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①まずは断罪されましょう
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「マリエッタ・スーデン、今この時を持ってお前との婚約破棄、並びに学園から追放する」
美味しそうな料理に、硝子に反射する明かりでキラキラと明るく眩しい空間。そして集う多くの衆人の中。
ビシッと効果音が付きそうな指の差し方をし、数人の側近候補を周囲に侍らせ、か弱く儚げに見える少女の肩を抱いて威張り腐る、ゲス、もといこの国の王太子第一候補。
対するは、ロットミルにこの男ありと謳われ、敬れている隻眼公爵こと、スーデン元帥公爵閣下の愛娘マリエッタ・リア・スーデン(17歳)。
二人は歳が近いと言うことで、生まれた頃より婚約を課され、それなりの関係を築いてきたと思われていたが、どうやらそれは大きな勘違いだったらしい。
国賓を招いた、学園の前期修了式パーティにおいて、何の権限もないくせに、筆頭貴族である公爵家の令嬢を理由もなく断罪する行為は、王太子が未だ定まっていないロットミルにおいては、後継者争いの均衡が大いに崩れるに違いない。
それと、同盟国やら友好国との関係の行く末がどうなるかまでは見当もつかない、と言うか、考えたくないと言うのが、不幸にもこの場に居合わせてしまった政治に携わる者達の本音であろう。
周囲の大人たちがコッソリ胃に当たる部分に手を当て、これからの騒動に頭を抱えたい思いで、次世代を担うはずだった王家の王子と公爵家の姫に視線を向けてみれば。
優雅に、しかして素早くフォークを操り、生地はサクサク、主役であるシナモンが効いたトロトロとシャッキと感が共存しているリンゴのパイを堪能していた姫は、実に残念そうに丁度通りかかった給仕に皿を預け、王子に向き直ったところだった。
公爵家の姫であるマリエッタ嬢は、眩いほどの金の髪を縦に巻き、吊り上がり気味の瞳は、隣国の公国出身である公女、つまり公爵夫人の血筋である翠色の、スラリとした美少女である。
そんな彼女の婚約者だった筈の、第一王太子候補である青年は。
名はシュタート・ギル・マルクベル・オーランド=ロットミラー、赤に近い茶色の髪に、紫の瞳を持つ、正真正銘の王家の色を持つ、18歳、昨年までは清廉潔白、期待されていた青年であったはずだったのだが。
チラリ、ちらりと、彼の青年の隣にさも当然と言った風情で侍る娘を、噂好きで、狡猾な大人たちは盗み見る。
まだ大人になりきってはいないが、既に王太子妃教育の8割以上を修めている少女は、
一見冷静そうに見える。
流石は未来の国母よ、と、良識のある貴族議員は、ほっ、と、安堵の吐息を心内で吐いていたが。
「それは王家としての決定であり、総意でしょうか?殿下」
「当たり前だ。貴様のような他者を見下すような奴を、将来の王妃になどできるものか」
「生涯大切にするとのあの時の睦言は、戯言だったのですか?」
全く冷静ではなかった。
公爵令嬢と言う立場にありながら、相手が婚約者とはいえ、既に破瓜済みであると匂わせる発言に、特に高貴な御婦人方は眉を顰め、羽で出来た扇を口元に持って行き、あからさまに陰口を漏らし始めたが、当の本人はそんなことよりも怒りと悔しさと、それから、何らかの感情を混じり合わせた表情で、第一王子をキッと真正面から見据えた。
そんな婚約者を顧みようともせずに、王太子に一番近かった青年は、まるで熱病か何かに感染しているかのような、定まってない瞳で、己の隣で侍る少女の腰を抱き寄せうっとり微笑み。
「誰にでも優しく、慈悲の心を常に忘れないアマリアこそが、将来の王たる俺の妃に相応しい」
そこからはいかに彼女が王妃に相応しいか、優しいか、女性らしい身体を持ってるかなど、誰も聞いてはいない下世話な話を延々と続けるものだから、なんとか冷静さを取り戻しかけていたマリエッタに、それは投下された。
「謝って下さい。そうしたらアタシ、あなたのこと許してあげます」
アタシが羨ましかったんでしょ?彼に愛されたから。あなたより胸が大きいから嫉妬したんですよね?と全てわかっってますよと言わんばかりのその言動に、見守っていた周囲の生徒たちや教師、果ては保護者達までもがくすくすと笑いだした。
マリエッタは生来の癇癪持ちである。
マリエッタは根っからの高位貴族令嬢である。
マリエッタは貶されるのが大嫌いである。
