屍王の帰還~元勇者の俺、自分が組織した厨二秘密結社を止めるために再び異世界に召喚されてしまう~

Sty

文字の大きさ
3 / 5

屍王様、再臨

しおりを挟む
「じゃ、ちゃちゃっと送り出そっか」

「そんな軽い感じなの!? もうちょっとなんかない!?」

「ないよ、二回目だし説明なんていらないでしょ?」

 黒歴史に悶える俺を両手で揺すった神が指を鳴らすと、白一面の空間に青い光の球体が現れる。
 前もこれに触れた瞬間、俺達を召喚した神聖国に送られたんだ。

「……今回はどこに送られるんだ?」

「ランダム。座標の指定なんてできないし……君ならどこからスタートしても何とかなるでしょ?」

「無茶言うなぁ!?」

「最低限空気と地面がある場所だから気にしない気にしない!」

「ちょ、待て待て! 異能は!? 魔法は!? 前の状態を引き継ぐんだよな!?」

「リセットされま~す。君が神髄まで極めた氷魔法も……屍王たる所以の『あの異能』もね」

 その言葉に、なんとも言えない感情が巻き起こる。
 別に、今さら強さに未練はない。まあ本当にヘルヘイムの奴らが暴れてるんだとしたら、弱いままじゃダメだけどさ……。

 俺の異能の進捗もすべてリセット……。これはちょっとクるものがある。
 
「仕方ないんだよ。一回世界を離れた人間はそうなっちゃうんだ」

「…………ああ、わかったよ」

「君のクラスメイトへの恩返しは悪魔王を討伐した時に終わってるんだから、あんま落ち込まないで」

 神の言葉に返事は返さない。
 割り切ろうにも割り切れないものは、俺にもある。
 
 まあ、行くんだけどさ、異世界。
 ヘルヘイムの奴らが暴れてるんだとしたら、俺に責任あるし。
 勘違いだとしても、何も言わずに消えたからそれなりの反応もあるだろう。

「――――よし!」

 頬を両手で叩いて覚悟を決める。
 過去の清算と、ヘルヘイムの名前を使って好き勝手する奴への報復。
 
 また、家族には心配かけちゃうな……。
  
「安心しなよ。今回は時間の齟齬がほとんど起こらないように調整してあげるから」

「マジかよ。じゃあ、気にすることもないか」

 自分の感覚がずれてることも自覚してる。
 異世界から帰ってきてから、なんとなく周りとの致命的なずれを感じることが多くなった。
 屍王なんて恥ずかしい名前を名乗ってる間に、そっち側にひっぱられてたんだろうな。

