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「良い返事をありがとうございます」
ニコリとレイアンは笑みを浮かべる。
「では、早速ですが、本日からどうぞ我がお屋敷でお過ごし下さい」
「……え?」
今、この人なんて言った?
「あの、あくまでまだ婚約、ですよね?」
私が恐る恐る尋ねると、レイアンは相変わらずニコニコと答える。
「ええ。本来なら結婚してから一緒に住む事が普通かもしれませんが、しかしオリヴィアお嬢様は義兄弟とはいえ血の繋がらない異性とお過ごしですよね?
私としてもその状況はいかがなものかと……。
それに、もしあなたが16になるまでの1年で他の男と駆け落ち……なんてされたらたまったものではございませんから」
確かに、そう言われてしまえばそうかもしれないが。
「あの、それでもいくら何でも今日からは急すぎでは……?」
「心配いりません。貴女様の持ち物はお屋敷から早急に持ってくる様頼みますので。
私に逆らって逃げようなどと考えていないのであれば、言う事を聞いた方が賢明かと」
最後のセリフは、どうやら暗に脅してきている様だ。
ここは悔しいがこの男の言う通りに従う他なさそうである。
「……分かりました」
私は歯痒い気持ちのまま渋々同意する。
「貴女が聡明なお方で良かったです。
ではこれから向かいましょうか。
1時間だけ時間を差し上げますので、お荷物の準備と、心残りを清算しておいて下さいね」
そんな事、急に言われても……。
「……分かりました」
言いたい事は山程あったが、きっとどれを言っても最終的には無駄なのだろう。
私とこの男の権力の差は歴然で、それに逆らうだけ無謀だと言う事は、今までの少しの会話で嫌というほど分からさせられた。
私は、この男の前では何処までも無力なのだ。
「結局、力あるものが全てって事ね……」
私は広間を出てそう呟いた。
正直、悔しい気持ちが強い。
初対面で、いきなりここまで人生を左右される話をされて、私には何も意見する事が出来ない。
全てあの男の思い通りで。
「あー、本当、何なのよもう……」
単純に、ムカついていた。
しかし、どうする事も出来ない。
私は取り敢えずみんなに話さなくてはと急いで部屋に向かった。
兄弟より先に、私はまず母の元へと向かう事にした。
恐らく兄弟と話したら1時間あっという間に経ってしまいそうだし、母にしっかりと挨拶をしたかったから先に済ませようと思ったのだ。
私はドアをノックする。
「母さん、私だけど……」
「オリヴィア? なぁに?
どうかした?」
母はガチャリとすぐにドアを開けてくれた。
「ちょっと話があって……」
「ジョンも居るけど、それでも大丈夫かしら?
女だけの話なら、今すぐ追い出すわよ?」
母はクスクスと部屋にいるハワード子爵を見ながらそう言った。
「……まあ、女性の話に男が首を突っ込むのはナンセンスだな。
オリヴィアちゃんが望むなら部屋を出るが」
ハワード子爵も苦笑いを浮かべながら気を遣ってそう話してくれた。
「あ、いえお構いなく。
寧ろ、一緒に聞いてくれた方が助かります」
というのも、ハワード子爵と一対一で話すのはどうしても気が引けたので、このまま一緒に伝えた方が楽だと考えたからである。
「その……実は、レイアン王子に婚約を申し込まれて、それをお受けしたら、今日から屋敷に住んで欲しいと言われて……」
「えっ!?」
「はぁ!?」
ハワード子爵も母も私の言葉に目を丸くして驚いた。
「ちょっとオリヴィア、何かの冗談でしょ?」
「私も冗談だと思っていたんだけど、どうやら本気らしいの」
母は目に見えて分かるくらい取り乱していた。
「だからって、え? 今日!?
そんな急に、ねぇ?」
「確かに急だな。その、オリヴィアちゃんは、大丈夫なのか?」
母がハワード子爵に話を振ると、ハワード子爵は私に問い掛けてきた。
「まあ、もう決まっちゃったので……その、こんな大事な話を勝手に決めてしまってごめんなさい」
本来なら婚約の話は当人同士のみならず両家の親も揃って話し合いなどもしたりするだろう。
しかし、あまりにも事が進むのが速すぎた。
本当にこれで大丈夫なのかと心配になってしまう程である。
「それで、1時間後にはレイアン王子と共にこちらを出て行く予定になってて」
「1時間!?
