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第三章

戒心散花 30

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 ◇


「いやー、事件解決ごくろーさん!
見事犯人も自首したみたいだし一件落着だな!」

 数日後、報酬を渡しにきた情報屋のおっさんが何やら楽しそうに話してきた。

「あの後、結局自首したんだ」

 おっさんの持って来た新聞を見てアイリスはそう呟く。

 新聞には女性が旦那の浮気を許せず三人を殺害したと書かれている。

 どうやら財産目当てとまでは言わなかった様だ。

「でもまあ、犯人の女性も殺人のストレスにより流産、しかも子宮自体にダメージを負ってもう二度と子供を望めなくなるだなんて、なんとも可哀想な話だよなぁ」

 と、まるで可哀想とは思っていない口振りでおっさんはペラペラと喋っている。

「まあ、核自体が子宮に張り付いていたから、仕方ないと思うよ」

 それを聞いたアイリスは淡々と話す。

 どうやらアイリスが斬ったのは核となっていた子宮だった様だ。

 しかし、なんの変哲もなさそうなあの刀でどうやってドレスや腹部を斬らずに子宮だけ斬ったのか……謎ではあるが。

「まあ自業自得な部分も強いだろうな。
そもそも花なんかに頼っちゃった時点でこの女の負けだ。
元来警戒心が強かった様だが、欲には勝てなかったんだろうな。
それどころか殺人やら浮気やらで離婚秒読み、多額の慰謝料請求と転落人生とは。
あーコワイコワイ」

「何だか嬉しそうだな?」

 情報屋の妙なハイテンションに俺が突っ込むと、情報屋はニッと意地悪い笑顔を浮かべて俺の肩にガシッと抱きついてきた。

「おいおいリトく~ん。
お前さん、この事件解決した日にアイリスちゃんと夜デートしたらしいじゃねーの?」
「はぁ!?」

 すかさず俺は情報屋に捲し立てた。

「デートなんかしてねーよっ!
あの夜腹が減ってて、あいつが奢ってくれるっていうから外食しただけだ!!」
「へぇ~?
その割にはカップル向けのレストランに入ってたそうだけど~?」

 ニシシッと笑う情報屋の顔に顔面パンチをお見舞いしてやろうかと本気で考えつつも俺は弁明する。

「俺はただ単にあいつが奢ってくれるっていうからどうせなら高そうな店に入ってみただけだ!
まさかカップル向けだなんて知らなかったんだよ!」

 因みに、入ってすぐに周りがカップルだらけなのに気付きやはり店を変えようとしたのだが、アイリスに

「別にカップルじゃなきゃ入れない訳でもないし気にしなくていいんじゃない?」

 ……と言われ、こいつが気にしてないのに俺だけが気にしてるのも癪だった為結局その店で食べる事になっただけなのだが。

「ふ~ん?
まあ仲良くなっていってるのならおじさんにとっては嬉しい事だけどね~?」
「はあ? なんで俺とあいつが仲良くなったら嬉しいんだよ?」

 その問いにおっさんは笑いながら答える。

「男女二人で一つ屋根の下に住んでるのにロマンスの一つや二つ起きないとつまらんでしょ」
「そんなふざけたロマンス起きてたまるか」

 俺のツッコミにおっさんは「え~つまんな~い」とこれまた唇を尖らせて言ってきたので本当に殺意が湧いた。

「まあそれよりも、今後もアイリスちゃんをどうか見守っててな」
「は? またそれかよ?」

 俺が殴ろうかとした瞬間おっさんは俺から離れて手を振った。

「あ、アイリスちゃんもまたねー!」
「情報屋さん、さよなら」

 そう言っておっさんは言いたい事を言うだけ言って帰っていってしまった。
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