何れ人か神の花〜今日も殺し損ねた少女と一つ屋根の下で暮らしています〜

本田ゆき

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第一章

心臓怪火 14

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 そして次の日、警察官が俺の家にやって来た。

「貴方は被害者の会社の部下ですね?」

「……はい」

 警察官の問いに、俺は冷や汗を流しながらそう答える。

 バレる筈がない。
 しかし、実際こうして警察官が目の前に居ると、俺が犯人だとバレるんじゃないかと思いまるで生きた心地なんてしなかった。

 殺人事件の犯人は、みんなこんな気持ちで逃げ隠れしているのだろうか?
 そう思うと、俺もそっちの仲間入りしてしまったという事実が、少し悲しくなる。

「貴方はその上司の事をどう思っていましたか?」

「……とても、良い上司でした。
右も左も分からない社会人に成り立ての俺に、色々と教えてくれた……」

 心にも思っていない事を俺はすらすらと話す。

 犯行の仕方などは警察も分かりはしないだろうけど、きっと手掛かりがない以上は怨恨など動機がある奴を探す筈。
 それなら俺が普段上司を恨んでいる事は話さない方が良いだろう。

「成る程、そうでしたか。
それはそれは、お悔やみ申し上げます」
「……」

 どうやら警察は俺が焦っているのを上司が亡くなって落ち込んでいると捉えてくれたらしく、その後は特に疑われる事もなくそのまま警察は去って行った。

「……はぁ、バレなかった」

 警察が帰った後、俺は胸に手を当てて安堵した。

 あの日の夜、目撃者もなく、凶器も見つかっていない。

 俺は警察に捕まる事もない。

 これは、願ったり叶ったりなんじゃないか?

 そう思うと、俺はつい笑いが溢れた。

「は、ははっ……ははは!」

 なんて、良い気分なんだろう。


 ◇


 それから数日後、たまたま近場のコンビニに入ると、生意気なバイトの店員に当たってしまった。

「酒。缶ビール二本」
 
「……はいはい」

 その男性バイト店員はガムをくちゃくちゃと噛みながら面倒そうに緩慢な動きで缶ビールを二本奥から取ってくる。
 
 俺はその動きにカチンときつつも、缶ビールを受け取った。

「二百五十」

 店員に金額だけそう言われて俺は札を一枚出した。

「札かよ、めんどくせ」

 店員ははぁ、と溜め息吐きながら札をレジに入れる。

 しかし、待てどもお釣りを渡して来ない。

「おい、お釣りは?」

 俺が苛立ちながら訊くと、店員はげぇ、と不機嫌そうな顔をする。

「おっさん良さそうなスーツ着てんだし、ちょっとくらい俺に恵んでよ。
どうせ金持ってる癖にさ」

 どうやらこの店員はお釣りをネコババしようとしていたらしい。

「何言ってるんだ?
何で俺がお前なんぞに恵まないといけないんだ」
「はぁ、たく冗談通じねーのかよこのおっさん。
マジうぜぇ」

 そうぶつぶつ文句を言いながらお釣りを出す店員に俺はキレそうになる。

「お前な!」
「いや、マジおっさんの説教とかいいっすわ」
  
 店員はそう言って奥へと引っ込んでいった。

「~~っ!
何なんだよあのクソガキっ!」

 俺はイラついたままお釣りと缶ビールを握りしめる。

 ……ぶっ殺してやりてぇ。

 ダニエルの瞳が、また赤く光る。

 そう思った瞬間、耐え難い衝動に俺は身体が勝手に動いた。
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