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⑩婚約破棄のその後のからくりを話してやろう
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どうやら、初夜は失敗したらしい。
我が異母兄ながら、なんと初心なことか、と、 シュタットは伏せ眼がちで向いのソファでゆっくりと花茶を飲む、幼馴染兼元婚約者の少女を観察しながら、異母兄を思った。
身勝手な現王と淫乱で狡猾な女の犠牲となった元神官の異母兄。
今日から三日三晩、不眠不休で儀式に臨み、晴れて還俗が赦されると聞いた時には、そこまで厳しい儀式をなぜ必要とするのかと疑問に思ったが、本人と神殿側が異を唱えなければ、何も変えることは出来ないと、賢すぎる彼は知っていた。
何事にも急な変革は争いを産む。
まずは少しづつ己の手に権利と、消して裏切らない臣下を集めなければならないと、シュタットは幼い頃から少しづつ駒を揃えつつ、動かし、時には裏切られながらも今日まで来た。
計画は多少の問題はあったが、最終段階へと突入し、長年国の犠牲となっていた異母兄と元婚約者である少女を解放できたことで、ほっと一安心しているのが実情だったりするのだが。
「殿下、あの娘はどうなさいました?」
「うん?どの娘のことかな?マリー」
「もう、私の胸が平らだと嘲笑った牛の乳のような胸を持った、娘のことですわ」
つい先日のことですのに、忘れてしまいましたの?と、コトリと首をかしげる少女に、シュタットは「ああ」と、おかしげに笑い、何でもないようにサラリと予想外のことを口にした。
「あの娘なら、私の側近候補の篩に使ってね。役に立ってくれたから罪を一等免じて、北の戒律が厳しい修道院に送ったよ。あそこは彼女のような女性でも満足してくれるのではないかな」
北の修道院。
そこは戒律が厳しいとの建前で、神々に仕える女の園だが、実は国営の娼館、しかも問題を起こした女が寄せ集められた牢獄のような場所だ。
一度その修道院に入れられた女が、元の世界に戻れるのは女が骸になった時か、よほどのモノ好きが女を買い取った時だけである。
勿論、買い取られた後の生存は保証できない。
白磁に青い絵具で絵付けされているカップの持ち手に指を引っ掛け、自分で要れたお茶を飲むシュタットは、誰が見ても次期国王に相応しい風格を備えているし、マリエッタとも仲は良好そうに見える。
ならばなぜ、マリエッタはシュタットを粗チン野郎と初めて会った際に、グレイルに言ったのだろうか。
紅毛の絨毯上で寛ぐ白いデブ猫、もとい、シュタットの飼い猫はくああああ、と大きく欠伸をし、その体格に似合わずに軽やかに王子の膝に飛び乗り、丸くなった。
王子は王子でそんな愛猫の背を優しく撫で。
「そういえば、マリー。君、私のことを粗チン野郎っと罵ったんだって?影から報告受けて、笑ってしまったよ」
君と私は身体には触れあったが、それは前戯の段階で、君の太ももにはお世話になったけれど、と、にっこりほほ笑む王子に、マリエッタは飲んでいた花茶をぶふぉっと吐き出しかけ、瞳をきょどきょどさせ、やがて観念したのか、頭をぺこりと下げた。
「だって、殿下だけが汚れ役を引き受けることはないと思ったんですもの。私も処女ではないと思わせとおけば、処女好きの変態は近寄らないかと思って、利用したのですわ。私は」
部屋にはマリエッタとシュタット、そしてデブ猫とエヴァしかいないと言う環境下だからこそ、あの日の舞台裏が生々しく暴露されてゆく。
エヴァは、もはや許容量オーバーだった。
なにコレ、偉い人たちの腹黒感恐い。お姫様も王子様も真っ黒じゃんか。と思ってても、誰も責めはしない。
むしろ、生易しい瞳で肩を優しくたたかれ、慰められるであろう。
そんな哀れで可哀想な子羊状態のエヴァに、特大の攻撃が与えられた。
「そこにいるエヴァは、神殿上がりの娘です。殿下の好みの生真面目で、優しい娘ですわ。妃殿下に相応しいかと」
「ふぅーん?でも彼女は何か目指してるモノがあるんじゃないかな」
まあ、数年後は引退して貰うけど、と、勝手に己の道が敷かれてゆくことに、最初は驚き、固まっていたが、やがて、ゆっくりと膨れ上がってきた怒りと、今まで蔑にされてきた神殿生活の鬱憤が爆発し。
「テメエラ、勝手に人の生き様を決めつけんじゃねーぞ、ゴラァあ!!」
娘らしくない、低いドスのきいた怒声に、王子であるシュタットと、その元婚約者である公爵令嬢のマリエッタは、きょとんとしていたが、やがてどちらともなくクスクスと笑い出し、茶会の空気は明るいものとなった。