ねえオリヴィア、何だかよく分からないけれど、何でそんな事になったの!?」
私は母に尋ねられてどう答えようか迷う。
「何でって……そりゃあ王子に求婚されて、断るのも悪いでしょ」
「それよりも、オリヴィア自身の気持ちはどうなのよ?
いくら相手が王子だからって、あんたがすんなりとOK出すなんて私には思えないのだけれど?」
まあ、そりゃあそうだよなと思う。
私だって現に一度断ったし。
「まあ、それは、色々とあったというか……」
「オリヴィアは、そのレイアン王子の事が好きなの?」
母は真剣な顔でそう訊いてきた。
隣でハワード子爵も心配そうな顔をしている。
「あー……そうね、好きよ?
だからOKしたの。それだけの事よ」
ここで変に色々と探られるより、そういう事にした方が早いだろう。
「それは、嘘よね?」
私の言葉を母はすぐに否定した。
「……嘘じゃないわ」
「嘘よ、だってあんたこの間まで好きな人なんて居ないって」
「この間まで居なくても、一目惚れとか、そういうのあるでしょ?
母さんだっていつか分かるかもって言ってたじゃない」
「でもそれは……」
母が何かを言いかけたが、ハワード子爵が母の肩にポンと手を置いて母を止めた。
「オリヴィアちゃんが本当にレイアン王子と結婚して幸せになれるなら、私は止めないよ」
「お義父様……」
ハワード子爵は真剣な表情で話す。
「だけど、もし君が不幸になる様な事があるなら、その時は必ず迎えに行くから。
私達は、絶対に君の味方だ」
力強く話すハワード子爵に、オリヴィアは決意が揺らぎそうになる。
しっかりしなくては。
私がみんなを守らなくては。
「ありがとうお義父様。
でも大丈夫ですから。
母さんも安心して」
私はなるべく笑顔でそう言った。
「オリヴィア、本当に何かあったら、絶対に帰ってきなさいよ」
「分かってるわ。
じゃあ、他のみんなにも挨拶して来るから。
お義父様、これまでお世話になりました。
母さん、今までありがとう」
オリヴィアはそう言い残し2人の部屋を後にした。
残されたハワード子爵とイザベラは、暗い表情をしていた。
「ねぇ、ジョン。
どうにか出来ないものかしら」
「……イザベラ、少し時間をくれないか?
色々と考えたいんだ」
そしてジョンは、手紙を書き始めた。
ニコリとレイアンは笑みを浮かべる。
「では、早速ですが、本日からどうぞ我がお屋敷でお過ごし下さい」
「……え?」
今、この人なんて言った?
「あの、あくまでまだ婚約、ですよね?」
私が恐る恐る尋ねると、レイアンは相変わらずニコニコと答える。
「ええ。本来なら結婚してから一緒に住む事が普通かもしれませんが、しかしオリヴィアお嬢様は義兄弟とはいえ血の繋がらない異性とお過ごしですよね?
私としてもその状況はいかがなものかと……。
それに、もしあなたが16になるまでの1年で他の男と駆け落ち……なんてされたらたまったものではございませんから」
確かに、そう言われてしまえばそうかもしれないが。
「あの、それでもいくら何でも今日からは急すぎでは……?」
「心配いりません。貴女様の持ち物はお屋敷から早急に持ってくる様頼みますので。
私に逆らって逃げようなどと考えていないのであれば、言う事を聞いた方が賢明かと」
最後のセリフは、どうやら暗に脅してきている様だ。
ここは悔しいがこの男の言う通りに従う他なさそうである。
「……分かりました」
私は歯痒い気持ちのまま渋々同意する。
「貴女が聡明なお方で良かったです。
ではこれから向かいましょうか。
1時間だけ時間を差し上げますので、お荷物の準備と、心残りを清算しておいて下さいね」
そんな事、急に言われても……。
「……分かりました」
言いたい事は山程あったが、きっとどれを言っても最終的には無駄なのだろう。
私とこの男の権力の差は歴然で、それに逆らうだけ無謀だと言う事は、今までの少しの会話で嫌というほど分からさせられた。
私は、この男の前では何処までも無力なのだ。
「結局、力あるものが全てって事ね……」
私は広間を出てそう呟いた。
正直、悔しい気持ちが強い。
初対面で、いきなりここまで人生を左右される話をされて、私には何も意見する事が出来ない。
全てあの男の思い通りで。
「あー、本当、何なのよもう……」
単純に、ムカついていた。
しかし、どうする事も出来ない。
私は取り敢えずみんなに話さなくてはと急いで部屋に向かった。
兄弟より先に、私はまず母の元へと向かう事にした。
恐らく兄弟と話したら1時間あっという間に経ってしまいそうだし、母にしっかりと挨拶をしたかったから先に済ませようと思ったのだ。
私はドアをノックする。
「母さん、私だけど……」
「オリヴィア? なぁに?
