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親愛なるオリヴィア様へ
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その後特に事件らしき事も起こらずに、華やかな社交界は無事に終わっていった。
そして社交界から3日ほど経ったある日、ルイスから初めての手紙が送られてきたのだ。
「親愛なるオリヴィア様へ
先ずは俺との文通相手になって下さりありがとうございます。
正直、あまりいい噂のない俺なんかとはお話すらしたくないのではと思っていました。
昔下町で会った頃のこと、今でも夢に見ます。
きっと、あの少女は貴女で間違いありません。
あんなに可愛らしいお方を見間違えるはずがありませんから。
これからも貴女とは友達として仲良くやっていきたいです。
それではまた、お返事を心待ちにしております。
ルイス」
私は自室でルイスから送られてきた手紙をまじまじと読んだ。
ふむ、社交界であった時は少し馴れ馴れしい奴だなと思っていたが、手紙では存外真面目な印象である。
それに噂とは当てにならないものでもある。
かつて私も似た様な噂をされていたからか、妙な親近感が湧いていた。
「まあ、モテたりすると周りからの嫉妬でそう言われても仕方ないわよね」
実際、本人も他の女の子と付き合っていたと言っていたのだし半分は事実なのだろうけれど、もう半分はそれを過大解釈した周りの人達によるものとも言えなくもない。
まあまだ信頼は出来ないが、一先ずは害はなさそうである。
「何て返事をしようかしら?」
私は机に返信用の手紙を置いてペンを取り、取り敢えず簡単な挨拶を書き始めた。
それからお礼と、一応貴方には興味がないという事も念の為釘を刺す為に書いておく事にする。
「ルイス様へ
早速のお手紙ありがとうございます。
この様な事がお礼でいいのかは分かりませんが、ルイス様が喜んで下さるなら嬉しいです。
昔私の事を助けて下さりありがとうございました。
ルイス様に好かれるのは本当に嬉しいのですが、私は現在ノアと付き合ってるので、ご希望には添えません。
それでも宜しければまたお手紙お待ちしています。
オリヴィア」
書いてても思うけれど、ノアのことを良い様に使ってる気もして何となく申し訳ない気持ちになる。
しかしそんな事を言ったところで後の祭りだし、そもそもノアから言い出した事なのだから私からノアに直接謝るつもりはない。
まあ、今度クッキーくらいは焼いてあげてもいいかなとは思うけど。
「しかし、何だか凄くあっさりしてるのよねぇ……」
もう見つかるはずもないと思っていた少年と、こうも簡単に再会してしまうとは。
しかも向こうも私のことを覚えていたとは。
何だか凄い偶然な気もするし、出来すぎてる気がする。
「まあでも、貴族になれば会えるかもとは思っていたし、それはそれで良かったのだけれど」
何だか胸にぽっかりと穴が空いた様な感覚に襲われる。
会えて良かったはずなのに、会えない方がそれはそれで良かったとすら思えてしまう。
それは何故なのだろうか。
私が思っていた少年像とルイスが違っていたから?
しかしあれから8年も経っている訳だし、そもそも私はあのちょっと話した程度でしか少年を知らないのだし、私が思い描いてる少年と違っていてもおかしくはないのだが。
うーんと少し考えてみる。
何だろうこのモヤモヤとした気持ちは。
答えが分かったはずなのに、その答えに納得出来ていない自分がいる。
寧ろ分からないままの方が良かったと思える様な……。
何故なのか考えても分からない事を考えるのは好きではない。
私は取り敢えずリフレッシュも兼ねて部屋を出た。
すると、廊下でルーカスに声をかけられた。
「あの、オリヴィア様、結局ルイスはオリヴィア様を助けた少年だったのですか?」
そう言えば、ルーカスに事の顛末を伝えていなかった。
というのも、あの社交界の後日からルーカスは馬術なり剣術なりの試験があったりで、忙しそうにしていたからだ。
「ああ、訊いてみたらやっぱりルイスさんがあの時の少年だったみたい」
「そ、そうなんですね。
では、お礼はどうされるのですか?」
ルーカスに問われて私は少し悩む。
さて、どう答えようか。
正直に文通友達になったと言って、恐らく許してはくれないだろう。
「それが、大した事はしてないからと断られたわ」
私は何食わぬ顔でルーカスに答える。
まあ実際一度は断られているし、嘘ではない……はず。
「そうなんですか? あのルイスが?」
ルーカスはやたら疑いの目で見てくる。
余程ルイスへの信頼はないらしい。
「ところで、ルイスさんの噂って本当なの?
