千尋くんは、可愛いでねじふせる!?

月塔珈琲

文字の大きさ
8 / 11

カシキマツリカ。

しおりを挟む
「マシロ、悪いけどメイクもオレがやるから、道具一式貸して!」

 チヒロ君がそう言うと、マシロさんは頷いて大きな黒のメイクボックスを洗面所に持ってきた。

 力が抜けて洗面所で座り込んでしまい、立ち上がれないわたし。

 もうどうにでもなればいいんだ。わたしは無抵抗のままチヒロ君にメイクをされていく。

 申し訳ないけどチヒロ君、わたしプロのアーティストさんにメイクをしてもらってもブスだったんだ。

 だから耐え切れなくなって芸能界を辞めた。

 あなたがどんなに頑張ったって、無理だよ。

「おまえに何があったかなんて知らない。でもおまえがもう一度戦うなら、オレが全力サポートしてやる」

 戦う? 誰と?

 誹謗中傷してきた人たち?

 サイン会のあの男?

「いいか、おまえの敵はおまえ自身だ。戦え、自分自身と」

 腕を引っ張られ、立ち上がらされる。ぽん、と軽く背中をたたかれた。

 そのまま洗面台の鏡を見る。

 映っていたのは――……

「武装ってのはこういうことだ。おまえの可愛さで悪口いうやつ全員ねじ伏せろ!」

 映っていたのは、雑誌のモデルさんのような、ううん、それ以上の透明感ある女の子。

 子役をやっていた時とは違う、ちょっと大人っぽいメイク。でもあどけない可愛さもある。

 自分の姿を見たら、ぽろっと涙が零れ落ちて、それを拭おうとすると、チヒロくんが慌ててわたしの手を掴んで止めた。

「いくぞ! 戦場へ! 今のおまえなら世界中の可愛いを奪い取れる!」

 マシロ! ドレス持ってきて! とチヒロ君がマシロさんを呼んだ。

 ドレスを渡されて、素敵なメイクの自分がいて。それでもわたしは身動きが取れない。

 チヒロ君が何か言おうとするのを、マシロさんが制止した。

「最後に決めるのはあなたよ。戦うか降伏するか。自分で決めなさい」

 答えは出ている。もう一度戦いたい。でも、動けない。

「悪いようにはしない。俺たちを信じて、おまえ自身も信じろ」

 チヒロ君が洗面所を出て行った。マシロさんが後に続く。

 再び鏡を見て、わたしは自分に問いかける。

「もう一度、戦える?」

 鏡の中の自分が、ゆっくり頷いた。



 ☆


「そんなわけでユキシロは今日体調不良でお休みね。代わりに特別なモデルを呼んでるから、オレの新作ドレス見てよ」

 チヒロくんとマシロさんが、カメラの前で喋っている。わたしはチヒロ君がデザインして作ったというドレスを着て、ゆっくりカメラの前に立った。

 花の妖精みたいな、淡いピンクのドレス。バラの花をさかさまにしたようなスカート部分が綺麗で、なんだか足がすらりと長くなったみたいに見える。全体的なシルエットが美しい。

 チヒロ君はタブレットを手に取り、チャットのコメントを読み上げる。

「可愛い!」

「モデル誰? めちゃくちゃ可愛い!」

「モデルかわいすぎる」

「っておい! オレのドレスの感想言えよ!」

 チヒロ君が小さい子供のように頬を膨らませた。マシロさんが笑う。

 わたしもつられて笑ってしまった。

「おい笑うなよ、と言いたいとこだけど、笑うとさらに可愛いだろ、うちのモデル」

 その後もチャット欄は「モデル可愛い」の嵐だった。わたしは正直これは夢だろうと思っていた。

 まだ、わたしの中の甲斐田茉莉花が、うぬぼれるなよと言う。

 でも、夢くらい見たっていいよね? こんなに可愛くしてもらったんだもん。

 そんな夢の中、目が覚めるコメントがタブレット画面に流れてきた。

「ねぇ、このモデル、カシキマツリカじゃない?」

 チヒロ君がコメントを読み上げ、ぴたりと動きを止めた。



 本当だ、カシキマツリカに似てる。



 カシキマツリカって、あの子役の?



 子役やめちゃった子だよね? カシキマツリカ。




 チャット欄がカシキマツリカの文字で埋まっていく。

 わたしの背中に、いやな汗がつたう。

「違うよ。おまえらの言うカシキマツリカじゃないよ。うちのモデル。ていうかカシキマツリカって誰だよ。うちのモデルはそこらの人間とは違うの」

 わたしのこわばっていく表情を見て、チヒロ君がとっさにそう言った。

 マシロさんがカメラを自分に向けて言う。

「はいはーい。今回のドレスはフォレストゲートというイベントでも展示します。実物見たい人はぜひ来てね」

 コメント欄はまだカシキマツリカで埋め尽くされている。わたしはあの日の悪夢がフラッシュバックして頭の中を駆け巡っていた。

「茉莉花ちゃんって、ブスだよね」

 そうだ。わたしは樫木茉莉花。ブスな子役で、みんなから嫌われていて。

 何を夢見てんだわたし。バカみたい。

 ぽろぽろと涙がこぼれて、タブレットの画面が見えなくなっていく。

 この場にいるのが耐え切れなくなって、わたしはチヒロ君のドレスを着たまま部屋を飛び出した。

 そのあとのことは、あまり覚えていない。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

童話短編集

木野もくば
児童書・童話
一話完結の物語をまとめています。

14歳で定年ってマジ!? 世界を変えた少年漫画家、再起のノート

谷川 雅
児童書・童話
この世界、子どもがエリート。 “スーパーチャイルド制度”によって、能力のピークは12歳。 そして14歳で、まさかの《定年》。 6歳の星野幸弘は、将来の夢「世界を笑顔にする漫画家」を目指して全力疾走する。 だけど、定年まで残された時間はわずか8年……! ――そして14歳。夢は叶わぬまま、制度に押し流されるように“退場”を迎える。 だが、そんな幸弘の前に現れたのは、 「まちがえた人間」のノートが集まる、不思議な図書室だった。 これは、間違えたままじゃ終われなかった少年たちの“再スタート”の物語。 描けなかった物語の“つづき”は、きっと君の手の中にある。