ゆえに。
「その喧嘩、買って差し上げるわ。牛オンナ」
左手に嵌めていた純白のグローブを脱ぎ、ぺちっと、アマリアと言う少女の足元に投げつけ、決闘の意を表明してみせた。
美味しそうな料理に、硝子に反射する明かりでキラキラと明るく眩しい空間。そして集う多くの衆人の中。
ビシッと効果音が付きそうな指の差し方をし、数人の側近候補を周囲に侍らせ、か弱く儚げに見える少女の肩を抱いて威張り腐る、ゲス、もといこの国の王太子第一候補。
対するは、ロットミルにこの男ありと謳われ、敬れている隻眼公爵こと、スーデン元帥公爵閣下の愛娘マリエッタ・リア・スーデン(17歳)。
二人は歳が近いと言うことで、生まれた頃より婚約を課され、それなりの関係を築いてきたと思われていたが、どうやらそれは大きな勘違いだったらしい。
国賓を招いた、学園の前期修了式パーティにおいて、何の権限もないくせに、筆頭貴族である公爵家の令嬢を理由もなく断罪する行為は、王太子が未だ定まっていないロットミルにおいては、後継者争いの均衡が大いに崩れるに違いない。
それと、同盟国やら友好国との関係の行く末がどうなるかまでは見当もつかない、と言うか、考えたくないと言うのが、不幸にもこの場に居合わせてしまった政治に携わる者達の本音であろう。
周囲の大人たちがコッソリ胃に当たる部分に手を当て、これからの騒動に頭を抱えたい思いで、次世代を担うはずだった王家の王子と公爵家の姫に視線を向けてみれば。
優雅に、しかして素早くフォークを操り、生地はサクサク、主役であるシナモンが効いたトロトロとシャッキと感が共存しているリンゴのパイを堪能していた姫は、実に残念そうに丁度通りかかった給仕に皿を預け、王子に向き直ったところだった。
公爵家の姫であるマリエッタ嬢は、眩いほどの金の髪を縦に巻き、吊り上がり気味の瞳は、隣国の公国出身である公女、つまり公爵夫人の血筋である翠色の、スラリとした美少女である。
そんな彼女の婚約者だった筈の、第一王太子候補である青年は。
名はシュタート・ギル・マルクベル・オーランド=ロットミラー、赤に近い茶色の髪に、紫の瞳を持つ、正真正銘の王家の色を持つ、18歳、昨年までは清廉潔白、期待されていた青年であったはずだったのだが。
チラリ、ちらりと、彼の青年の隣にさも当然と言った風情で侍る娘を、噂好きで、狡猾な大人たちは盗み見る。
まだ大人になりきってはいないが、既に王太子妃教育の8割以上を修めている少女は、
一見冷静そうに見える。
流石は未来の国母よ、と、良識のある貴族議員は、ほっ、と、安堵の吐息を心内で吐いていたが。
「それは王家としての決定であり、総意でしょうか?殿下」
「当たり前だ。貴様のような他者を見下すような奴を、将来の王妃になどできるものか」
「生涯大切にするとのあの時の睦言は、戯言だったのですか?」
全く冷静ではなかった。
公爵令嬢と言う立場にありながら、相手が婚約者とはいえ、既に破瓜済みであると匂わせる発言に、特に高貴な御婦人方は眉を顰め、羽で出来た扇を口元に持って行き、あからさまに陰口を漏らし始めたが、当の本人はそんなことよりも怒りと悔しさと、それから、何らかの感情を混じり合わせた表情で、第一王子をキッと真正面から見据えた。
そんな婚約者を顧みようともせずに、王太子に一番近かった青年は、まるで熱病か何かに感染しているかのような、定まってない瞳で、己の隣で侍る少女の腰を抱き寄せうっとり微笑み。
「誰にでも優しく、慈悲の心を常に忘れないアマリアこそが、将来の王たる俺の妃に相応しい」
そこからはいかに彼女が王妃に相応しいか、優しいか、女性らしい身体を持ってるかなど、誰も聞いてはいない下世話な話を延々と続けるものだから、なんとか冷静さを取り戻しかけていたマリエッタに、それは投下された。
「謝って下さい。そうしたらアタシ、あなたのこと許してあげます」
アタシが羨ましかったんでしょ?彼に愛されたから。あなたより胸が大きいから嫉妬したんですよね?と全てわかっってますよと言わんばかりのその言動に、見守っていた周囲の生徒たちや教師、果ては保護者達までもがくすくすと笑いだした。
マリエッタは生来の癇癪持ちである。
マリエッタは根っからの高位貴族令嬢である。
マリエッタは貶されるのが大嫌いである。
ゆえに。
「その喧嘩、買って差し上げるわ。牛オンナ」
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