春の庭

おとや

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仮初の春の中で

002 進むべき道を

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春の強い魔力は、命を削るとともに彼女を孤独にした。
友達と遊べない弱い体。
強い魔力ゆえに、大人たちに優遇され、特別扱いされ、同じ年頃の娘たちには仲間に外れにされる。
魔力なんて欲しくなかった。
みんなと一緒が良かった。
最初こそ自分の境遇を呪っていた春だけど、和臣に出会って全てが変わった。
魔力を持たない村最弱の少年は、毎日毎日努力して強くなろうと必死だった。その姿に、生き方に、存在に、春は救われたのだ。
どんなときも春を守って、味方でいてくれる、大好きな和臣。
今度は私が守らないと、そう春は強く思った。
石の事がバレれば、和臣は無事では済まない。
春の命がなくなったとしても、春は和臣には幸せに生きて欲しい。自分を犠牲にして、罪を犯して、そんな事をしてまで春を守ろうとなんかしなくていい。春は和臣にそうさせてしまった事に心が痛んだ。
(私のせいで・・・ごめんね、和臣さん。)
春の頬を一筋の涙が伝った。

息を切らせて走り続けた。
足に痛みが出始めた頃、春はようやく目的の場所にたどり着いた。それは総会の行われている村の中心からだいぶ離れたところにあった。
見上げれば、長い長い石の階段が続いている。
(何段あるんだろう・・・ううん、考えるな。早く、この石を戻さなくちゃ!!)
春は階段を登った。
幼い頃、春はこの場所に和臣と来たことがある。
体の弱い春と一緒に、和臣は階段を登ってくれた。途中いろんな話をしながら、何の話をしたかは覚えてないけど、楽しかったことだけは強く心に残っている。
(和臣さん・・・大好きだよ。)
石の魔力のおかげなのか、春はいつものような体のしんどさを感じなかった。
階段を一気にかけ上がる。
「はぁ・・・はぁ・・・はぁ。」
階段の一番上には赤い鳥居、その先には小さな社があった。
そこには村の守り神、強い魔力で村全体に結界を張り、月華の一族を守る存在が奉られている。あろうことか和臣はその御神体を盗み出したのだ。
春は震える手で元あった場所に御神体を戻した。
「残念だけど、その石に魔力はもうないよ。」
突然背後から声がした。
さっきまで誰もいなかったハズだ。
振り返った春の目の前に立っていたのは、春よりも幼い少女だった。
「おや、お前さんはワシが見えるのか。」
漆黒の長い髪に巫女のような格好をした少女は、春を咎めるでもなく、ひょうひょうとした様子で語りかける。
「魔力がないって、どういうことですか??」
春は焦って聞き返した。
この石は村全体に結界を張ることの出来る強い魔力を持っていたはずだ。
和臣が盗み出すまでは。
「言葉通りの意味さ。私の石に宿っていた魔力は今、君の中にある。」
少女は答えた。
「あなたは・・・この村の守り神様!?」
春は慌てた。
「ご、ごめんなさい。あなたの石を盗んでしまって。」
春は膝をつき、深く頭を下げた。もし、結界を張ることが出来なければ、村は魔物に襲われ月華の一族は全滅してしまうだろう。今さらながら、春はとんでもないことをしてしまったと知り、恐怖と絶望で身体の震えが止まらなくなった。
「なんてことをしてしまったの・・・!ああ・・・何か、何か、方法は無いのですか?石に魔力を戻し、結界を張って村を守る方法は・・・!」
春はすがるように少女を見つめた。
「あるには、あるよ。」
少女は怒った様子もなく、こちらを静かに見つめている。
「君の命と引き換えならね」
淡々と話す少女の目には、けれど悲しい色が宿っているような気がした。
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