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第四章

驚嘆風化 2

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 ◇



「今回は神隠し、だとよ」

 アイリスの借りているアパートの一○二号室にまた性懲りも無くアポ無しで押しかけてきた情報屋のおっさんが、挨拶も無しに開口一番にそう言ってきた。

「神隠し?」

 俺は聞き慣れない言葉をおっさんへと問い返す。

「ああ。何でも隣の都心部を中心に四、五歳くらいの子供が行方不明になってるらしくてな。
今月だけでもう六人は居なくなってるそうだ。
なんでも人通りが多い場所なのに目撃者もいない上に親が近くに居たにも関わらず、一瞬目を離した隙に消えた。という事らしい」
「はあ。でもそれって、ただ単に子供が勝手にどっか行っただけの迷子とかじゃねーの?」

 断片的に聞く限りでは、よくある迷子の様な話に聞こえるのでそう訊き返すが、おっさんは首を横に振る。

「いくらちょっと目を離したとはいえ、小さな子供がその隙に行ける範囲なんてたかが知れてる。
しかし周囲数キロメートルを探しても見つからなかったそうだ。
警察は恐らく誘拐事件の類だと見ているが、それにしては誰一人にも目撃されずに次々と誘拐するその手口がまるでマジックの様だと嘆いているんだ。
まあだからこそ神の仕業なんじゃ? と神隠しなんて言われてるんだとか」
「ふーん、で?
その不可解な誘拐事件が花の怪事件の仕業だと睨んでるって事か?」
「まあな。人の手口にしてはあまりにも巧妙過ぎるのと、後、とある共通点がある」
「共通点?」
「誘拐された子は、みんな女の子なんだ」 

 おっさんの言葉に、俺はああ、と妙に納得した。

「成る程な。つまりどっかのロリコンが花の力を使って暴れてるみたいなもんか」

 子供が突然消えた、特に女の子限定ともなれば、そういう性癖を持った人達が誘拐したと怪しまれるのも無理はないだろう。

「ロリコンとは限らないんじゃない?」

 しかし、俺とおっさんの話を横で黙って聞いていたアイリスが突然俺の考えを否定してきた。

「でも幼女ばかり狙って誘拐だなんて、ロリコンか人身売買くらいじゃねーの?」
「その線も確かにあるけど、何も女の子を拐うのは男の人とは限らないよ」
「まあ、そこはアイリスちゃんの意見も一理あるな。
相手の目的が分からない以上何とも言えないが」

 そんなアイリスの意見を肯定しながらおっさんはごそごそと懐からメモと複数枚の写真を取り出す。

「これは今回の誘拐された子供達の写真だ。
裏には名前と生年月日が書いてある。
それとこれが居なくなった日時や場所なんかの詳しい情報な」

 渡されたメモにはそれぞれ居なくなった日付と場所が記されていた。

 六枚の写真をパッと見た限り、とびきり可愛いという訳でもなく何処にでもいそうな普通の女の子達の様だ。

 アイリスはその写真をおっさんから受け取り、相変わらず無表情に眺めている。

「そんじゃあ後はよろしく頼んだぞ」
「頼んだって、これだけの情報でどうやって犯人を特定しろって言うんだよ?」
「まあまあ、追加で情報が入れば持ってくるから。
取り敢えず被害者宅回ったり聞き込みしたりよろしくな~」
「んな無茶苦茶な……」

 そんな無理難題を押しつけて、おっさんは手の平をひらひらとさせながら帰ってしまった。
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