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第三章

戒心散花 25

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 ◇


 時は少し戻り、午前中。

 朝からローガンを尾けていたカミラは、財布を盗んでいったランホアを次のターゲットにしようと急いでランホアの後を尾けていた。

「はぁ、はぁ。逃げ足の早いチャイナ娘ね……人の金を奪い取るだなんて!」

 それに、ローガンも一夜に三人もの愛人が亡くなったのに、性懲りも無く他の女に手を出し始めたのは驚きだ。

 何処まで女好きなんだか。
 しかし、昨日何処かの女? 男? にボコられているのによくやるものだ。

 カミラは息を整えながら自分の走った道を見て少し驚いた。

 結構な距離がある……久しぶりにこんなに走ったわ……。

 大人になってそんなに運動していない、ましてや妊娠中の私があんな若い子に走って後を尾けられたのも、きっとこの花の能力のお陰ね。

 カミラは自身の手の平をまじまじと見つめながら考える。

 そんな時、ふと辺りを見渡した。

 先程のチャイナ娘が路地に逃げ込んだおかげで、ここにはあまり人が来ない。

 

 本当ならチャイナ娘の家を調べてその後和服の娘の家を調べ、その後また夜にドアや窓の隙間から花を潜り込ませて爆破させる予定だったが、もしここでチャイナ娘を殺せるなら和服の娘に集中出来る。

 あのチャイナ娘がこの路地にいる内に、早くーー。

 そう思い立ったカミラは気付くと手の平に作り出した石楠花をふよふよとチャイナ娘目掛けて飛ばしていた。

 しかし、作戦は失敗に終わった。

 あのチャイナ娘、勘が良かったのだ。


 ーー見られた。

 花が爆発する。手の内がバレてしまった!

 あのチャイナ娘、絶対殺さなきゃ!

 私は焦って和服の娘と旦那を尾行するチャイナ娘を尾行して機会を狙った。

 最初の三人の時はうまくいったのに!

 油断した? 私が?

 ずっとずっと計算して生きてきた、周りの者にはずっと警戒して生きてきたこの私が油断するなんて!?

 何の取り柄もないごく普通の家庭で育った普通の私が、好きでもない男が資産家だからとお互いメリットのある提案をして結婚し、周りの者を利用してやっと今の地位まで上り詰めたのに!

 ここまで来たのに!
 絶対に失敗なんて許されないのに!

 だけど、私はチャイナ娘の勘の良さを見誤っていた。


 気付くと、私の目の前にいたチャイナ娘の姿が何処にもない。

「あれ? 何処に……?」

 そう辺りを見渡すと、背後からカチャリと冷たい音がして、私の頬には冷や汗が伝った。

 後頭部に、硬い何かが突きつけられる。

 そして、可愛らしい少女の声が聞こえてきた。

「さっきから私をつけてたのはバレバレだよ。犯人サン?」

 振り返らなくても分かる。

 私は今、チャイナ娘に後ろから拳銃を頭に突きつけられていた。
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