見えるあなたと見えない僕

愛優

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9章

見えるあなたと見えない僕

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「ふー。」
そう息をはいて運転席によたれかかる。そしてそれを見計らったように電話が鳴る。
『空ー。今日事務所寄ってく?』
電話越しにも分かる如月のおちゃらけた声に気分が悪くなり簡潔に
「そのまま帰る」
とだけ言って一方的に電話を切る。そして、助手席にスマホを放り投げ、目の前を見る。前には小さい湖があり、それを隠すように木が生い茂っている。いかにも人が寄り付かなそうな場所であり、自殺の名所と化していた。先程までじかで霊障を受けていたため寒気がする。車の中は如月の札の力により霊は近寄ってこようともしないがさすがに歩くのにはしんどい量の霊が囲んでいた。今日の仕事は事件だと言い張る親に娘は自殺だという証拠を提示することだ。最初親御さんに話を伺った時から自殺だという証拠だらけだった。一応見に来たもののやはり娘さんの魂がうろついているのを見つけた。簡単な除霊だけしてあげてそれっぽい理由も作った。いっその事霊を見せてしまおうかと考えたが、もう一度見たいと言って離れなくなったらもっと面倒なことになるため思い直す。
「帰るか…」
そう呟いて車のエンジンをつける。ゆっくり車を動かすと霊はこちらを見るものの札の効果がありよっては来ない。如月の札は一流品だが如月のあの性格はどうしても好きになれない。そう思いながら前を見るとそこには自殺した者への花束だったりが供えられている。結局人間は一人ではないのだ。誰かしらがその人を思い考えてくれている。ましてや両親が見返りの無い愛情をくれるなんて幸せ以外なんでもない。なのに…。そう考えて無意味な事だと思い直しラジオをつける。ラジオでは世間で流行ってるらしい曲が次から次へとかけられる。気を紛らわしたつもりが頭の中はすっかり自分の家族について考え始めてしまった。私を置いて消えた家族…。
「ねえ、華さんはどうして私にばかり憑いてるの?」
そう聞くが後部座席から返事はかえってこない。気配はあるし見ることも出来る。なのに会話はできない。見れたところで本来知りたいところは分からない。ため息をついて、車は夕食を買うため、コンビニへと入っていく。
「いらっしゃいませ」
そう気だるげに店員が言う。コンビニが立つ場所にあまりいいイメージがない。ここもそうなのか浮遊霊と呼ばれる霊が数人店内を徘徊している。そいつらにバレないようにパンと野菜ジュースをカゴに入れてレジに持っていく。そこで初めて華さんがいないことに気づき急いで会計を済ます。いなくなったこと自体が気になったのではない。今まででも不意に消えたことは何度もあった。だが、今回はいつも出さない華さんが霊障を使ってるのに違和感があった。外に行くとすぐに華さんが居た。それに導かれるようについて行くと松本の裏道に入っていく。普段は入ることの無い路地に入っていくと華さんが敵意を向ける理由が分かった。
「大きいね」
目の前には首の皮一枚で繋がった塊があった。それが元々人の形であったとわかるのは顔がちゃんとあったからだ。つまり顔以外は人とは思えないほど崩壊していた。カバンには札とライターが一応入っているがここまででかいのに対応するかどうかは分からない。
「あれ、どうしたの?迷子?」
不意に後ろから声をかけられて、振り向くと男二人組がこちらをヤニの着いた歯を見せながら話しかけてきていた。
「迷子じゃないのでお気になさらず」
そう返すも男たちは帰る様子はなくこちらをまだ見ていた。だから治安の悪いところにはなるべく行きたくない…。そうは言ってもあの怪物が一般人の被害を出さないと限らない以上始末しないといけない…。
「遊ぼうぜ、俺らと」
「ほんとそういうのいいんで…」
そう言った瞬間、違う方から男の声がする。
「何をしているんですか」
だが、私は男よりも男の背後にいるものに目がいった。絡んできた男たちもそれが見えたみたいで逃げていく。この人も霊が見えているのかもしれない。
「大丈夫ですか?」
そう聞いてきた男が私に手を差し伸べる。すると当然なのか目の前にいた塊に触れる。だが、呪われた様子もない。もしかしてこの男、これだけ大きいものに憑かれていて気づいていない。そう思うと笑ってしまう。怪訝そうな顔をした男に手を差し出す。
「いいから」
そう言って無理やり繋がしてビルの壁に張り付いてる小さい霊を見せると予想通り驚いて腰を抜かす。この男信じられないぐらいに鈍感なのだ。逃げて行ってしまった男の背後にいる霊が最後名前だけ教えてくれた。
「さようなら。小説家の林さん」
そう霊が言ったのを私は気づいた。そして、その言葉と同時に大きな塊は姿を消した。
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