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悪夢の世界で

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 ※今回は珍しくシリアス回です。



 その日、私は悪夢を見た。

 昔の夢だ。

 子供の頃、私も一時友達というものがいた。

 私は何故か女子から嫌われてはいたが、男子とはよく遊んだりしていた。

 そもそも私は家を守る為に強くならなくては、とよく体を鍛えていたからかもしれない。

 女子のおままごとや誰かの悪口には興味がなかった。

 それなら男子に混じって遊んでる方が楽しかった。

 小さい頃はそれでも良かった。

 しかし、10歳になった頃、私は男子から売られそうになった。

 その男子は、私のことが好きだったらしく、私は人生で初めての告白をされた。

 もちろんびっくりしたが、私はその男子のことを好きだとは思えなかった。

 だから、ごめんなさい、と素直に振ったのだ。

 その翌日、遊びに出掛けると男子達に急に私は捕まえられて人気のない路地に連れ込まれた。

「お前、ジャックのこと振ったんだって?」

 リーダー格の男子がそう問い掛けてくる。

「ああ、振ったけど?」

 すると、お金の入った袋を私が振った男子がリーダー格の男子に渡した。

 そのリーダー格の男子はお金を受け取ってニヤリと笑いながらこう言った。

「実はさ、ジャックがお前とチューしたいんだって。俺達が押さえてるからさっさとやれよ」

 ああ、そう言うことか。

 私が振った男子は、この下町では結構裕福な方だった。
 あくまで下町の中で、の話だが。

 それで、お金を男子達に渡して無理矢理私を捕まえたという訳か。
 私がその男子を睨みつけると、そいつは口を開いた。

「オリヴィアちゃんがいけないだろ?
そ、そもそも男達と遊んでる時点で、男好きなんだろ?
昨日の告白で付き合っておけば良かったのにさ!」

 ははっと笑いながら、男子は私の元に近づいてくる。

 確かに私は手足を今他の男子達に押さえられて逃げられない。

 だが、キスする為として口だけは塞がれていなかった。

「きゃあああああああああああぁぁぁ!!!!
助けてええぇぇぇぇ!!!」

 私は甲高い声で叫んだ。

 路地奥とは言え、女の子の高い叫び声はよく響く。

 我ながら、生まれて初めてくらいの大声を出して少しむせてしまった。

「あ、こいつ!」
「やばい、足音がする!
誰か来たらまずくね?」
「ちっ、まあいいや、逃げるぞ!」

 男子達はそう言いながら次々と逃げていった。

 私に告白した男子を除いて。

「ちくしょう!」

 その男子はそれでも私に勢いよく覆い被さってきた。

 私はすぐ様ポケットから取り出した護身用のナイフでその男子の腕を斬りつける。

 肉を斬った感触が、まざまざと自分の手に残った。

 男子の腕からは血が流れている。

「いっだぁぁ!」

 このナイフは前に誘拐されかけた事があり、それ以降常に持ち歩いているものだった。

 男子が私からナイフを取ろうと迫ってきた時に、ちょうど大人の人達が駆け付けてきてくれた。

「助けてください!」

 私はすぐ様駆けつけてきた大人の方へと向かう。

「なっ、それなら俺もお前に怪我させられたんだぞ!」

 大人達はすぐ様私達を引き離し、その後誰かが警察を呼んだらしく、私と男子はそれぞれ警察署で事情を聞かれた。

 後から私の母や、向こうの両親もやってきて、最初は私が怪我をさせたのだから慰謝料を払えと言われた。

 しかし、私は起きたことを全て話して、警察が他の男子達も連れてきてくれて、逃げ出した男子達も軽い悪戯のつもりだったと非を認めたため、逆にこちらが慰謝料を請求出来た様だ。

 私はそれ以来、男子と遊ぶことはなくなった。

 かといって、女子の友達もろくに出来なかった。

 女子達は私のことを男好きだと思っているらしく、今回の一件で男遊びし過ぎたせいだと更に変な噂が立ってしまった。

 そんな中、1人だけ私と仲良くしてくれる友達が出来た。

 私は嬉しかった。
 初めてちゃんと友達が出来た気がする。

 しかし、それも12歳の頃までしか続かなかった。

 その友達は好きな人が出来たと言う。
 私は素直に良かったね、と言った。

 私は友達の恋を応援した。

 わざと2人きりになる様にしたり、隣を歩かせる様にしたり。

 そして、友達はとうとう告白をすると言ったのだ。

「そっか、頑張ってね!
きっと上手くいくよ!」

 私はそう友達を勇気づけた。

 次の日、その友達は暗い顔をしていた。

 一目で、告白がうまくいかなかったと分かるほどに。

「……大丈夫?」

 私が恐る恐る声をかけると、友達は私のことをキツく睨んできた。

「私より、あんたがいいんだって」

「え?」

 どうやら友達が好きだった男の子は、私のことを好きだった様だ。

 すると、友達はカバンから包丁を取り出した。

「あんたなんかいなければ良かったのに」

 私は、必死に逃げた。

 身体能力は私の方が高いお陰で、簡単に逃げ切ることが出来た。

 しかし、あんな友達の顔を見たのは初めてだ。

 きっと、振られてすぐだったからあんな行動に出たのだろう。
 普段は凄く優しい子なのに。

「……落ち着いたら、また昔みたいに話せるかな……」

 私は1週間後、友達に会いに行ってみた。

 正直怖くて堪らなかった。
 包丁を向けられたのもそうだが、何より普段優しかったあの子があんなに人を憎んでる顔をするのが怖かった。

 でも、もう一度話をしたかった。

 友達は私に気付いて家から出て来た。

「あら、何の用? 可哀想な私を嘲笑いに来たの?」

 口調が以前とまるで違う。
 刺々しくそう言ってきた。

「違う!
ねぇ、私、また前みたいにあなたと遊びたい!」
「何言ってるの?」

 彼女は冷たくそう言った。

「そもそも私があんたのに付き合ったのは、悪い噂ばかりの一人ぼっちのあんたと仲良くしてあげてる優しい私を演じる為。
それなのに、あんたはころっと本気で騙されるなんてね。
しかも、こないだ包丁突きつけたのに、まだノコノコと家に来るなんて、とんだお人好しの大馬鹿よね」

 信じられなかった。

 今までの私との思い出は、全部演技だったというのか。

「でもあんた顔が無駄に良いせいで、彼に振られて恥かいたの、まだ憎いんだよね。
ねえ、私の本当の友達になりたいならさ」



「私の為に死んでよ」

 私は自分でも分かるくらいサーッと血の気が引いた。
 恐らく相当青ざめているであろう。

「出来ないんでしょ?
じゃあトモダチ終わりー。
お疲れさん」

 そう言って、彼女は家の中へ戻っていった。

 私はフラフラとした足つきで帰り道を歩いていた。

 何故私が仲良くなると、みんな変わってしまうのだろう。

 私はただ。


「……寂しい」


 目が覚めると、私は自然と涙を流していた。


「ああ、またか」

 情緒不安定になると、昔の嫌な夢ばかり見る。

 だからなるべく色恋なんてものは考えたくもない。

 誰も私に構わないで欲しい。

 私はもう、辛い思いはごめんだ。
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