ルーカスだって、シーラさんと許嫁だったんだから、ある程度ルイスさんとも面識があったんでしょ?
どんな人物なの?」
私の中でのルイスの印象と、ルーカスの中でのルイスの印象は恐らく違うはずだ。
これから文通をするにしても、多少は相手のことを知っておいた方が良いだろう。
「オリヴィア様、やけにルイスの事は気にするんですね?」
私がルイスの事を尋ねると、ルーカスの機嫌が何やらまた悪くなった。
余程ルイスの事が気に入らないのだろう。
「まあ、少し話しただけだけど、それに私にとっては恩人だし。
私の目から見て今のところ噂通りとは見えないのよね」
すると、急にルーカスに抱きしめられた。
この兄弟は何故こんなにも人を抱きしめたがるのだろうか。
私をその辺の野良猫だとでも勘違いしているのだろうか?
「何? 急に?」
私は何とかルーカスから離れようと抵抗するも、やはりルーカスも自身の体を鍛えているだけあって、中々抜け出せない。
「お願いですオリヴィア様。
あいつにだけは関わらないで下さい」
そう抱きしめられながら懇願される。
「いや、だからその何で駄目なのかの理由を聞きたいのだけれど」
「あいつは、俺の友達の女にまで手を出した。
あいつだけは許せないんです」
ルーカスに友達がいたんだという感心はさて置き、成る程、ルーカスがルイスを嫌う理由はそこか。
確かに、友達の付き合ってる女性が、別の男に取られたら、それは修羅場だろうな。
しかもその取った相手が自分の許嫁の弟となると、余程の事だろう。
「成る程ね、事情は大体察したわ」
その話が本当なら、ルイスは相当やり手である。
確かに心配にもなるだろう。
まあ、文通友達だけの関係なら手は出されないだろうし、ルーカスが心配する様な事は起きないだろうけれど。
「まあでも、私がルイスを好きになることはないから」
私はそう断言する。
すると、ルーカスが小さく呟いた。
「……俺じゃ駄目なんですか?」
「え?」
私は聞き取れずもう一度聞き返す。
「オリヴィア様、少しは俺にも興味を持ってくれませんか?」
?
ルーカスは急に何を言っているのだろう?
「何で私が今更ルーカスに興味を持つのよ?
もう4ヶ月くらい一緒にいるから、多少の性格なら知ってるわよ」
私の言葉を聞いたルーカスは顔がみるみると赤くなっていった。
「因みに、オリヴィア様から見た俺ってどんな感じなんですか?」
「そうね、変わり者かしら?」
私がそう言うとルーカスは不思議そうな顔をした。
自分が変わり者と思われてるなんて1ミリも思ってなかったのだろう。
「後、よく分からないところで赤面したり、モテるくせに女心が分かってない。
それから、実はエマやノアの事を気にかけてたり、長男ぶろうと頑張ってたりしてるってところかしら」
ルーカスはそれを聞いてびっくりする。
「オリヴィア様、何で俺が長男として頼られたがってるところまで知ってるんですか!?」
ルーカスがそう問い掛けてくるも、正直これまでエマやノアが何かに困ってるとすぐに頼られようとしている場面は度々目撃してるし大分分かりやすいというかバレバレなのだけれど。
しかし残念ながらエマもノアも割と強かな為、大体ルーカスに頼らずとも自分達のみで解決してしまうのだが。
「オリヴィア様がそんなに俺の事を見てくれていただなんて!」
ルーカスはそう言って何故か更に抱きしめる力を強くする。
正直苦しい。
「あら~ルーカス兄様何をしてるんですか~?」
すると後ろからエマの声が聞こえてきた。
かと思うと、私の身体は一気に軽くなった。
どうやらエマがルーカスを引き剥がしてくれたらしい。
「エ、エマ! 違うんだこれは!
不可抗力だ! なあオリヴィア様!」
そして何故かルーカスが私に助けを求めてくる。
「いや、勝手にルーカスが私に抱きついてきたわ」
私はありのままの事実をエマに伝えた。
「へぇ~、オリヴィアちゃんに勝手に抱きついたのね……しかも苦しそうにしてたけど?」
「っな! オリヴィア様! 違いますよね!?」
だから何故私に助けを求めるんだ。
「正直最後の方は苦しかったわ」
それを聞いてエマはニコリと満面の笑みを浮かべる。
しかしその目は笑ってなどいなかった。
「オリヴィアちゃんをいじめる奴は許さないわよ」
「お、俺は決していじめてなど!
