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村修行編ファイナル

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「妖精さんとは何ですか?」

 夕食後、戦術基礎の前にチョウタ君に気になっている事を直接聞きました。

「妖精さんはいつでもどこでもこの世界にいるんだよ。ほら、サラの姉御の足元にも」

 見えません。なにもいるような気配すらありません。得体のしれない謎の存在、妖精さんは私には理解できていません。なるべくイレギュラー要素は減らしたいのですが難しいですね。



 今日の最後は戦術基礎の授業。牢屋内で行われるこの授業は先輩が戦いにおいてのセオリーのようなものを教えてくれていたのですが、詰め込まれた野菜の満腹感からかはたまたここまでの畑仕事や子供たちとの触れ合いで疲れ切っていたのか彼らは半分寝ていました。それを先輩は叱るでもなく優しく見守っていました。

「明日からはビシバシいくからな」

「あ、ベニマル君は起こしてください他二人はいいです。彼はちょっと優しくするとつけあがるので」

「お、おう」

 ベニマル君にあの時の仕返しをしつつ、私はセリアが待っているのでこの辺で失礼しました。



 十日ほどの時間が過ぎました。少年たちもここの暮らしに慣れ始めたころついに成長を見せ始めます。

「おっしゃあ収穫完了」

 ついに指先にすべてのスキルを付与させて人参1本を収穫しました。毎日毎日朝畑に出て抜けない根菜との戦いはこれにて終了です。全員が人参の収穫に成功しています。

「スキル習得ってやつがこんなにも手間がかかるとはおもわなかったぜ」

「あなたたちはこれでも早かった方らしいですよ」

 基礎スキルの獲得にはこれが一番効率いいらしいと幸太郎さんの残したメモに書いてありました。幸太郎さんは一か月かかっているのに対してこの少年たちは十日ほどでの取得、これは若さがなせる業なのでしょうか。

「才能か、俺たちマジべーわ」

「妖精さんだけに頼っていられない」

 少年たちの顔は自身に満ち溢れていました……この時までは。



「村長の頼みだからね、がんばっては見ているけど、さすがに歳だからきついわ」

 タリアンさんが伸びをしています。

「お前はまだまだいけるよ。それよりも俺の腰の方がやばい」

 子供達との訓練が終わりダイモンさん夫婦にパーティでの連携指導を頼んだ結果、近場の魔物がでそうな平原にきました。最初に二人の連携を見せていただいたのですが流石の一言に尽きます。巨大なネズミが数匹現れたのですが、言葉もほとんど交わさずにできる自分の役割を理解した動きには無駄がなく、5分とたたずに倒してしまいました。

「俺たちもあんな風にできるのか」

 アキト君は憧れを抱いた目で夫婦を見ていますね。

「というか奥さんがいる時点でうらやましいんだが」

 ベニマル君はそれとは別のあこがれを抱いている気がします。

「妖精さんが見えれば連携取りやすいんだけどね」

 三者三葉の返答ですがチョウタ君だけ感想が異次元です。

「大丈夫よ。こういうのは数さね。経験を積めばそのうち嫌でも体は動くよ」

「この付近でここの野菜を食って大量繁殖したこのネズミ共に村も悩まされていたんだ。経験も積めて村への貢献もできるこんないいことわないね」

 この村の野菜を食べたネズミというだけで恐怖が沸いてきます。倒したネズミのステータスを確認します。全体的にその辺の魔物より能力値が高く、なぜか硬質化のスキルまで持っている突然変異種です。

「さ、次の獲物が来るよ。そろそろあんたたちも構えな」

「まって、何も教えてもらってないんだけど?」

 ベニマル君、それは私も思いました。

「戦いながらでいいんだよ。こういうのは実戦に口挟みながらのほうが理解が早いんだ」

  実戦あるのみ、フィーリングスタイルです。まあ、お急ぎコースで頼んだのは私ですので文句は言いませんよ。頑張ってください少年たち。

 最初のうちは苦戦していた少年たちも日が暮れる頃にはある程度形になった戦闘をしネズミを数匹倒せていました。



 さらに十日の時間が過ぎました。セリア達に頼んでいた情報収集作業も大分終わりました。少年たちも朝は畑での作業と老人たちとの触れ合い、昼はネズミ討伐、夜は根性を叩きなおすための教育、そして毎食ここの野菜をたらふく食べたことによる効果が着実に出てきています。

「そろそろ実践してもよさそうですね。皆さんおはようございます」

 セリアと一緒に地下牢へ朝の挨拶に来ました。地下牢と行っても結構生活感が出てきていますし、もうカギはかけていません。

「おはよう姉御、セリア姉さん。今日も朝は畑仕事にいけばいいのか」

「いいえ違います。今日は皆さんにお願いがあります」

「お願い?」

「クラメイトの方々を倒してほしいのです」

 間ができますね。言葉を理解するのに時間がかかっているようです。

「俺たちが」

「自分のクラメイトを」

「倒す?」

 仲がいいですね。3人で私の言葉を確認してくるなんて。

「はい、よろしくおねがいします」

 私は冗談ではないというのが伝わるように言いました。

「急に何を言い出すかと思えば、クラスメイトを倒せ?いやぁまじかー顔がマジだなー。別にクラスメイトだから手を出せないっていうことは全くこれっぽっちもねーんだけどよ」

 不思議ですね。性根を叩きなおすための教育も多少はやったはずなのに今の発言で疑わしくなりました。

「最初のころにあいつらにたてついてズタボロにされた俺たちじゃ無理じゃね?俺たちが成長したってことはそれだけあっちもべーことになってるってことっしょ」

 相手の力量を考えることができるようになっただけでも成長だと思いますよ。

「それにあいつら倒すメリットがない」

「大丈夫今のあなた達なら勝てますよ。それにメリットならあります。あなた達を元の世界に返してあげましょう」

「……そうか」

「……姉御べーわ」

「……」

 嬉しそうなんですけどどこか違う感情も入り混じっているような気がします。

「皆さん?」

「いや、なんでもねー。よし、やってやるよ。ようやく俺たちが見捨てられずにここまで育ててくれたかわかった気がするしな」

 アキト君は自分の顔をパンパンと手でたたくと決意を新たに立ち上がります。

「だな、恩を返せってアホみたいに教えられたのもこのためっしょ」

「ナンノコトカワリマセンネー」

 ベニマル君はそういうとこだけ鋭いですね。

「妖精さんの力は無限大」

 チョウタ君やる気はあるみたいなのでよかったです。

 ようやく計画のスタート地点に立てた感じです。さあ始めましょう、私が女神に至るための試験を。

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