心を手にのせて

水乃南歌

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11 休業日

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「刃の方にも飾り結びを施してみたら、伸びたりするかな」
「でも、糸切れちゃわない?」
あれから私とハイチは、どうして剣が大きくなったのか推測しているのだ。
糸で飾りを入れた分だけ伸びるのではないかって仮定はしたんだけど。

「多分大丈夫だと思う。これ、俺にしか使えないらしいし」
そう言うとハイチが紙を試し切りした。
うん、すっと切れる。切れ味抜群。
今度は私がハイチから剣を預かり同じように試してみる。
と、定規で切るようには切れるけれど、カッターで切るようにはいかなかった。
本当にハイチにしか切れない剣なんだなあ。

「もしこれを剣……は無理としてもナイフとして使おうと思ったら、もう少し大きくないと無理だしな」
「それはそうだよね。持つ方だけどんどん伸びても……だいぶ変だし」
うん。思いつくことをやるだけやってみよう。

今日は10日に1度の休業日だからお店の扉も閉まっている。
他の町の人もお仕事はしないで、外にいるのは駆けずり回っている子どもばっかりだ。
つまり、ハイチがずっといるからいろいろ試せるってことなんだよね。

「ちょっと勿体無いけど、柄のところの飾りを解いてもいい?」
「いいけどなんで?」
「解けたら、剣が縮むのか確認したくて」
そうしないと、刃のところにもずっと飾りをつけっぱなしになっちゃうじゃない?

糸を留めてあった場所を解くと、ほつしていくところから糸の色が抜けてまっさらの白い糸になった。
かと思ったら、すぐにパラパラと落ちて粉になってしまった。

「……もう俺、何が起きても驚かないから」
一瞬動きの止まったハイチだったけれど、そう言うと私から剣を取り糸を乱雑に解きはじめた。
あああ、あんなに精魂込めて飾ったのにパラパラと粉になっていくぅ。
ああ勿体ない。いろんな意味で勿体ない。
糸も高いし時間をかけて丁寧に飾ったのにな。

「ほら、縮まなかったな」
ちょっとだけ解くつもりだったのに、結局全部解くことになってしまったけどね。
そして30シンチほどに成長していた剣は小さくはならなかった。それは本当に良かった。
なんとなく全部が全部無駄じゃなかったって思えるからさ。

「本当、なんでだろう」
「もう一度飾ってみる?」
「うん、頼むよ」
今では持ち手側の方が長くなってしまった不恰好になった剣の、今度は刃の方を伸ばしていきたいとハイチが思うのは当たり前だもん。
ハイチのためだし頑張っちゃう。

「どうせ解くんだから、大雑把に飾ってみなよ」
なるほど。
「それもそうだね」
どうせ取っちゃうんだもんね。
練習用の少し太めの飾り紐を用意すると、同じように巻いてみた。
ハイチが触らないから、紐は切れることなく刃を飾っていく。

「太めの紐だとあっという間だったね」
細かく細く飾っていくと10倍くらい時間がかかると思うけれど、集中してたら30分ほどで刃の部分を覆えてしまった。
この間のようにハイチに手渡す。
と、やっぱりグンと伸びた。

「んー、ハイチに直接手渡すことが大事なのかな」
「けど思ったよりも伸びなかったな」
本当、何が違うんだろうか。予想していた半分も伸びなかったよ。
糸の値段とかも関係あるのかなあ。

「なんだ、今日は休業日なのに店にいたのか?」
あれやこれやと考えていたら、テイラが部屋に入ってきた。
「うん。兄さんの剣を改造しようかと思って」
「改造?」
テイラの顔がなんだか輝いた。

「なんか必要か?」
「いや、改造じゃないから。木とか鉄とかいらないから」
「なんだ」
ハイチが真っ向から否定すると、テイラのテンションが一気に落ちた。

「ごめんね、期待させちゃって」
こんなことで申し訳なくなるとかちょっと違うと思うのだけど、顔の前で手を合わせるとテイラが慌てて手を振った。
「早ガッテンしたのは俺だから」
あははは、テイラは退屈だったんだな、多分。

「実はな」
剣の改造について興味津々なテイラに、ハイチがこれまでのことを説明することになった。
ちょっとだけ手持ち無沙汰になった私は、その間お詫びのお茶を入れることにした。
お店のカウンターの影にあるコンロのスイッチを入れ、お湯が沸いてカタカタと手持ち鍋が揺れたらお茶の葉とお砂糖を入れる。
お砂糖は高いけど、全く手が出ないわけではない。
休業日なんだもの、ちょっとした贅沢をしたいじゃない?

