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⑨謝罪を捧げましょう
しおりを挟むマリエッタは公爵家の馬車が、公爵家の鉄門扉から出て行った音を聞いて、ようやく狸寝入りを止め、ぱちりと目を開いた。
枕元にあるチェストに置いてある鈴で侍女を呼びつけ、外出用のドレスを着させてもらい、化粧をしてもらってから、夫人用ヴェール付きの帽子を被り、黒いハンドバッグにはハンカチと扇を入れ、馬車を用意させ、馭者に行き先を告げる。
ふと、馬車に乗る際視線を感じたマリエッタは、己の向けた視線の先で、夫となる男が従僕として連れてきた線の細い少年を見つけ、顎をクイッと上げ、侍女に連れてくるように命じ、自分は先に馬車に乗って少年が連れられてくるのを待ち、侍女によって強引に馬車に乗せられた少年を認めるなり、外へ短く声を発した。
「出してちょうだい」
ツンと取り澄ました横顔は温かみは感じられず、まるでおとぎ話に出てくる氷の女王のようだと、エヴァは同じ女として、マリエッタに魅入ってしまった。
どこまでも強く、気高く、常に前を見据え、毅然としている姿は、正に女王と呼ぶに相応しい。
ガタガタと揺れる馬車の中、窓から外を見ていたマリエッタが、独り言のように言葉を漏らしたのは、もうじき王宮に着くころのことだった。
「私はね、素直になることが一番、苦手なの。謝ることも苦手だわ。けどね、今日はどうしても謝らなきゃいけないの」
優しい殿下を貶し、傷付けてしまったから、と、マリエッタの心境を聞いてしまったエヴァは、偉い人も大変なのだな、と思うくらいしか出来なかった。
なにせ、こういう独白みたないモノの時は、既に自分の中で答えは導き出されており、相手に返答を求めてないことが大概なので、大人しく聞いておくに限るのだと、エヴァは経験則から知っていた。
ゆえに、何も聞かずに馬車がゆっくりと止り、扉が開かれたことを見計らい、エヴァはマリエッタより先に降り、手をスッと差し出し、エスコートを買って出た。
ほっそりとした手に重ねられる、華奢で、頼りのない公爵令嬢の絹のグローブに包まれた手。
モスグリーンのドレスが春の風に揺れ、顔を覆い隠しているヴェールが、憂いを演出している。
公爵家の高慢姫を迎えに出た、第一王子は、かつての婚約者を目にして、少しだけ疲れた笑みを浮かべ、腕を広げ。
「待っていたよ、マリー。よく来たね」
マリエッタは、数日前の騒ぎがまるでなかったかのように、ヴェールの下であどけなく微笑み、ゆっくりと、深々と頭を下げて、当初の目的である言葉を紡いだ。
「殿下、先日は大変、失礼をしてしまいまして、申し訳ありませんでした」
くすくすとおかしげな声で「許す」との王子の許しを得てから上半身を起こし、腕を広げ待っていた青年の胸に身を寄せ、ほっと、息を吐いて、もう一度謝罪の言葉を紡いだ。
その様子を、エヴァはただただ混乱しながら見守っていた。
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