上 下
33 / 328

可愛いですね

しおりを挟む
「はぁ、疲れる……」

 本日、オリヴィア含むハワード家御一行はとある社交界に呼ばれていた。

 その規模はかなり大きく、隣国の貴族や楽団まで来ている為、人の数も桁違いである。

 オリヴィアはというと、いつもの様に壁に花を決め込んでいたのだが、そんな中突然隣から声をかけられた。

「ご機嫌よう、オリヴィア様」

 そこには綺麗な青のドレスで着飾ったシーラの姿があった。

「あ、ご機嫌ようシーラ様」

 私とシーラは互いに軽く挨拶を済ませる。

「こうした社交界でお会いするのは初めてですね」
「え、ええ、そうですわね」

 シーラに尋ねられ、私は苦笑いで返す。

 普段こういう華やかな舞台は苦手な為、出なくていいものには極力出ないようにしているせいだろう。

「あ、ルーカス様!」

 するとシーラは奥の方にいるルーカスに気付き、一直線にそちらへと向かって行ってしまった。

 やはりルーカスが絡むと周りが見えなくなるらしい。

「よくあんな遠くにいるルーカスを発見出来るわね……」

「本当、凄いですよね?」

 私がそう独り言を呟くと、隣から返ってくるはずのない返事が返ってきた。

 驚いて私はすぐさま声の聞こえた方へと振り向く。

 すると、そこには栗色の髪に青い瞳の私と同じくらいの歳の少年が立っていた。

「……え?」

 私は言葉が出なくなった。

 この顔は……?

「あ、自己紹介してませんでしたね。
俺シーラ姉さんの弟のルイス・ハンネルと言います」

 そう、ルイスと名乗った少年に軽くぺこりと会釈される。

「あ、どうも、オリヴィア・ハワードと言います」

 私も軽くぺこりと会釈した。

「オリヴィア様の話は姉から聞いていましたが、想像以上にとても可愛らしいですね」
 
 ルイスに突然そう告げられる。
 シーラは一体私をどの様に言ったのだろうか?

 少し気になるところである。

「はあ、こんなに可愛らしいなら俺が付き合いたかったけど、ノア君相手じゃ俺も敵わないな」

 ルイスはそうハハッと笑いかける。

 そういえば、ノアと付き合ってるフリをしていたことをすっかり忘れていたが、シーラはまだ私とノアが付き合っていると思っているのだろうし、弟のルイスにもそう話したのだろう。

 私はルイスの顔をジーっと見る。

 確かにシーラにも少し似ているが、シーラよりも更に優しい顔つきで、中性的な印象である。

 そして、私の記憶の中の昔助けてくれた少年と特徴が似ている……気がする。

 あれからもう8年も経っているのだからぼんやりとした記憶でしかないけれど、この人がもしかしたらあの時の少年かもしれない。

「ん? 俺の顔に何かついてる?
そんなに可愛い子に見つめられると勘違いしちゃいそうになるんだけど」

 ルイスはそう言って少し顔を赤らめながらハハハと笑って誤魔化す。

「あの、訊きたいことがあるのですけれど」

 と、私が尋ねようとした瞬間。

「オリヴィア様!」

 そう後ろから声をかけられた。
 そこには、いつの間にかこちらへと移動してきたルーカスとシーラの姿があった。

 ルーカスの表情は何故か少し怒り気味である。

「ルイス君、悪いがオリヴィア様はノアと付き合ってるんだ、お引き取り願いたい」

 ルーカスはそう言って私の腕を引いてルイスとの距離を取る様に促してきた。

 まあ、確かにノアと付き合ってると公言している以上、他の男性と親しくしてる場所を見られるのはまずいかもしれない。

 しかし、少し談笑してたくらいでそこまで親しそうに見えたのだろうか?

