心を手にのせて

水乃南歌

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4 私の仕事

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町にやってきた。

人もたくさんいるし、色とりどりで賑やかだ。
私達はお父さんがいつもお世話になっているお店でこの冬を過ごすんだって。
「君がシャシーかい?遠いのによく来たね」
お父さんが店主と呼んでいるこの人は、お父さんとは違って痩身の男性だ。

まあ、みんながみんな筋肉質じゃないよね。
なんとなく昔っぽい生活をしていると、男の人はがっちりしている人ばかりなのかなと思ってしまっていた。
「よろしくお願いします」
こっちではお辞儀する習慣がないらしいので、スカートをちょこっとつまみ軽く膝を曲げて挨拶をする。
ちゃんと喋れるように猛特訓したからね。完璧!

「すっげ、変わった服だな」
急に腕を取られ、バランスを崩して床に手をつきそうになったのを、転ぶ前にハイチが私を抱き上げ自分の後ろに私を降ろした。
挨拶がきちんとできたと思って油断してたよ。みんなパワフル!

「何するんだよ!」
「こら、テイラ!今日から長期で宿泊してくださるお客様だぞ!」
2人から同時に怒鳴られた男の子はテイラというらしい。店主さんの息子さんかな?

「い、いや、ごめんな?けどこのくらいで転ぶとか、弱すぎない?」
反省しているのかしていないのか、困ったように頭をかくテイラは、まあ悪い人ではなさそうだ。

この町についてから思ったのだけど、女の人もかなりパワフルなんだよ。もちろん男の人も元気だけどそれはお父さんもハイチも一緒だから驚きはしなかった。
けどお母さんはそういう感じではないから、女の人にびっくりしちゃったの。

「ところで、これが今年最後の荷物になるのか?」
店主さんが机の上に並べられた品物を見て、お父さんを振り返る。
「いや、俺だけ何回か森に戻るつもりだ」
「そうか助かる。アキの実がいるんだ。冬は傷が痛んでな」
店主さん、どこかけがをしているっぽい。
「そうだったな。しかし、だんだん効きにくくなってないか?」
「ちゃんとした薬は高いから、手が出ないし仕方ないさ」
なるほど、薬は貴重品なんだね。

「おいシャシー、こっちだぞ」
お父さんの話を聞いていたらテイラに手を引かれた。さっきのに比べたら優しい誘導だ。
ハイチがムスッとした顔ですぐに間に入っちゃったけど。
「お前の兄ちゃん怖いな」
テイラが鼻にシワを寄せて笑った。
テイラの方が大きそうだけど、ハイチを立てるところとか商売人だよね。

部屋に案内されると、男女別になっているコネクティングルーム仕様だった。中で繋がっていて、行き来できる。
「シャシーもセイスさんも身体が弱いって言ってたから2階にしたけど、眺めのいい部屋に移りたかったら言ってくれ」
あれ?私も身体が弱いことになってるの?

ハイチを見上げると頷かれた。
何も言うなってことかな?

暇な私は荷物を解くことにした。
お母さんは仕事主さんぽい人が訪ねて来て部屋で仕事の話をしているし、お父さんもハイチも宿泊所のお手伝いに行っている。
安く泊まるためなんだって。
丸っと冬の間お宿暮らしだと、お金かかりそうだもんねえ。

あ、お部屋にお水が欲しいな。
ここの水瓶に溜めていいんだよね。本当は沸かしたお水が欲しいけど、それはおいおい様子を見てお願いすることにして、ひとまず分はただのお水でいいや。
小さな壺形の水差しを持つと下の階に降りていく。

「店主さん、いますか?」
あれ?
「テイラ?奥さん?」
こっちにいないのかな?
表のお店の方にいるのかも。
建物の奥が宿泊所で表にあるのが商店になっているらしく、小売店がメインなんだって。

お店の表にまわると、人だかりができていた。
「あら、やっぱりいるじゃないの!私はおばあちゃんよ」
のしのしと迫力のあるおば様がやってくると、私をぎゅうぎゅうと抱きしめる。
『おばあちゃんよ』と言いながら愛情を感じない苦しさだ。
「やめろ!シャシーはあまり身体が強くないんだぞ!」
お父さんとハイチが、私とおばあちゃんを引き離す。

「まあなんなの?この子も身体が弱いの?だから私が言った娘と一緒になればよかったのに。全く役に立たない子が家に2人もいたらお荷物でしょう?」
おばあちゃんの言葉にはトゲがある。
なんというか、お母さんには会わせちゃいけない気がするね。