後に、王太子となり、王となったシュタットと、その王の良き理解者となるスーデン家の公爵夫人はことあるごとに国王の妃となった娘を揶揄い、愛でたと王家の史書に刻まれることとなる。
我が異母兄ながら、なんと初心なことか、と、 シュタットは伏せ眼がちで向いのソファでゆっくりと花茶を飲む、幼馴染兼元婚約者の少女を観察しながら、異母兄を思った。
身勝手な現王と淫乱で狡猾な女の犠牲となった元神官の異母兄。
今日から三日三晩、不眠不休で儀式に臨み、晴れて還俗が赦されると聞いた時には、そこまで厳しい儀式をなぜ必要とするのかと疑問に思ったが、本人と神殿側が異を唱えなければ、何も変えることは出来ないと、賢すぎる彼は知っていた。
何事にも急な変革は争いを産む。
まずは少しづつ己の手に権利と、消して裏切らない臣下を集めなければならないと、シュタットは幼い頃から少しづつ駒を揃えつつ、動かし、時には裏切られながらも今日まで来た。
計画は多少の問題はあったが、最終段階へと突入し、長年国の犠牲となっていた異母兄と元婚約者である少女を解放できたことで、ほっと一安心しているのが実情だったりするのだが。
「殿下、あの娘はどうなさいました?」
「うん?どの娘のことかな?マリー」
「もう、私の胸が平らだと嘲笑った牛の乳のような胸を持った、娘のことですわ」
つい先日のことですのに、忘れてしまいましたの?と、コトリと首をかしげる少女に、シュタットは「ああ」と、おかしげに笑い、何でもないようにサラリと予想外のことを口にした。
「あの娘なら、私の側近候補の篩に使ってね。役に立ってくれたから罪を一等免じて、北の戒律が厳しい修道院に送ったよ。あそこは彼女のような女性でも満足してくれるのではないかな」
北の修道院。
そこは戒律が厳しいとの建前で、神々に仕える女の園だが、実は国営の娼館、しかも問題を起こした女が寄せ集められた牢獄のような場所だ。
一度その修道院に入れられた女が、元の世界に戻れるのは女が骸になった時か、よほどのモノ好きが女を買い取った時だけである。
勿論、買い取られた後の生存は保証できない。
白磁に青い絵具で絵付けされているカップの持ち手に指を引っ掛け、自分で要れたお茶を飲むシュタットは、誰が見ても次期国王に相応しい風格を備えているし、マリエッタとも仲は良好そうに見える。
ならばなぜ、マリエッタはシュタットを粗チン野郎と初めて会った際に、グレイルに言ったのだろうか。
紅毛の絨毯上で寛ぐ白いデブ猫、もとい、シュタットの飼い猫はくああああ、と大きく欠伸をし、その体格に似合わずに軽やかに王子の膝に飛び乗り、丸くなった。
王子は王子でそんな愛猫の背を優しく撫で。
「そういえば、マリー。君、私のことを粗チン野郎っと罵ったんだって?影から報告受けて、笑ってしまったよ」
君と私は身体には触れあったが、それは前戯の段階で、君の太ももにはお世話になったけれど、と、にっこりほほ笑む王子に、マリエッタは飲んでいた花茶をぶふぉっと吐き出しかけ、瞳をきょどきょどさせ、やがて観念したのか、頭をぺこりと下げた。
「だって、殿下だけが汚れ役を引き受けることはないと思ったんですもの。私も処女ではないと思わせとおけば、処女好きの変態は近寄らないかと思って、利用したのですわ。私は」
部屋にはマリエッタとシュタット、そしてデブ猫とエヴァしかいないと言う環境下だからこそ、あの日の舞台裏が生々しく暴露されてゆく。
エヴァは、もはや許容量オーバーだった。
なにコレ、偉い人たちの腹黒感恐い。お姫様も王子様も真っ黒じゃんか。と思ってても、誰も責めはしない。
むしろ、生易しい瞳で肩を優しくたたかれ、慰められるであろう。
そんな哀れで可哀想な子羊状態のエヴァに、特大の攻撃が与えられた。
「そこにいるエヴァは、神殿上がりの娘です。殿下の好みの生真面目で、優しい娘ですわ。妃殿下に相応しいかと」
「ふぅーん?でも彼女は何か目指してるモノがあるんじゃないかな」
まあ、数年後は引退して貰うけど、と、勝手に己の道が敷かれてゆくことに、最初は驚き、固まっていたが、やがて、ゆっくりと膨れ上がってきた怒りと、今まで蔑にされてきた神殿生活の鬱憤が爆発し。
「テメエラ、勝手に人の生き様を決めつけんじゃねーぞ、ゴラァあ!!」
娘らしくない、低いドスのきいた怒声に、王子であるシュタットと、その元婚約者である公爵令嬢のマリエッタは、きょとんとしていたが、やがてどちらともなくクスクスと笑い出し、茶会の空気は明るいものとなった。
後に、王太子となり、王となったシュタットと、その王の良き理解者となるスーデン家の公爵夫人はことあるごとに国王の妃となった娘を揶揄い、愛でたと王家の史書に刻まれることとなる。
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