「あら、警戒されちゃいましたか」

 相変わらずルイスはにこやかに笑っていた。

「そりゃあ警戒される様なことをしているからでしょ?」

 それに対しシーラは溜め息混じりに答える。

 シーラがルイスと話してる隙に、私は何故かルーカスに誘導されて端の人影の少ないところに移動させられた。

 それにしても、珍しくルーカスが怒っている様である。

「あの、ルーカス?
何か怒ってる?」

 私がそう尋ねると、ルーカスは私の方を振り返って口を開いた。

「オリヴィア様、くれぐれもルイスには気を付けて下さい」

 私はそれを聞いて首を傾げる。

「ルイスさんがどうかしたの?
別に悪い人には見えなかったけど」

 すると私の言葉に、ルーカスは少し口調を荒げながら答えた。

「あいつは狙った女の人は絶対に自分のものにするやり手なんです!
そして、飽き性でもある為今まで何人もの女を泣かせたと噂が絶えないプレイボーイなんですよ!」

 ああ、成る程、そういう訳か。

 ルーカスはどうやらわざわざ私がノアと付き合ってるという嘘を公言してまでルイスとは親しくさせたくないと言う事らしい。

「オリヴィア様はただでさえお美しいのだから、絶対に狙われてしまいます!」

「それはないでしょ。
ルイスさんも私がノアと付き合ってると思い込んでいたし、わざわざ狙いはしないと思うけど?」

 私がそう否定するも、それに対して更にルーカスに否定し返された。

「油断してはいけませんよ!
あいつは人の女でも見境なしですから!」

 それが本当なら、ルイスは大分クズすぎではないだろうか?

 しかし、先程のやり取りも何となく軽そうだったし、あながち嘘とも言い切れない。

「でも私、ルイスさんに訊きたい事があっただけなんだけど」

「訊きたい事?」

 ルーカスにそう訊かれるも、あまり話したくない内容の為、少し濁しながら話す。

「まあ、下町時代にちょっとしたトラブルに巻き込まれて、それを助けてくれた少年にルイスさんが似てたから、確認したかっただけよ」

「成る程……因みにオリヴィア様はまさかその助けてくれた少年の事が好きなのですか?」

 ルーカスにそう尋ねられるも、私は首を横に振る。

「お礼がしたいだけで、恋愛感情はないと思うけど」

 答えながらも私は少し考える。

 もしあの助けてくれた少年がルイスなら、是非ともお礼はしたいけれど、この状況だとそれは難しそうである。

「オリヴィア様、もしルイスがその少年でお礼がしたいというのなら、せめて俺かエマかノアの誰かが近くにいる時にしてください」

 しかし、相当な警戒のされっぷりだなとも思う。

「因みにルーカスは私がルイスさんに惚れると思う?」

 私がそう質問するとルーカスは気難しい顔をした。

「考えたくも無いですが、ルイスは今まで一度も振られたことはないそうです。まあ、男の俺から見ても顔もカッコいいし喋りも上手ですしね」

「まあ、確かに話し上手そうよね。
顔だけならルーカスの方が勝ってそうだけど」

 そう私が言うとルーカスの顔がみるみると赤くなる。

「え?
お、オリヴィア様、俺の顔はルイスに勝ってます?」

「まあ、だけならルーカスの方がかっこいいと思うけど」

 それを聞いて、ルーカスは何故かよっしゃあ! とガッツポーズをし出した。

 そんなにルイスを敵視しているのだろうか。

「ち、因みにノアと俺はどっちがかっこいいですか!?」

「え? まあ、ルイスさんもそうだけどノアもかっこいいと言うよりはかわいい感じだし、ルーカスの方がかっこいいんじゃない?」

 何故かルーカスはもの凄く満面の笑みを浮かべている。

 そんなにかっこいいと言われるのが嬉しいのだろうか?

 というかルーカス自体普段からかっこいいなんて腐るほど聞いてそうなのだが。

 やっぱりルーカスって良く分からないなとオリヴィアは思った。
しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

異世界迷宮のスナイパー《転生弓士》アルファ版

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:113pt お気に入り:584

聖女召喚に巻き添え異世界転移~だれもかれもが納得すると思うなよっ!

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:1,327pt お気に入り:846

能力1のテイマー、加護を三つも授かっていました。

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:10,587pt お気に入り:2,217

処理中です...