頼む話を聞いてくれ!」
それからルーカスはエマにがっつりと叱られたらしく、しばらく大人しくなったのでした。
そして社交界から3日ほど経ったある日、ルイスから初めての手紙が送られてきたのだ。
「親愛なるオリヴィア様へ
先ずは俺との文通相手になって下さりありがとうございます。
正直、あまりいい噂のない俺なんかとはお話すらしたくないのではと思っていました。
昔下町で会った頃のこと、今でも夢に見ます。
きっと、あの少女は貴女で間違いありません。
あんなに可愛らしいお方を見間違えるはずがありませんから。
これからも貴女とは友達として仲良くやっていきたいです。
それではまた、お返事を心待ちにしております。
ルイス」
私は自室でルイスから送られてきた手紙をまじまじと読んだ。
ふむ、社交界であった時は少し馴れ馴れしい奴だなと思っていたが、手紙では存外真面目な印象である。
それに噂とは当てにならないものでもある。
かつて私も似た様な噂をされていたからか、妙な親近感が湧いていた。
「まあ、モテたりすると周りからの嫉妬でそう言われても仕方ないわよね」
実際、本人も他の女の子と付き合っていたと言っていたのだし半分は事実なのだろうけれど、もう半分はそれを過大解釈した周りの人達によるものとも言えなくもない。
まあまだ信頼は出来ないが、一先ずは害はなさそうである。
「何て返事をしようかしら?」
私は机に返信用の手紙を置いてペンを取り、取り敢えず簡単な挨拶を書き始めた。
それからお礼と、一応貴方には興味がないという事も念の為釘を刺す為に書いておく事にする。
「ルイス様へ
早速のお手紙ありがとうございます。
この様な事がお礼でいいのかは分かりませんが、ルイス様が喜んで下さるなら嬉しいです。
昔私の事を助けて下さりありがとうございました。
ルイス様に好かれるのは本当に嬉しいのですが、私は現在ノアと付き合ってるので、ご希望には添えません。
それでも宜しければまたお手紙お待ちしています。
オリヴィア」
書いてても思うけれど、ノアのことを良い様に使ってる気もして何となく申し訳ない気持ちになる。
しかしそんな事を言ったところで後の祭りだし、そもそもノアから言い出した事なのだから私からノアに直接謝るつもりはない。
まあ、今度クッキーくらいは焼いてあげてもいいかなとは思うけど。
「しかし、何だか凄くあっさりしてるのよねぇ……」
もう見つかるはずもないと思っていた少年と、こうも簡単に再会してしまうとは。
しかも向こうも私のことを覚えていたとは。
何だか凄い偶然な気もするし、出来すぎてる気がする。
「まあでも、貴族になれば会えるかもとは思っていたし、それはそれで良かったのだけれど」
何だか胸にぽっかりと穴が空いた様な感覚に襲われる。
会えて良かったはずなのに、会えない方がそれはそれで良かったとすら思えてしまう。
それは何故なのだろうか。
私が思っていた少年像とルイスが違っていたから?
しかしあれから8年も経っている訳だし、そもそも私はあのちょっと話した程度でしか少年を知らないのだし、私が思い描いてる少年と違っていてもおかしくはないのだが。
うーんと少し考えてみる。
何だろうこのモヤモヤとした気持ちは。
答えが分かったはずなのに、その答えに納得出来ていない自分がいる。
寧ろ分からないままの方が良かったと思える様な……。
何故なのか考えても分からない事を考えるのは好きではない。
私は取り敢えずリフレッシュも兼ねて部屋を出た。
すると、廊下でルーカスに声をかけられた。
「あの、オリヴィア様、結局ルイスはオリヴィア様を助けた少年だったのですか?」
そう言えば、ルーカスに事の顛末を伝えていなかった。
というのも、あの社交界の後日からルーカスは馬術なり剣術なりの試験があったりで、忙しそうにしていたからだ。
「ああ、訊いてみたらやっぱりルイスさんがあの時の少年だったみたい」
「そ、そうなんですね。
では、お礼はどうされるのですか?」
ルーカスに問われて私は少し悩む。
さて、どう答えようか。
正直に文通友達になったと言って、恐らく許してはくれないだろう。
「それが、大した事はしてないからと断られたわ」
私は何食わぬ顔でルーカスに答える。
まあ実際一度は断られているし、嘘ではない……はず。
「そうなんですか? あのルイスが?」
ルーカスはやたら疑いの目で見てくる。
余程ルイスへの信頼はないらしい。
「ところで、ルイスさんの噂って本当なの?
ルーカスだって、シーラさんと許嫁だったんだから、ある程度ルイスさんとも面識があったんでしょ?
