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甘いひと時はいかが?

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 ノアの誕生日が終わって1週間ほど経ったある日。

「わあ! 見て見てオリヴィアちゃん!
あそこのお菓子屋さん美味しそうね!」

「そうね」

 私はエマと前回約束した通り下町の公園までやって来ていた。

 下町と言っても今日来ている所はブルーラインと違いお屋敷に比較的近い町なので、治安も良くて穏やかである。

「うふふ♡ 
オリヴィアちゃんとデート出来るなんて!
すっごく嬉しいわ!」
「それは良かったわね」

 エマはニコニコと満面の笑みを浮かべてずっとはしゃいでいた。

「しかしまあ、野良猫はどの辺にいるのかしらね」

 何故エマと下町の公園に来る事になったかと言うと、前にノアが嘘を吐いた際にエマも王室の猫と戯れている私を見たいと言い出し、それなら王室でなくてもいいのではという話になったからである。

 という訳で今回は野良猫を探すのが目的ではあるのだが、そうでなくともエマは出掛けた時からずっとこの調子だ。
 
 多分目的が最早私とのデートだとすり替わっている様だ。

「あ、あそこの雑貨屋さん可愛い!
ねえ、ちょっと寄っていっても良いかしら?」
「……はぁ、仕方ないわね」
「やったー!!
じゃあ早速行きましょ!」

 エマはそう言って私の手を引いて店へと向かう。
 
 私はその流れでエマと一緒に店へと入った。

 ……何だか、エマから告白されて以来、エマに対して強く出れない。

 そのせいか、今日下町に来てからずっとエマの言う事に全てYESで答えてしまっている。

「あ! これすっごく可愛い!
オリヴィアちゃん、どうかしら?」

 エマはそう言いながらオリヴィアにリボンの髪飾りを見せてきた。

(まあ変なお願い事されてる訳でもないし、許容範囲内だし、別にNOと言わなきゃいけない理由も無いんだけど……)

(でも、このままでいいのかな……?
良くない気もする……)

「オリヴィアちゃん?
どうしたの?」

 中々返事をくれないオリヴィアに対して、エマは不審の目を向ける。

「へ? ああ、ごめん。
それ可愛いわね」

 オリヴィアはハッと我に返って咄嗟に返事をした。
 
 いけないいけない、考え事するあまり話を殆ど聞いていなかった。

「そうよね? 気に入っちゃったからちょっと買って来るわ!」
「はいはい、いってらっしゃい」

 エマはピンクのリボンの髪飾りを持って会計の方へと走って行った。

 私は店の外に出て会計を待つ事にする。

「はぁ……あー、らしくないわ……」

 エマがいつも通りに振る舞ってくれているお陰で普通に話せるが、それが逆に申し訳なく感じる。

 前まで人を振ってもここまで罪悪感なんて感じなかったのに……。

 ノアから告白された時の様に分からないと濁しておけば良かっただろうか?

 しかしそれだと私がこれから女性を好きになる前提の話になるし……。

 いや、そもそも男性だとか女性だとか関係なくこれから私が誰かを好きになるのか、もしくは好きな人が出来るのかすらも分からないのか。

「うーん……」

 でも、やっぱりこのままでは駄目だ。
 
 いつまでもエマの優しさに甘えている訳にもいかない。

 そうと決まれば、エマとちゃんと話そう。

「お待たせー!」

 私が決心したのと同じタイミングでエマが店から出て来た。

「あ、エマ、ちょっと話したい事があるんだけど」
「え? 何なに!?」

 エマは目を煌めかせて尋ねてくる。

「あー、ここで話すのもなんだし、あんたが美味しそうって言ってたあのお菓子屋さんにでも入る?」

「いいの!? じゃあ行きましょう!」

 こうして私とエマはお洒落なお菓子屋さんへと入った。

 お店に入るなり、エマはショーウィンドウを見て悩み出す。

「うぅ、ノーマルなショートケーキも美味しそうだけど、ガトーショコラも捨てがたい! でもクッキーも美味しそうだし……ああ! 決められないわ!」
「……ならどっちも買えばいいんじゃない?」

 私は以前ルーカスと糸を買いに行った時にどっちも買えばいいと言われたのを思い出し、エマにも勧めてみる。

 しかし、エマは私の方へと振り向いて強い口調で言い返してきた。

「駄目よ! 確かに魅力的だけど、沢山食べたら太っちゃうもの!」
「言うほど太ってないと思うけど、そんなの気にしてるんだ」

 エマもそういうの気にするんだな、とちょっと意外に思う。

「だってオリヴィアちゃんが華奢過ぎるもの!
私はいつだってオリヴィアちゃんの隣を歩いても恥じない私でいたいの!」

 因みにエマも割と華奢(というか子供っぽい体型)だと思うから、そこまでカロリーを気にする必要も無いと思うのだが。

「あ、そう。
すみません、ガトーショコラ1つ」

 悩んでるエマを他所に私はさっさと注文を済ませる。

 それからエマはだいぶ悩んだ末にモンブランを頼んだ。

「わぁ! 美味しそう!
頂きまーす!」

 エマは席に届いたモンブランを一口頬張ってニコニコしている。

「おいしー! オリヴィアちゃん、一口食べる?」

「じゃあ頂こうかしら」

 私がそう言うと、エマは一口フォークにすくってこちらに向けてきた。

「はい、あーん♡」

「いや、自分で食べるから」

 私はエマの手からフォークを取ってモンブランを一口食べた。

「ああん、ズルい!
最近オリヴィアちゃんが何だかいつも以上に優しいからイケると思ったのに!」

 私は内心ここ最近エマに対して甘かった事がバレていたのかとちょっと驚く。

「あー、まあその事なんだけど……」
「待って!? これって、か、間接キスでは!?」

 私がいざ話し出そうとすると、エマは私から返されたフォークを見つめながらそう叫んだ。

「は? いや、それがどうかしたの?」
「どうしたもこうしたもないわ!
今私が持っているこのフォークにオリヴィアちゃんの体液が付着していると考えただけで動悸が止まらないもの!!」

「病院行け」

 何やら興奮気味なエマを私は心底冷めた目で見ながらそう言った。

「わ、私、このフォークを使ってもいいのかしら!?
すっごく罪深い事をしてる気がするのだけれど!?」
「罪深いと思うなら今すぐフォークを新しいのに替えれば?」
「い、嫌!
このフォークはこのまま持ち帰らせて頂きます!」
「何盗もうとしてんのよ、店に返せ」
「なら、買い上げるわ!
いくらでも払うから!」

 折角話し出そうと思ったのに、エマが騒ぐせいで全く話が進まない。

 しかし、こういうやり取り、何だか久し振りな気がする。

「ふふ、たかが間接キスだけでここまで騒ぐなんて」

 気付いたら、何だかおかしくて少し笑ってしまった。

「たかがじゃないわ! あ! オリヴィアちゃんやっと笑ってくれた!」

「え?」

「今日のオリヴィアちゃん、ずっーと考え事してて上の空だったから心配してたのよ。
でも笑ってくれて良かったわ!」

 どうやら今日ずっと考え事をしていた事もバレていたらしい。

「あー、そうね。ごめん。
その、この前エマの告白を断って以来、心配だったの。
エマはいつも通りに接してくれてたけど、私のせいで傷つけたんじゃないかって」

 私は意を決して話し出した。
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