3 / 4
3.
しおりを挟む星界の主らが住む「天津都」を取り巻く隷属種の世界「慈悲の環」――そこから更に1万キロほど外周を公転する紡錘形の構造物がある。
建造中のパラダイスメーカーである。
それは、漆黒の宇宙空間より黒く、冷たく、不気味な威容を見せていた。
その心臓部では、主族による工事の進捗状況の視察が、仮面の男セオギルの案内で行われていた。
主らは工事の進捗を喜び、それが約束する夢の未来への期待をいや増しに高めていた。
主族の1人が言った。
「う~ん、ずいぶんと出来上がってきたのう。」
「は!既に90%まで出来上がっております。あと一息です」
「不老不死の世界か……まこと楽しみじゃ!」
「ありがとうございます」
セオギルの声は、微笑みを含んで、深く、誠実さにあふれて響いた。
それは真実そのような声なのか、仮面に仕込まれた音声変換器のせいなのかはわからない。
そのとき、一瞬の振動とともに、ズウン……と言う爆発音が響いた。
「なに?どうしたんじゃ!」
「じ、事故か!?」
駆け寄ってきた警備兵が答えた。
「テロリストが侵入し、D区画で自爆しました!狂信者です!」
主族の一人が聞いた。
「被害は?」
警備兵の報告を聞く前にセオギルが言った。
「大丈夫です!最重要区画には何者も進入できぬようシールドしてあります。狂信者どもにできるのは重要度の低い施設を破壊することぐらいですよ」
「そうか、なら安心だ……!」
にこやかに視察の案内を続けるセオギルだが、仮面の奥のその目には、実は何の表情もなかったのである。
その頃、社長室のファコーニは、セオギル同様研究資金を出しているメバイと言う学者から、ある進言を受けていた。
パラダイスメーカーの危険性についてである。
「なに?パラダイスメーカーに問題があると?」
「そのとおりで」
「なんじゃおまえ、おまえの研究にはあまり資金を出しとらんからヤイておるんではないか?」
「そんなことではねえです。でも、宇宙は、ビッグバン以来超光速で拡大してるで……パラダイスメーカーは、ごく限られた時空間をありえないようなエネルギー集約によってこの宇宙から強制的に自立させるもんだ。定常的宇宙ならまだしも、拡大し続ける宇宙の一部を切除するようなことをすればどうなるか」
「どうなるのじゃ?宇宙がひっちゃけるとでも言うんか?」
「わからねえども……まかり間違えば破滅的な事象が起こる可能性があるで」
「ハメツテキジショウ……?」
メバイの話はファコーニの想像をはるかに超えていた。
しかし不安要素をそのままはしておけない。
なにせ、千兆スターの大プロジェクトである。
ファコーニはセオギルを呼んだ。
「ははは!」
セオギルは一笑した。
「社長!風船じゃあるまいし……なにも問題ありません!宇宙はパラダイスメーカーのエネルギー集約など、すべて許容して余りある存在です。心配ご無用ですよ!それよりパラダイスメーカーはほぼ90パーセント完成です。御覧なさい」
セオギルが腕を振ると、建造中のパラダイスメーカーの威容が中空に出現した。
輝く星界を分断する黒い紡錘形の周囲を、作業ロボットの噴射炎らしい無数の光点が動き回っている。
「メバイは嫉妬しているのです――社長、これが完成すれば、天津都でふんぞり返っている連中の死命も制することができるかもしれません……」
ファコーニは、セオギルの言葉に心動かされた。
主族の生殺与奪の権限を握ることは、隷属種の見果てぬ夢だ。
それを、今まさに、この自分が手にしようとしているのだ。
慈悲の輪中層部の歓楽街。
さまざまな隷属種が、酩酊飲料のせいで、ふらつきながら歩き回っている。
その中に、ファコー二に忠告したメバイの姿があった。
「くそう、セオギルめ――社長もお面野郎ばかりに重用しおってからに……」
メバイはファコー二の下で働く学者たちの中では古株で、新参のセオギルばかりが重用されることを不快に思っていた。
そこでパラダイスメーカーの持つ危険性に言及したのだが、ファコー二はお面野郎ことセオギルのいうことのみ聞き、メバイの意見に耳を傾けようとはしなかったのである。
「あの野郎、ぶっ殺してやろうか……!」
怒りが募ってセオギルの殺害を本気で考え始めたメバイであったが……。
「?」
路地の暗闇の中に、銀色の、何かが浮かんでいる。
それが、怨敵であるセオギルの仮面であることに気づいた刹那、目も眩む閃光が疾ってメバイの上半身が吹き飛んだ!
セオギルの持つ高出力の光線銃で撃たれたのだ。
セオギルの仮面は、闇に溶けこむようにして消えていった。
メバイが歓楽街で射殺されたことはファコーニの耳にも入ったが、酒場の喧嘩で殺されたのだろう、馬鹿な奴だと考えて、すぐに忘れてしまった。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
敗戦国の姫は、敵国将軍に掠奪される
clayclay
恋愛
架空の国アルバ国は、ブリタニア国に侵略され、国は壊滅状態となる。
状況を打破するため、アルバ国王は娘のソフィアに、ブリタニア国使者への「接待」を命じたが……。
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
上司、快楽に沈むまで
赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。
冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。
だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。
入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。
真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。
ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、
篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」
疲労で僅かに緩んだ榊の表情。
その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。
「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」
指先が榊のネクタイを掴む。
引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。
拒むことも、許すこともできないまま、
彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。
言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。
だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。
そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。
「俺、前から思ってたんです。
あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」
支配する側だったはずの男が、
支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。
上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。
秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。
快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。
――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
あるフィギュアスケーターの性事情
蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。
しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。
何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。
この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。
そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。
この物語はフィクションです。
実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
