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プロローグ
フィオリーナ6歳 2
しおりを挟むてくてく歩く北の庭は、日常的に過疎した庭なのだ。いくら第一王女が住む離宮の最寄りにある庭といっても、わたしフィオリーナはまだ六歳になったばかりの幼女である。
レオリオ先生の企みに乗っかったわたしは、まだ国事どころかお茶会とかにも出たことがない。
ということで、話すどころか会ったこともない貴族がたくさんうろついている。
「ねえ、レミー」
「はいなんでしょう、姫様」
「今日はお庭に人がいっぱいいるね」
「……そうですね……」
レミーの苦笑に、わたしもつられて笑う。
外見はかわいらしい幼女でも、生まれつき難病を抱えながらも十六歳まで生きた記憶がある。新薬と最新医療の話を担当医から聞くたびに、一喜一憂して結局諦念して悟りを開いたわたしの心の強さは、たぶんオリハルコンよりも硬いはず。
今世でもしっかり心を鍛えたら、もっと強い金属になりそうじゃない?
勉強もだけど、これも頑張ってみようかな!
派閥に取り込もうにも、わたしはあまりにも幼すぎるし第二王女は体が弱すぎる。近日中に生まれるだろう国王夫妻の三番目の子供の性別に注目しつつ、第一王女の成長具合を自分の目で確認しておきたいという欲がみえみえだ。
親しくなりたくもない大人達を視界に入れないようにして、わたしはレミーと一緒に王立図書館に向かう。
王立図書館は二つの建物から出来てるの。
本館は身分関係なく入れていつも混んでるらしいけど、わたしは行ったことがない。わたしが行けるのは王族と王家に認められた人しか入れない別館のほう。別館なのに本館とあまり大きさが変わらないのは、禁書だけで別館の七割弱を占めているからだ。
二日おきで来てるから司書さんにもしっかり顔を覚えてもらったし、こんなの読んでみたいって言うと、次に来たときまでにちゃんと用意してくれるんだ。
こんにちはってわたしが言うと、司書さんもこんにちはって言ってくれる。
ここ一年ほどわたし専属になっちゃったおじいちゃん司書さんだけど、本当は本館と別館で働いている司書さん達のまとめ役でもある。
レオリオ先生が「お披露目が終わるまでは、司書長以外にわたしを会わせない」と決めて、強くお願いしている。
「司書長さん、これ読んできたよ」
読んでた本を籠から出して、司書長に返却する。ついでにレオリオ先生から預かってきた袖の下「クッキー詰め合わせ」も一緒にあげちゃう。司書長おじいちゃんの大好物なんだけど、家族に止められてて甘いものが食べられないらしい。
だから袖の下。
わたし以下、チームフィオリーナと司書長は共犯関係にあるし、これからもそれは続く。
「おお、姫様いかがでしたかな?」
「うん、神様ってとってもおもしろいね!」
にぱってわたしが笑顔になると、本大好きな司書長も破顔する。
司書長のおじいちゃんが、返却した本に書かれていなかった英雄神の話を饒舌に語り始めたのを聞き流しながら、わたしは考える。
この世界に、神はいない。
なのに、神話がある。
不思議だと思わない?
神獣はいるんだけど、神がいないの。
意味不明すぎて司書長さんに神話集をお願いしたんだけど、結局のところわからなかった。子供でも理解できるような神話集では、真相にたどり着けないのかもしれない。大人用のを読みたいけれど、わたしの語学力は十歳程度なのだ。
ぶっちゃけなくても、わたしは天才じゃない。
病院から一歩も出たことない人生だったけれど、中学三年生ぐらいまでの勉強はしてきたよ。でも、結局そこまで。
難関校受験とかそれ以前に、わたしの命では日本の義務教育が精一杯なんだもん。
国語も好きだったけど、数学と理科はもっと好きだった。だから、今世でもその二つは勉強したいと思ってた。
思ってたんだけど……言語とか歴史はともかく、今世の算数と理科系はなんていうのかな、その……察してほしい。
そのレベルを。
低いよ低い。
あまりにも簡単すぎちゃって、いま算数と理科だけは王立学園の六年生と同じものを勉強している。その算数の難易度は分数の割り算。
小数点って概念がないから、円周率もないんだよ!
十八歳のレベルで前世の小学六年生だなんて。
理科にいたってはもっと低い。
だから、算数と理科に関してだけは秀才って呼んでもらえる。
でも、天才とはよばれない。
なぜなら、学究の徒って呼ばれる人たちのレベルは当然もっと上だからだ。こういうのですよってレオリオ先生に見せてもらった学術書は、全然理解できなかった。っていうことは、前世の高校一年生以上の難易度なんだと思う。
不思議な世界だね。
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