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第三章

戒心散花 2

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 ◇



「よおアイリスちゃん、リト。
元気にしてたか?」
「情報屋さん、こんにちは」

 普通に挨拶するアイリスの横で俺は舌打ちしながら情報屋を睨んだ。

 そもそもこいつがアイリスに俺と一緒に居る様になんて仕向けなければ俺はこれまで通り自由気ままに生きていけたというのに。

 理由は何故だか分からないが、情報屋は俺とアイリスを一緒に行動させようとしてくるんだよな……。

「何だよリト、そんなに睨んで。
あ、そっかそっか、アイリスちゃんが他の男と話すのが気に食わない訳だな?」
「んな訳あるか」

 俺が恨めしそうに情報屋を睨んでいると、揶揄う様に情報屋はそんな事を言ってきやがった。

「何だ、そうじゃねーのか。
それなら今回アイリスちゃんのみの仕事でも大丈夫だな」
「は?」
「私だけ?」

 情報屋の言葉に俺もアイリスも首を傾げる。

「そう、今回はアイリスちゃんだけだ。
詳しくは明日話すから、取り敢えず明日の夜八時に俺の仕事場に来てくれればいいよ。
心配ならリトもついて来てもいいが」
「誰がこんな奴の心配なんかするかよ?」

 俺がそう言うと、情報屋はやれやれと呆れた様に笑っていた。

「そうかい? ならアイリスちゃん、明日待ってるからよろしく~」
「分かった」

 それだけ伝えると情報屋は颯爽と帰っていった。



 ◇



 そして翌日の夜。
 アイリスは言われた通り一人で出掛けて行った。

「はぁ、やれやれ。やっと一人の時間だ」

 もう一ヶ月以上あの女と過ごしているが、やはり他人との同居生活なんて息苦しくて仕方がない。

 いつでも人の感覚が近くにあるのが気持ち悪くて堪らなかった。

 物心ついた頃から一人だった俺にとっては、最早拷問の様にさえ感じてしまう。

 しかも、最近はたまの仕事ですらアイリスと一緒だったせいで、本当に一緒じゃない時間の方が少ないのだ。

「さて、何か食いもんでも食おう」

 俺は買い溜めていた菓子類などを食べながら久しぶりの一人の時間を噛み締めていた。

 ……そういえば、最近前よりも食べる量が減った気がする。

 それはきっと、本来なら良い傾向なのだろう。

 しかし、今の俺はそれが逆に怖く感じて、急いで手に持っている菓子をどんどん口へと詰め込んだ。

 俺は何やら食べても太りづらい体質らしく、見た目に反してよく食べる方だ。

 というのも、次いつ食事にありつけるか分からない路地で育てば、食べれるものがあるうちに沢山食べる事は大事である。

 ただ、今の生活は安定して金も手に入る為、そこまで食事の心配をしなくて済む様になった。

 正直、こんな贅沢を俺がしていい身分じゃない事は分かってる。

「……やっぱり早くここを出ていきてぇな……」

 誰も居ない部屋に俺の本心がポツリと静かに漏れた。
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