9 / 14
⑨謝罪を捧げましょう
しおりを挟むマリエッタは公爵家の馬車が、公爵家の鉄門扉から出て行った音を聞いて、ようやく狸寝入りを止め、ぱちりと目を開いた。
枕元にあるチェストに置いてある鈴で侍女を呼びつけ、外出用のドレスを着させてもらい、化粧をしてもらってから、夫人用ヴェール付きの帽子を被り、黒いハンドバッグにはハンカチと扇を入れ、馬車を用意させ、馭者に行き先を告げる。
ふと、馬車に乗る際視線を感じたマリエッタは、己の向けた視線の先で、夫となる男が従僕として連れてきた線の細い少年を見つけ、顎をクイッと上げ、侍女に連れてくるように命じ、自分は先に馬車に乗って少年が連れられてくるのを待ち、侍女によって強引に馬車に乗せられた少年を認めるなり、外へ短く声を発した。
「出してちょうだい」
ツンと取り澄ました横顔は温かみは感じられず、まるでおとぎ話に出てくる氷の女王のようだと、エヴァは同じ女として、マリエッタに魅入ってしまった。
どこまでも強く、気高く、常に前を見据え、毅然としている姿は、正に女王と呼ぶに相応しい。
ガタガタと揺れる馬車の中、窓から外を見ていたマリエッタが、独り言のように言葉を漏らしたのは、もうじき王宮に着くころのことだった。
「私はね、素直になることが一番、苦手なの。謝ることも苦手だわ。けどね、今日はどうしても謝らなきゃいけないの」
優しい殿下を貶し、傷付けてしまったから、と、マリエッタの心境を聞いてしまったエヴァは、偉い人も大変なのだな、と思うくらいしか出来なかった。
なにせ、こういう独白みたないモノの時は、既に自分の中で答えは導き出されており、相手に返答を求めてないことが大概なので、大人しく聞いておくに限るのだと、エヴァは経験則から知っていた。
ゆえに、何も聞かずに馬車がゆっくりと止り、扉が開かれたことを見計らい、エヴァはマリエッタより先に降り、手をスッと差し出し、エスコートを買って出た。
ほっそりとした手に重ねられる、華奢で、頼りのない公爵令嬢の絹のグローブに包まれた手。
モスグリーンのドレスが春の風に揺れ、顔を覆い隠しているヴェールが、憂いを演出している。
公爵家の高慢姫を迎えに出た、第一王子は、かつての婚約者を目にして、少しだけ疲れた笑みを浮かべ、腕を広げ。
「待っていたよ、マリー。よく来たね」
マリエッタは、数日前の騒ぎがまるでなかったかのように、ヴェールの下であどけなく微笑み、ゆっくりと、深々と頭を下げて、当初の目的である言葉を紡いだ。
「殿下、先日は大変、失礼をしてしまいまして、申し訳ありませんでした」
くすくすとおかしげな声で「許す」との王子の許しを得てから上半身を起こし、腕を広げ待っていた青年の胸に身を寄せ、ほっと、息を吐いて、もう一度謝罪の言葉を紡いだ。
その様子を、エヴァはただただ混乱しながら見守っていた。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
春の雨はあたたかいー家出JKがオッサンの嫁になって女子大生になるまでのお話
登夢
恋愛
春の雨の夜に出会った訳あり家出JKと真面目な独身サラリーマンの1年間の同居生活を綴ったラブストーリーです。私は家出JKで春の雨の日の夜に駅前にいたところオッサンに拾われて家に連れ帰ってもらった。家出の訳を聞いたオッサンは、自分と同じに境遇に同情して私を同居させてくれた。同居の代わりに私は家事を引き受けることにしたが、真面目なオッサンは私を抱こうとしなかった。18歳になったときオッサンにプロポーズされる。
愛しているなら拘束してほしい
守 秀斗
恋愛
会社員の美夜本理奈子(24才)。ある日、仕事が終わって会社の玄関まで行くと大雨が降っている。びしょ濡れになるのが嫌なので、地下の狭い通路を使って、隣の駅ビルまで行くことにした。すると、途中の部屋でいかがわしい行為をしている二人の男女を見てしまうのだが……。
同じアパートに住む年上未亡人美女は甘すぎる。
ピコサイクス
青春
大学生の翔太は、一人暮らしを始めたばかり。
真下の階に住むのは、落ち着いた色気と優しさを併せ持つ大人の女性・水無瀬紗夜。
引っ越しの挨拶で出会った瞬間、翔太は心を奪われてしまう。
偶然にもアルバイト先のスーパーで再会した彼女は、翔太をすぐに採用し、温かく仕事を教えてくれる存在だった。
ある日の仕事帰り、ふたりで過ごす時間が増えていき――そして気づけば紗夜の部屋でご飯をご馳走になるほど親密に。
優しくて穏やかで――その色気に触れるたび、翔太の心は揺れていく。
大人の女性と大学生、甘くちょっぴり刺激的な同居生活(?)がはじまる。
転移先で日本語を読めるというだけで最強の男に囚われました
桜あずみ
恋愛
異世界に転移して2年。
言葉も話せなかったこの国で、必死に努力して、やっとこの世界に馴染んできた。
しかし、ただ一つ、抜けなかった癖がある。
──ふとした瞬間に、日本語でメモを取ってしまうこと。
その一行が、彼の目に留まった。
「この文字を書いたのは、あなたですか?」
美しく、完璧で、どこか現実離れした男。
日本語という未知の文字に強い関心を示した彼は、やがて、少しずつ距離を詰めてくる。
最初はただの好奇心だと思っていた。
けれど、気づけば私は彼の手の中にいた。
彼の正体も、本当の目的も知らないまま。すべてを知ったときには、もう逃げられなかった。
公爵令嬢のひとりごと
鬼ヶ咲あちたん
ファンタジー
城下町へ視察にいった王太子シメオンは、食堂の看板娘コレットがひたむきに働く姿に目を奪われる。それ以来、事あるごとに婚約者である公爵令嬢ロザリーを貶すようになった。「君はもっとコレットを見習ったほうがいい」そんな日々にうんざりしたロザリーのひとりごと。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる