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幕間
花休め 5
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「あ、そうそう、自己紹介が遅れましたね。
改めまして、私、ここの大家をやっているイリアス•ナーシサスと申します」
「あ、よろしくお願いします……」
一○一号室について早速大家から自己紹介され、ソファへと案内されたリトは、内心困っていた。
それも無理はない。何せリトはこれまで手続きの様なやり取りを殆どしたことが無かったのだ。
(……つーか、書類って何?
個人情報なんて、俺言える程自分の事すら知らねーぞ?
後、こいつなんでずっと歳下であるはずの俺にまで敬語なんだ?
お陰でアイリス以上に調子が狂う……。
てか、こっちも敬語で話さなきゃいけねーよな?
まあ普通目上の人に敬語は当たり前なんだろうけども!)
そう混乱しているリトの様子を見抜いたのか、イリアスは優しく微笑みながら軽く説明する。
「そんなに堅苦しいものではないから、リラックスしていいですよ。
とは言え、人の家はやはり緊張しますかね?」
「え? ええ、まあ……」
ニコニコ笑いながらイリアスは目の前のテーブルに一枚の用紙を置く。
「こちら、アイリスさんの住んでる一◯二号室の書類です。
ここの同居人という所を書いて欲しいのですが……」
「あ、はい……」
そうアイリスの情報が書かれているすぐ下の同居人の空白欄を指で示され、イリアスはリトにペンを渡した。
しかし、ペンを受け取ってリトはすぐに固まってしまう。
それは無理のない事だった。
何せ、用紙を書こうにもまずリトは自分自身の名前が分からない。
更には年齢や生年月日までも、何一つ分からないのだ。
それと、文字の読み方くらいは仕事で使うから、と情報屋に昔一通り覚えさせられてはいたが、リト自身が文字を書く事は今まで殆ど無かった為、そもそも文字の書き方が分からなかった。
そういう訳でリトが書類の前で固まっていると、色々と察したのかイリアスが優しく問い掛ける。
「もしかして……失礼になったらすみませんが、文字を書くのが苦手ですかね?
それとも、個人情報を書くのに抵抗がありますかね?」
「えっと、まあその両方……です、はい」
リトのぎこちない敬語にイリアスはなるほど、と呟き、リトからペンを返してもらった。
「お名前は仮名でも愛称でも構いません。
普段どうお呼ばれですか?」
「は? 最近はリトって呼ばれる事が多いけど、少し前は……」
そこまで言って、流石に小さな死神だなんて言い出す事に抵抗があった。
自ら殺し屋の様な名前を名乗ってはまずいだろう。
「あ、いえ、リトでいい、です……」
「成る程、リト君、ですね?
因みに名字はどうしましょうか?
何か思いつくものとか……」
「いや、特にないっす」
「なら、アイリスさんと同じオオヤマでいいですね?」
「は!? い、いや!
それは嫌なんですけど!!?」
イリアスにそう訊かれたリトは食い入る様に強く否定する。
そんなリトの一生懸命な様子に、イリアスは口元を綻ばせた。
「はははっ。
大丈夫ですよ、この書類は誰にも見せないし何処にも出さない。ただ空欄を埋めたいだけですから」
「いや、でもあいつと同じ名字とか……」
「しかし、その反応を見るに君はアイリスさんとは本当に付き合ってないんですね?」
「は? 勿論、あいつとは付き合っても何もねーよ!!」
リトの全否定に、イリアスは少しホッとした様に呟く。
「そっか、それは良かった」
「は?
……あんた、まさか」
その呟きを聞いたリトは、色々と察し始める。
改めまして、私、ここの大家をやっているイリアス•ナーシサスと申します」
「あ、よろしくお願いします……」
一○一号室について早速大家から自己紹介され、ソファへと案内されたリトは、内心困っていた。
それも無理はない。何せリトはこれまで手続きの様なやり取りを殆どしたことが無かったのだ。
(……つーか、書類って何?
個人情報なんて、俺言える程自分の事すら知らねーぞ?
後、こいつなんでずっと歳下であるはずの俺にまで敬語なんだ?
お陰でアイリス以上に調子が狂う……。
てか、こっちも敬語で話さなきゃいけねーよな?
まあ普通目上の人に敬語は当たり前なんだろうけども!)
そう混乱しているリトの様子を見抜いたのか、イリアスは優しく微笑みながら軽く説明する。
「そんなに堅苦しいものではないから、リラックスしていいですよ。
とは言え、人の家はやはり緊張しますかね?」
「え? ええ、まあ……」
ニコニコ笑いながらイリアスは目の前のテーブルに一枚の用紙を置く。
「こちら、アイリスさんの住んでる一◯二号室の書類です。
ここの同居人という所を書いて欲しいのですが……」
「あ、はい……」
そうアイリスの情報が書かれているすぐ下の同居人の空白欄を指で示され、イリアスはリトにペンを渡した。
しかし、ペンを受け取ってリトはすぐに固まってしまう。
それは無理のない事だった。
何せ、用紙を書こうにもまずリトは自分自身の名前が分からない。
更には年齢や生年月日までも、何一つ分からないのだ。
それと、文字の読み方くらいは仕事で使うから、と情報屋に昔一通り覚えさせられてはいたが、リト自身が文字を書く事は今まで殆ど無かった為、そもそも文字の書き方が分からなかった。
そういう訳でリトが書類の前で固まっていると、色々と察したのかイリアスが優しく問い掛ける。
「もしかして……失礼になったらすみませんが、文字を書くのが苦手ですかね?
それとも、個人情報を書くのに抵抗がありますかね?」
「えっと、まあその両方……です、はい」
リトのぎこちない敬語にイリアスはなるほど、と呟き、リトからペンを返してもらった。
「お名前は仮名でも愛称でも構いません。
普段どうお呼ばれですか?」
「は? 最近はリトって呼ばれる事が多いけど、少し前は……」
そこまで言って、流石に小さな死神だなんて言い出す事に抵抗があった。
自ら殺し屋の様な名前を名乗ってはまずいだろう。
「あ、いえ、リトでいい、です……」
「成る程、リト君、ですね?
因みに名字はどうしましょうか?
何か思いつくものとか……」
「いや、特にないっす」
「なら、アイリスさんと同じオオヤマでいいですね?」
「は!? い、いや!
それは嫌なんですけど!!?」
イリアスにそう訊かれたリトは食い入る様に強く否定する。
そんなリトの一生懸命な様子に、イリアスは口元を綻ばせた。
「はははっ。
大丈夫ですよ、この書類は誰にも見せないし何処にも出さない。ただ空欄を埋めたいだけですから」
「いや、でもあいつと同じ名字とか……」
「しかし、その反応を見るに君はアイリスさんとは本当に付き合ってないんですね?」
「は? 勿論、あいつとは付き合っても何もねーよ!!」
リトの全否定に、イリアスは少しホッとした様に呟く。
「そっか、それは良かった」
「は?
……あんた、まさか」
その呟きを聞いたリトは、色々と察し始める。
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