「あら何?そんな小さな壺を持って」
おばあちゃんが気がついたように私の手元を見た。
「お水を運ぼうかと思って」
「まあ、たったそれだけしか運べないの?役立たずねえ」
おばあちゃん、ちくちくするなあ。
お母さんのこと嫌いなんだろうね。あ、私のこともか。

「弱い弱いなんて甘やかすから何もできない子になってしまうのよ。この子は私が預かるわ。みっちりと教育してあげるから」
言うが早いか私を掴んで連れて行こうとして、お父さんともみ合いになった。
掴まれている腕が痛い。痛いけど、連れて行かれるの嫌だから我慢する。

「おい!何を騒いでいる!ここがどういう場所かわかっているのか!?」
突然店に入って来たのは、3人組の身なりのかなり良さそうな男の人達だ。
あれだけうるさかった店内が一瞬で静かになった。

「も、申し訳ありません。何もできない娘を私が預かり育てる予定が、我が儘を言って騒ぎまして。すぐに連れて帰りますから」
なんか私のせいになったよ!びっくり!
お父さんが肩を怒らせておばあちゃんの方を向いた。
と、3人組のうちの1人が素早く腰に手をやる。
これはよくないことなんだ、きっと。
えっと、歴史の本の中で偉そうな人に話しかける時ってどんな感じだったっけ。

「わ、私にも発言をお許しください」
お父さんをぐっと押さえ、私は一歩前に足を踏み出した。
動いていた男の人が、真ん中の銀髪の男性に視線をやり「許す」と頷く。

「私はすでに働いていて自分で生計を立てていますから、この見知らぬ女性に育ててもらわなくてもいいのです」
「何を馬鹿なことを言ってるんだい!」
「黙れ!お前に発言の許可は出ていない!」
おばあちゃんの発言を食い気味に、偉そうな男性がかぶせてきた。
あの人コワイよー。

「其方の仕事とは何か?どちらかと言うと得意としていることと言うべきか?」
比べて、銀髪の人の声は優しかった。
私の年齢的に、仕事をもらう域にいないもんね。
「はい。針仕事をいただいています」
私は少し考えて付け足した。
「得意なことは刺繍と字を書くことです」
と、少し場がざわついた。

「娘、字を書けるのか?」
「は、はい」
少し馬鹿にしたような態度でさっきのコワイ男性が見てくる。
字を書くのが得意っていうひと言は余計だったかもしれない。
そのせいでザワつくくらい、珍しいことなんだ。
「なんでもいい、書いてみよ」
机の上に紙とペンを置かれた。

「止めろヒタゴラ。たかだか平民の、あれほど小さな娘がこの場をしのぐために思いつきで言ったに過ぎん」
銀髪さんがため息をついた。
「ですがどんなに小さな戯言でも、イクスターナル様を欺こうとした者を処分しないわけにはいきません。娘、書け」
私はおずおずと席についた。

なんて書こうかな。

いたたまれない空気も、あの男性に対する怯えも、おばあちゃんに持っていた嫌悪感も、紙に向かいペンをインクに浸すとどこかに消えていった。

思えば道中、字を書いていない。久しぶりのペンの感覚なんだもの。
紙にペンを丁寧に走らせ、書き上げたものを銀髪の人に見せると3人が驚きの顔になった。

「これほどの腕があるならば、其方を縛ろう。神の道が示されるまでこの店に勤め、ここの書き物を全て改めよ。この店の説明書きを常々不快に感じていたのだ」
へ?
「娘、返答は!?」
「は、はい!」

銀髪の人が胸元から不思議な美しい輝きを持つペンを出すと、新しい紙に何やら書いた。
そのまま「署名せよ」と渡される。

え、でもこれ命を失うとか書かれてますよ?
「早くしないか、イクスターナル様を待たせるな!」
私は自分のしでかしたことの大きさに、半べそをかきながら署名した。
後悔って本当、後からしかできない。

「これでこの娘コンシャシーは、イクスターナル様との契約を結びこの店でイクスターナル様が心地よく過ごせるように尽力する。何人であってもこれを邪魔するものは、即刻罰せられると心せよ!」
「は!」
みんなが一斉に応えた。

言うだけ言うと3人組がいなくなった。
おばあちゃんもみんなも、呆けたように帰っていく。

え~と、つまり、私ってどうなったのかな?
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