昭和の親爺

鈴木 星雪

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老兵は・・・

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私は、赤提灯の戸を開けて入っていった。
「お、お前、何しに来た・・・」父がうろたえながら私に聞いた。「何しにって、私だってたまには酒も飲みますよ。親父さん、熱燗一つ。」赤提灯の親父にそう注文すると「あ、あいよ・・・」といって微妙に銚子を持つ手を震わせながら私のまえにおいた。「そ、そうだ。兄ちゃん、あんた毎日ポップコ-ン食ってグラマ-な姐ちゃんとイチャついて金貰ってんだって・・・」真っ赤な赤鬼のようになった親父が、口ごもりながら聞いた。
「えっ、ポップコ-ン・・・。ああ、それはポップコ-ンじゃなくてパソコンです。そうですね、電子計算機の複雑な奴と思ってください。それに、グラマ-な姐ちゃんじゃなくてプログラム、設計図みたいなものを作っているんです。」「へぇぇ、計算機の設計屋か~。すげえじゃないか。誰だい、ポップコ-ン食ってグラマ-な姐ちゃんとイチャついてるなんて言ったのは・・」酒屋の親父が、横目で意味ありげに父を見ながらしわがれ声で言った。
父は、ムックリと立ち上がった。「親父、何処行くんだ?」土方の親父が、爪楊枝で歯の隙間をつつきながら言った。「老兵はしなず。ただ消えるのみ」「何言ってんだか。老兵じゃなくて、老屁じゃねぇか。歳くうとケツの筋肉も緩むからな。」土方の親父が言うと、「おいおい、まだ倅の話終わってねえぞ。それに勘定だって未だ済んでねえじゃないか。」赤鬼の親父が、冷やかし気味に言うと「小便だ、小便。用が済んだらすぐ戻ってくる。あっ、勘定は息子につけといてくれ。」そう言って、父は出て行ったが、再び戻っては来なかった。
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