四尾がつむぐえにし、そこかしこ

月芝
児童書・童話
その日、小学校に激震が走った。 憧れのキラキラ王子さまが転校する。 女子たちの嘆きはひとしお。 彼に淡い想いを抱いていたユイもまた動揺を隠せない。 だからとてどうこうする勇気もない。 うつむき複雑な気持ちを抱えたままの帰り道。 家の近所に見覚えのない小路を見つけたユイは、少し寄り道してみることにする。 まさかそんな小さな冒険が、あんなに大ごとになるなんて……。 ひょんなことから石の祠に祀られた三尾の稲荷にコンコン見込まれて、 三つのお仕事を手伝うことになったユイ。 達成すれば、なんと一つだけ何でも願い事を叶えてくれるという。 もしかしたら、もしかしちゃうかも? そこかしこにて泡沫のごとくあらわれては消えてゆく、えにしたち。 結んで、切って、ほどいて、繋いで、笑って、泣いて。 いろんな不思議を知り、数多のえにしを目にし、触れた先にて、 はたしてユイは何を求め願うのか。 少女のちょっと不思議な冒険譚。 ここに開幕。

クールな幼なじみの許嫁になったら、甘い溺愛がはじまりました

藤永ゆいか
児童書・童話
中学2年生になったある日、澄野星奈に許嫁がいることが判明する。 相手は、頭が良くて運動神経抜群のイケメン御曹司で、訳あって現在絶交中の幼なじみ・一之瀬陽向。 さらに、週末限定で星奈は陽向とふたり暮らしをすることになって!? 「俺と許嫁だってこと、絶対誰にも言うなよ」 星奈には、いつも冷たくてそっけない陽向だったが……。 「星奈ちゃんって、ほんと可愛いよね」 「僕、せーちゃんの彼氏に立候補しても良い?」 ある時から星奈は、バスケ部エースの水上虹輝や 帰国子女の秋川想良に甘く迫られるようになり、徐々に陽向にも変化が……? 「星奈は可愛いんだから、もっと自覚しろよ」 「お前のこと、誰にも渡したくない」 クールな幼なじみとの、逆ハーラブストーリー。

夜寝たくなくて朝起きたくない

一郎丸ゆう子
絵本
大人のための絵本です。現代人って夜寝たくなくて朝起きたくない人が多いな、でも、夜は寝ないと困るし、朝は起きないとなんないなんだよね、なんて考えてたら出来たお話です。絵はcanvaで描きました。

【完結】カラフルな妖精たち

ひなこ
児童書・童話
星野愛虹(ほしの・あにー)は小学五年女子。絵を描くのが大好き。ある日、絵を描いていると色の妖精・彩(サイ)の一人、レッドに出会う。レッドはガスの火を変化させて見せる。サイは自分の色と同じ物質をあやつり、人の心にまで影響できる力を持つ。さらにそのサイを自由に使えるのが、愛虹たち”色使い”だ。  最近、学校では水曜日だけ現れるという「赤の魔女」が恐れられていた。が、実はサイの仲間で凶悪な「ノワール」が関わっていた。ノワールは、人間の心の隙間に入り込むことを狙っている。彼を封印するには、必要な色のサイたちをうまく集めなくてはいけない。愛虹の所有するサイは、目下、赤と白。それでは足りず、さらに光のカギもないといけない。一体どこにあるの?仲間を探し、サイを探し。   これは愛虹と仲間たちが、たくさんの色をめぐって奮闘する冒険物語。児童向け、コミカルタッチの色彩ファンタジーです。

ノースキャンプの見張り台

こいちろう
児童書・童話
 時代劇で見かけるような、古めかしい木づくりの橋。それを渡ると、向こう岸にノースキャンプがある。アーミーグリーンの北門と、その傍の監視塔。まるで映画村のセットだ。 進駐軍のキャンプ跡。周りを鉄さびた有刺鉄線に囲まれた、まるで要塞みたいな町だった。進駐軍が去ってからは住宅地になって、たくさんの子どもが暮らしていた。  赤茶色にさび付いた監視塔。その下に広がる広っぱは、子どもたちの最高の遊び場だ。見張っているのか、見守っているのか、鉄塔の、あのてっぺんから、いつも誰かに見られているんじゃないか?ユーイチはいつもそんな風に感じていた。

まぼろしのミッドナイトスクール

木野もくば
児童書・童話
深夜0時ちょうどに突然あらわれる不思議な学校。そこには、不思議な先生と生徒たちがいました。飼い猫との最後に後悔がある青年……。深い森の中で道に迷う少女……。人間に恋をした水の神さま……。それぞれの道に迷い、そして誰かと誰かの想いがつながったとき、暗闇の空に光る星くずの方から学校のチャイムが鳴り響いてくるのでした。

処理中です...