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一家皆殺しの押込強盗に遭遇した少女の話 ──『我衣』、『街談録』より
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二人の賊は、雨戸をはずす手間がなくなり、要蔵のひらいた開戸から屋敷のなかに入り込み、要蔵の死体を土間の端に転がした。死体を戸口前に置いたままでは、人目につくのを恐れたのだった。
質蔵の方が騒ぎになっている様子はない。抵抗にあってやりあう声など聞こえてこない。こちらの屋敷にだれかが駆け付ける気配もない。
賊たちが龕灯で土間をぐるりと照らすと、土間に横たわる一人の男の影が浮かび上がった。
予想していたとおりだった。この家の子飼いの下男の筈だ。もういい年寄りで、昼間の野良仕事にくたびれ果て、さっきの男が殺された時の音にも目覚めることがなかったのだろう。
二人の賊は暗闇のなかでうなずきあい、短躯小太りの方が、その寝ている老人の側に近づいていき、痩身蓬髪の男はもう後も見ず、座敷に土足のまま上がった、
寝静まっているうちに、まず主人一家いがいの小者たちを片付ける手筈になっていたのである。使用人は災難にあえば逃げることしか考えないが、血族たちはそのひとりでも人質をとれば、扱うのはたやすいと踏んでいた。
市郎兵衛に狙いを定めて以後、すでにこの家の小作や出入りの商人から家の内情を細かく探りだしている。下男と下女が四人。市郎兵衛一家は弟夫婦もふくめて六人。この弟が家のなかで一番屈強で厄介な存在だと知れた。しかし、今晩は江戸に泊まりとなって不在である。下川崎村を知行所とする旗本に金の用立てを頼まれた、その金を届けに赴いていた。まだ組頭で名主もつとめない市郎兵衛ではあったが、家を大きくするために殿様の機嫌をとるのに弟が遣わされた。そうして村のみなも疲れて眠る稲刈り後の夜の決行となったのだ。
小さい方の賊が造作なく老人をなます斬りとして、絶命させているあいだに、やせた賊は奥の下女部屋を探した。その部屋は簡単にみつかった、そこで寝ていたなつにとって幸いなことがあったとすれば、殺されるという恐怖をあじわうことなく、命果てたことだったかもしれない。これほどの騒ぎをよそにまだ夢の中にあった彼女をめがけ、盗賊が突き出した刃は、乳房の下から心の臓をまっすぐ貫き、背中を抜けて、敷き布団を裂いた。さすがに激しい痛みに一気に夢の世界から引きずり出された。しかし、刀を抜いて、二の刃を加えようとするとき、傷口から天井を汚すほど吹き出した血潮の量があまり多く、いまなにが自分に起こっているのか悟ったり、さらに闇雲に加えられた滅多斬りの痛みも感じ取ることなく、息絶えた。眠りについた位置から微動だにしていなかった。死後の検視には、即死と記されているが、まさにそのとおりの最期だった。
何もかもが順調と思えた賊であったが、ここで予定していなかった事態に直面した。刺し殺した女の横にはうすい布団と夜着がおかれている。しかし、もぬけの殻で布団をさわってもすでに冷えていて、ずっとまえに抜け出ている。この狭い三畳間に隠れる様な場所はない。思い起こしてもここまでに、自分たちいがいに動いている人影はみていない。取り逃がしたのかも知れないが、あとは質蔵あたりで見張り役をする一人にまかせるしなかった。
主人家族が眠る部屋の前に戻ると、すでにもう一人の賊が前で待ち構えていた。これで殺せる使用人はみな殺した。残されたのは、市郎兵衛、その母、妻、娘二人。男はひとりで後は、非力な女子供しか残されていない。金のありかを吐かせるのに、一人大人を残せばいい。二人は襖をそっとひらいて、だれひとり逃がさぬよう、同時に踏み込んだ。
質蔵の方が騒ぎになっている様子はない。抵抗にあってやりあう声など聞こえてこない。こちらの屋敷にだれかが駆け付ける気配もない。
賊たちが龕灯で土間をぐるりと照らすと、土間に横たわる一人の男の影が浮かび上がった。
予想していたとおりだった。この家の子飼いの下男の筈だ。もういい年寄りで、昼間の野良仕事にくたびれ果て、さっきの男が殺された時の音にも目覚めることがなかったのだろう。
二人の賊は暗闇のなかでうなずきあい、短躯小太りの方が、その寝ている老人の側に近づいていき、痩身蓬髪の男はもう後も見ず、座敷に土足のまま上がった、
寝静まっているうちに、まず主人一家いがいの小者たちを片付ける手筈になっていたのである。使用人は災難にあえば逃げることしか考えないが、血族たちはそのひとりでも人質をとれば、扱うのはたやすいと踏んでいた。
市郎兵衛に狙いを定めて以後、すでにこの家の小作や出入りの商人から家の内情を細かく探りだしている。下男と下女が四人。市郎兵衛一家は弟夫婦もふくめて六人。この弟が家のなかで一番屈強で厄介な存在だと知れた。しかし、今晩は江戸に泊まりとなって不在である。下川崎村を知行所とする旗本に金の用立てを頼まれた、その金を届けに赴いていた。まだ組頭で名主もつとめない市郎兵衛ではあったが、家を大きくするために殿様の機嫌をとるのに弟が遣わされた。そうして村のみなも疲れて眠る稲刈り後の夜の決行となったのだ。
小さい方の賊が造作なく老人をなます斬りとして、絶命させているあいだに、やせた賊は奥の下女部屋を探した。その部屋は簡単にみつかった、そこで寝ていたなつにとって幸いなことがあったとすれば、殺されるという恐怖をあじわうことなく、命果てたことだったかもしれない。これほどの騒ぎをよそにまだ夢の中にあった彼女をめがけ、盗賊が突き出した刃は、乳房の下から心の臓をまっすぐ貫き、背中を抜けて、敷き布団を裂いた。さすがに激しい痛みに一気に夢の世界から引きずり出された。しかし、刀を抜いて、二の刃を加えようとするとき、傷口から天井を汚すほど吹き出した血潮の量があまり多く、いまなにが自分に起こっているのか悟ったり、さらに闇雲に加えられた滅多斬りの痛みも感じ取ることなく、息絶えた。眠りについた位置から微動だにしていなかった。死後の検視には、即死と記されているが、まさにそのとおりの最期だった。
何もかもが順調と思えた賊であったが、ここで予定していなかった事態に直面した。刺し殺した女の横にはうすい布団と夜着がおかれている。しかし、もぬけの殻で布団をさわってもすでに冷えていて、ずっとまえに抜け出ている。この狭い三畳間に隠れる様な場所はない。思い起こしてもここまでに、自分たちいがいに動いている人影はみていない。取り逃がしたのかも知れないが、あとは質蔵あたりで見張り役をする一人にまかせるしなかった。
主人家族が眠る部屋の前に戻ると、すでにもう一人の賊が前で待ち構えていた。これで殺せる使用人はみな殺した。残されたのは、市郎兵衛、その母、妻、娘二人。男はひとりで後は、非力な女子供しか残されていない。金のありかを吐かせるのに、一人大人を残せばいい。二人は襖をそっとひらいて、だれひとり逃がさぬよう、同時に踏み込んだ。
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