「はい、どうぞ」
甘いミルクティーみたいな飲み物と、昨日作ったクッキーもどきを机に並べた。
「働かなくてもいいのに」
休業日は食事すら作らずに乾パンのような保存食もどきを食べるから、こんなことでも働いていることになるらしいよ。
私は休業日にこそ美味しいものをまったりと食べたいけど。

「んー、ほら。甘いものを口にすると頭の回転がよくなるって言うじゃない?何かいい案が出るかもしれないでしょ?」
私とハイチの案は出尽くした。
こうなったら違う人の案を絞り出してもらわなくては。

「う~ん。そうだなあ」
少し考えたテイラが刃に巻いてあった紐を解いた。けれどさっきみたいに紐に変化はない。
続いてテイラが飾り結びをし始めた。
「すごいな。俺、そういうのできないからなあ」
見ていたハイチがテイラの手元をじっと見る。

「貸衣裳の飾りを付けたり外したり、結構手伝わされるからな」
ここでバイトをしてたらお前もすぐにできるようになるぞ、とテイラが笑った。
私とは違う結び方だけれど、刃の部分を覆ってしまう。

「ほら、ハイチ」
テイラに呼ばれて手を出すとハイチが受け取る。
けれど、伸びなかった。
「ハイチが自分でやってみるか?」
紐を解いてもう少し太い紐を持ってくるとハイチに渡す。
横でテイラに教わりながら、ハイチが紐を結びあげた。ハイチが結んだのは柄の方だけども。

完成したものを、一度机に置いて再び手にする。
伸びない。
今度は私が結ぼうとハイチからもらおうとした瞬間、2シンチほど柄の方が伸びた。
「……本当に伸びたな」
テイラがかすれた声を出した。
けど、紐を解いても紐に変化はなかった。
う~ん。昨日までのやり方と、何が違うんだろう。
しかも伸びたのはハイチのやった方だけだったし。

「ひとまず同じような細い糸で飾ってみようかなあ」
「ちょっと待ってろ。ん、これでいいか?」
テイラが持ってきたのは、タコ糸のような染色されていない安い糸。
「うん」
私はちまちまと飾り始めた。
早く大きくなって、ハイチを助けてあげてねって。
ある程度の大きさがないと、武器として利用することもできないもん。

「しかしこのお茶うまいな~。ハイチ、せっかくシャシーが入れてくれたんだぞ。冷める前に飲めよ」
「ああ」
「腹減ったな~。他になんかあったかな」
ちまちまと編み込んでいると、カウンターの方でごそごそ音がするのが聞こえる。
「あ、なんかいっぱい焼き菓子があるぞ。食おうぜ」
「ああ。サンキュ」

「俺らばっかり食うのも悪いな。シャシー、口開けて」
テイラに言われて口を開けると、口の中にお菓子が入ってきた。

ん、おいしい。昨日、奥さんと一緒に作ったベリーの焼き菓子だ。
「シャシー、口開けて」
あ~ん。
ん?これは何にも入ってないやつかな。もぐもぐ。んー、あとちょっと!
「シャシー、口開けて」
あ~ん。
「なんかむっちゃかわいいんだけど、何この生き物」
「いや、お前のにやけ顔が気持ち悪いんだけど」
ごっくん。

「よし、できた!」
なんか早くなったかも。ん?
「どうかした?」
「いや気にするな。1人頭が天国になっているだけだから」
天国?
ま、いっか。
「じゃあ、兄さん手を出して」
はいっとね。
手渡した途端、10シンチほどグインッと伸びた。

「ありえなくないか?」
テイラの喉がゴクリと鳴った。
「シャシーが飾るってのが大事なのかな。俺がやった時よりもすごく伸びたし」
「女の人が飾ることが大事とか?」
うーん、と3人で首を捻るけど、正解はわからないままだ。
けど、糸の値段は関係無さそうだとわかった。

さすが神の印としか言いようがない。
そして糸を解いてみたら、パラパラと粉になった。
ん、でもたくさん伸びたから損した気分にはならない。糸も安いやつだったし!

「もう一回やってみるか?」
「うん」
なんか疲れてるけど、時間はあるしやってみるか。

けど、この後同じようにやってみても伸びたりしなかった。
剣の秘密もよくわからないままだし、私もなんだか異様に疲れている。
眠たい。

「シャシー、部屋で寝てくるか?」
うつらうつらとしていたのに、ハイチが気づいてくれたようだ。
もう限界まで眠たかった私は、ハイチが聞いてくるのに首だけで頷いて寝てしまった。

「あ、俺部屋まで運ぶよ」
「アホか、今のお前に任せられるか。その面、鏡で見てこい」
そう言うとハイチが私を抱き上げて階段をのぼってくのを、私は夢心地で感じていた。



その日1日で15シンチほど伸びた剣は、なんと腰に差してもいいくらいになった。

次の日、偵察という息抜きにきたイクスターナル様にそのことを話すと、ハイチの貴族街通いを始めるように通達された。
それにより私が午前中に心を込めて剣に装飾を施し、ハイチが午後から炭鉱ではなく貴族街に通う日々がはじまることになった。

そうして毎日少しずつ成長する剣が成長を止めたころ、暑い暑い夏がやってきたのだ。



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