「あー……今回は屍王って名乗るの止めよ……」

「その決意、意味ないと思うけどなぁ……」

 不穏なことを俺の背中に投げかける神を無視し、青い球体の前に進む。
 あとは触れるだけだ。

 あれ? そう言えば…………

「なあ」

「ん?」

「俺の異能がリセットされたって……あいつらの封印ってどうなってる?」

「消えてるよ」

「――――――お、終わった……」

「大丈夫だよ。あの子たち、封印が消えた後も君を信じて自力で約束を守ってるみたい」

「そ、そうなのか?」

「うん」

 神は自信満々に頷いた。
 ああ、そうか。

 だとしたら、

「やっぱヘルヘイムが暴れてる、ってのは納得いかねえな」

 あいつらが俺を裏切った訳じゃない、ってことだ。
 なんだよ……黒歴史とか言っておきながら、やっぱ大事なんじゃねえかよ。

 青い球体に手を伸ばす。

「――――屍王」

「その名前で呼ぶなッ!!」

しかばねを積み上げ、その上に君臨する凄惨の王よ―――――その力を、天上の者として讃えよう。……世界を一度救った君への、ちょっとしたご褒美だよ」

「……そうかよ……」

 やっぱ、黒歴史には変わりないな。

 球体に触れた瞬間、部屋を光が埋め尽くす。

「――――再臨だ」

 神が臨場感たっぷりに宣言した。
 昔の俺だったら、めっちゃテンション上がったんだろうなぁ。

 俺の意識は、青い光に刈り取られた。



■     ■     ■     ■



「…………ん」

 木の葉の擦れる音。風の音。木漏れ日に、鳥の声。

 光に慣れていない眼で懸命に状況を確認すると、どうやらここは森の中だ。
 回りに生き物の姿はない。

 転移は無事成功したみたいだな。

 上体を起こして、久しぶりなのに身体に染み付いた所作で『魔力』を身体に流す。

 この世界の生物のほとんどには、血管に沿うように『魔力路』と言われる器官があり、そこに流れる魔力の量は個人差がある。
 増やす方法も当然あるが……今はそれよりも確認が先だな。

 巡る魔力を感覚的に理解すると、脳に情報が流れ込んでくる。


―――――――――――――

 シオー・ヒザキ

 使用可能魔法
 【氷魔法】・Lv1

 異能
 【死の祝福】
  1.命を奪った生物の総数に応じて、権能開放。 0/100
  2.命を失った友好的な存在の総数に応じて、異能習得。 0/1

 称号
 【屍王】
  神によってその偉業を認められた証。
  魔法成長率に絶大補正。

――――――――――――――


 これである。
 この異能こそすべての元凶。
 かつて中二病を患っていた俺の心に火をつけてしまった、最悪にして最強の武器。

 【死の祝福】

 一つ目の条件はまだ良い。
 生物を倒せば倒すほど自分の力が解放されていくってな感じだ。
 生物っていうのは、この世界に蔓延る悪魔でも……もちろん人間でもいい。
 単純明快で、強力無比な異能だ。

 だが、二つ目。

 死んでしまった友好的な存在の数に応じて異能を増やすっていう、最低の異能でもある。
 友好的な存在……俺にとってはクラスメイトだった。

 クラスメイトが死んだ瞬間、そのクラスメイトの異能が俺に流れ込んできた時は狂うかと思った。

 今回は、二つ目の条件の出番はない。

「さて……とりあえずここどこだよ」

 辺りを見回しても何もない。
 進まないことにはどうにもならなそうだな。

「えーと……氷剣グラギウス

 魔力が霜を纏って顕現すると、俺の手のひらには氷で出来た剣が握られていた。
 軽く振っても問題なさそうだ。

「ひとまず、探検と行くか!」

 冷静を装っても、再び呼ばれた異世界に浮足立つ心はどうやら昔のままみたいだ。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件

さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。 数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、 今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、 わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。 彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。 それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。 今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。   「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」 「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」 「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」 「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」   命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!? 順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場―― ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。   これは―― 【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と 【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、 “甘くて逃げ場のない生活”の物語。   ――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。 ※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

【完結】異世界に転移しましたら、四人の夫に溺愛されることになりました(笑)

かのん
恋愛
 気が付けば、喧騒など全く聞こえない、鳥のさえずりが穏やかに聞こえる森にいました。  わぁ、こんな静かなところ初めて~なんて、のんびりしていたら、目の前に麗しの美形達が現れて・・・  これは、女性が少ない世界に転移した二十九歳独身女性が、あれよあれよという間に精霊の愛し子として囲われ、いつのまにか四人の男性と結婚し、あれよあれよという間に溺愛される物語。 あっさりめのお話です。それでもよろしければどうぞ! 本日だけ、二話更新。毎日朝10時に更新します。 完結しておりますので、安心してお読みください。

友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。

石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。 だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった 何故なら、彼は『転生者』だから… 今度は違う切り口からのアプローチ。 追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。 こうご期待。

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。

みこみこP
ファンタジー
高校2年の夏。 高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。 地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。 しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。

男女比1対5000世界で俺はどうすれバインダー…

アルファカッター
ファンタジー
ひょんな事から男女比1対5000の世界に移動した学生の忠野タケル。 そこで生活していく内に色々なトラブルや問題に巻き込まれながら生活していくものがたりである!

処理中です...