陰キャ男子にスポットライト〜憧れの王子様を探して舞台に上がります〜

おとや

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3 基礎練習スタート

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 入部届けを出したその日から練習が始まった。まずは発声練習のための筋トレからだ。演劇部なのに筋トレ? と思ったが、体幹や腹筋がしっかりしていないと腹から声が出ないらしい。
 純は元々運動部だったのか、腹筋も背筋も腕立て伏せも軽々とこなしていく。玲音はひぃひぃ言いながら他の一年生について行くのがやっとだった。先輩たちは毎日やっていて慣れているので、早々に終わらせて発声練習を始めていた。

「純……はぁ、はぁ……も、もう終わったの……」
「まあね。玲音は明らかに運動不足って感じだな」

 純は楽しそうに笑う。「先に行ってる」と言い残して、純は台本を片手に先輩たちがいる方へ行ってしまった。他の一年生も次々に終わって、残っているのは玲音だけになった。

(み、みんな早すぎる……)

 早速後れを取り始めて気持ちが焦る。確かに運動なんてほとんどしてこなかったけど、どうして皆ついていけるのかと不思議に思う。それでも、頑張りたいと思った。猛勉強してやっと入った高校だ。それにー。玲音を助けてくれた「王子様」に会う時、少しでも自分に自信を持てるようになっていたい。
 身体を倒して腹筋に力を入れ、もう一度身体を起こそうとした所で伊月先輩と目が合った。

「それじゃ、やり難いだろ? 足持つよ」

 そう言って玲音の返事を待たずに、伊月先輩の手が玲音の足に触れる。骨張った大きな手が玲音の足をしっかり押さえた。確かに、体が動かなくて起き上がりやすい。

「あ、ありがとうございます」

 ぎこちなくお礼を言うと、伊月先輩は返事の代わりに爽やかに笑った。長い前髪の向こうに見える目が優しい。どうして最初、この人の事を怖いなんて思ったんだろう。こんなにも、柔らかく笑う優しい先輩なのに。

 息を切らせて何とか筋トレを終わらせた。その間も伊月先輩は待ってくれていた。
 新入部員は手の空いている二年生か三年生と組んで練習をするらしい。筋トレが終わった生徒は、先輩に声を掛けて二人組か三人組になっている。純は演劇部の部長を捕まえて練習を見てもらっていた。玲音はそのまま伊月先輩に見てもらう事になった。


『私の名前はシンデレラ……』

 台本の冒頭のセリフを口に出す。弱々しくてふらふらと揺れる声が口から出る。対人が苦手になってから、人を避けてばかりで話すことをしなかったからだ。小さな声しか出ない上に、噛んだりして散々だった。もしかして、演劇に向いてないんじゃないかと落ち込む。それでも伊月先輩はたくさんのアドバイスをくれて、最後まで練習に付き合ってくれた。自分も声を出す事が苦手だったからと、どうやって練習してきたのか実体験を交えてコツを教えてくれた。

「何回も練習してると、声が安定してくる……おへその下、丹田を意識して声を出すんだ」

 伊月先輩の声は良く通る。真っ直ぐでブレが無くて綺麗だ。どうしてこんなに上手いのに舞台に上がらないんだろう。そう思うと同時に、やっぱり先輩には脚本を書き続けて欲しいとも思った。
 伊月先輩が脚本を書き、他の先輩たちが演じた劇。あの日のオープンキャンパスで見た、体の血液が沸騰するような鮮やかな物語は、きっと伊月先輩にしか書けない。いつか、自分も舞台に立てたら。その時は脚本の世界や登場人物を体現して、いつか見た劇のように表現したい。
 伊月先輩が教えてくれたように何度も練習していると、声が安定して出せるようになってきた。

「声を……出すのって、すごく……はぁ、はぁ……体力が要りますね」

 玲音はすでに息が上がってフラフラだ。伊月先輩はハハッと笑った。

「そうだなぁ。慣れるまでは大変だなぁ」

 でもー、と伊月先輩は言葉を続ける。

「氷上君は頑張り屋さんだから、すぐに出来るようになるよ」

 いつもの柔らかい笑顔を向けて、玲音の頭にぽんっと手を置く。骨張った大きな手が玲音の髪に触れる。その動作があまりにも自然で、伊月先輩も全く気にしてない様子だったから。玲音は動揺してるのを悟られないようにするので精一杯だった。
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