どんな人物なの?」
私の中でのルイスの印象と、ルーカスの中でのルイスの印象は恐らく違うはずだ。
これから文通をするにしても、多少は相手のことを知っておいた方が良いだろう。
「オリヴィア様、やけにルイスの事は気にするんですね?」
私がルイスの事を尋ねると、ルーカスの機嫌が何やらまた悪くなった。
余程ルイスの事が気に入らないのだろう。
「まあ、少し話しただけだけど、それに私にとっては恩人だし。
私の目から見て今のところ噂通りとは見えないのよね」
すると、急にルーカスに抱きしめられた。
この兄弟は何故こんなにも人を抱きしめたがるのだろうか。
私をその辺の野良猫だとでも勘違いしているのだろうか?
「何? 急に?」
私は何とかルーカスから離れようと抵抗するも、やはりルーカスも自身の体を鍛えているだけあって、中々抜け出せない。
「お願いですオリヴィア様。
あいつにだけは関わらないで下さい」
そう抱きしめられながら懇願される。
「いや、だからその何で駄目なのかの理由を聞きたいのだけれど」
「あいつは、俺の友達の女にまで手を出した。
あいつだけは許せないんです」
ルーカスに友達がいたんだという感心はさて置き、成る程、ルーカスがルイスを嫌う理由はそこか。
確かに、友達の付き合ってる女性が、別の男に取られたら、それは修羅場だろうな。
しかもその取った相手が自分の許嫁の弟となると、余程の事だろう。
「成る程ね、事情は大体察したわ」
その話が本当なら、ルイスは相当やり手である。
確かに心配にもなるだろう。
まあ、文通友達だけの関係なら手は出されないだろうし、ルーカスが心配する様な事は起きないだろうけれど。
「まあでも、私がルイスを好きになることはないから」
私はそう断言する。
すると、ルーカスが小さく呟いた。
「……俺じゃ駄目なんですか?」
「え?」
私は聞き取れずもう一度聞き返す。
「オリヴィア様、少しは俺にも興味を持ってくれませんか?」
?
ルーカスは急に何を言っているのだろう?
「何で私が今更ルーカスに興味を持つのよ?
もう4ヶ月くらい一緒にいるから、多少の性格なら知ってるわよ」
私の言葉を聞いたルーカスは顔がみるみると赤くなっていった。
「因みに、オリヴィア様から見た俺ってどんな感じなんですか?」
「そうね、変わり者かしら?」
私がそう言うとルーカスは不思議そうな顔をした。
自分が変わり者と思われてるなんて1ミリも思ってなかったのだろう。
「後、よく分からないところで赤面したり、モテるくせに女心が分かってない。
それから、実はエマやノアの事を気にかけてたり、長男ぶろうと頑張ってたりしてるってところかしら」
ルーカスはそれを聞いてびっくりする。
「オリヴィア様、何で俺が長男として頼られたがってるところまで知ってるんですか!?」
ルーカスがそう問い掛けてくるも、正直これまでエマやノアが何かに困ってるとすぐに頼られようとしている場面は度々目撃してるし大分分かりやすいというかバレバレなのだけれど。
しかし残念ながらエマもノアも割と強かな為、大体ルーカスに頼らずとも自分達のみで解決してしまうのだが。
「オリヴィア様がそんなに俺の事を見てくれていただなんて!」
ルーカスはそう言って何故か更に抱きしめる力を強くする。
正直苦しい。
「あら~ルーカス兄様何をしてるんですか~?」
すると後ろからエマの声が聞こえてきた。
かと思うと、私の身体は一気に軽くなった。
どうやらエマがルーカスを引き剥がしてくれたらしい。
「エ、エマ! 違うんだこれは!
不可抗力だ! なあオリヴィア様!」
そして何故かルーカスが私に助けを求めてくる。
「いや、勝手にルーカスが私に抱きついてきたわ」
私はありのままの事実をエマに伝えた。
「へぇ~、オリヴィアちゃんに勝手に抱きついたのね……しかも苦しそうにしてたけど?」
「っな! オリヴィア様! 違いますよね!?」
だから何故私に助けを求めるんだ。
「正直最後の方は苦しかったわ」
それを聞いてエマはニコリと満面の笑みを浮かべる。
しかしその目は笑ってなどいなかった。
「オリヴィアちゃんをいじめる奴は許さないわよ」
「お、俺は決していじめてなど!
頼む話を聞いてくれ!」
それからルーカスはエマにがっつりと叱られたらしく、しばらく大人しくなったのでした。
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