフェル様の友人である私だからこそでしょうねぇ…リュシフェル様を呼び出すお手伝いをヴィクトァール様から頼まれましたの。
何でも…リュシフェル様に大事な御用件があるとか」
「…まさか⁈」
「クスクス…そんなに御心配でしたなら、早く泉へと向かわれてはいかが?」
上目遣いでコロコロと笑うミナールの言葉がオリフェウスの身を焼く焦燥の炎を煽る強風のように、その心にも沁み込んでいく。
ヴィクトァールは伯爵様も認めておられる婚約者候補だ!
『願いの泉』で正式な申し込みを行うことにより、婚約者候補から正式な「婚約者」へと階段を昇るつもりに違いない。
…ああ、くそっ!!俺は何をやっていたのだ!
手遅れ…になど、なるものか!
オリフェウスはもう気が気ではなくなってしまった。
何故か余裕たっぷりなミナールをその場へと残し、ひとり駆け出す。
大慌てで泉へと向かう二人の背後を追いかけて行った。
オリフェウスの後ろ姿を見送りながら堪えきれないとばかりに笑いを浮かべるミナールの気持ちを窺い知る余裕など、今のオリフェウスには欠片もなかったーー
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