どうかした?」
母はガチャリとすぐにドアを開けてくれた。
「ちょっと話があって……」
「ジョンも居るけど、それでも大丈夫かしら?
女だけの話なら、今すぐ追い出すわよ?」
母はクスクスと部屋にいるハワード子爵を見ながらそう言った。
「……まあ、女性の話に男が首を突っ込むのはナンセンスだな。
オリヴィアちゃんが望むなら部屋を出るが」
ハワード子爵も苦笑いを浮かべながら気を遣ってそう話してくれた。
「あ、いえお構いなく。
寧ろ、一緒に聞いてくれた方が助かります」
というのも、ハワード子爵と一対一で話すのはどうしても気が引けたので、このまま一緒に伝えた方が楽だと考えたからである。
「その……実は、レイアン王子に婚約を申し込まれて、それをお受けしたら、今日から屋敷に住んで欲しいと言われて……」
「えっ!?」
「はぁ!?」
ハワード子爵も母も私の言葉に目を丸くして驚いた。
「ちょっとオリヴィア、何かの冗談でしょ?」
「私も冗談だと思っていたんだけど、どうやら本気らしいの」
母は目に見えて分かるくらい取り乱していた。
「だからって、え? 今日!?
そんな急に、ねぇ?」
「確かに急だな。その、オリヴィアちゃんは、大丈夫なのか?」
母がハワード子爵に話を振ると、ハワード子爵は私に問い掛けてきた。
「まあ、もう決まっちゃったので……その、こんな大事な話を勝手に決めてしまってごめんなさい」
本来なら婚約の話は当人同士のみならず両家の親も揃って話し合いなどもしたりするだろう。
しかし、あまりにも事が進むのが速すぎた。
本当にこれで大丈夫なのかと心配になってしまう程である。
「それで、1時間後にはレイアン王子と共にこちらを出て行く予定になってて」
「1時間!?
ねえオリヴィア、何だかよく分からないけれど、何でそんな事になったの!?」
私は母に尋ねられてどう答えようか迷う。
「何でって……そりゃあ王子に求婚されて、断るのも悪いでしょ」
「それよりも、オリヴィア自身の気持ちはどうなのよ?
いくら相手が王子だからって、あんたがすんなりとOK出すなんて私には思えないのだけれど?」
まあ、そりゃあそうだよなと思う。
私だって現に一度断ったし。
「まあ、それは、色々とあったというか……」
「オリヴィアは、そのレイアン王子の事が好きなの?」
母は真剣な顔でそう訊いてきた。
隣でハワード子爵も心配そうな顔をしている。
「あー……そうね、好きよ?
だからOKしたの。それだけの事よ」
ここで変に色々と探られるより、そういう事にした方が早いだろう。
「それは、嘘よね?」
私の言葉を母はすぐに否定した。
「……嘘じゃないわ」
「嘘よ、だってあんたこの間まで好きな人なんて居ないって」
「この間まで居なくても、一目惚れとか、そういうのあるでしょ?
母さんだっていつか分かるかもって言ってたじゃない」
「でもそれは……」
母が何かを言いかけたが、ハワード子爵が母の肩にポンと手を置いて母を止めた。
「オリヴィアちゃんが本当にレイアン王子と結婚して幸せになれるなら、私は止めないよ」
「お義父様……」
ハワード子爵は真剣な表情で話す。
「だけど、もし君が不幸になる様な事があるなら、その時は必ず迎えに行くから。
私達は、絶対に君の味方だ」
力強く話すハワード子爵に、オリヴィアは決意が揺らぎそうになる。
しっかりしなくては。
私がみんなを守らなくては。
「ありがとうお義父様。
でも大丈夫ですから。
母さんも安心して」
私はなるべく笑顔でそう言った。
「オリヴィア、本当に何かあったら、絶対に帰ってきなさいよ」
「分かってるわ。
じゃあ、他のみんなにも挨拶して来るから。
お義父様、これまでお世話になりました。
母さん、今までありがとう」
オリヴィアはそう言い残し2人の部屋を後にした。
残されたハワード子爵とイザベラは、暗い表情をしていた。
「ねぇ、ジョン。
どうにか出来ないものかしら」
「……イザベラ、少し時間をくれないか?
色々と考えたいんだ」
そしてジョンは、手紙を書き始めた。
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