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私、怨霊になりますので
6.言いたいこと? そんなのは山ほどあるので
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「あなた……自称神!?」
アンジェリカの夢の中で見た、自称神と瓜二つの容姿をした男だった。
「自称神? 何ですか?それ。 面白いことを言いますね。あ、水もっといります?」
自称神らしき男は、水差しを指差しながらアンジェリカに尋ねる。
だが、アンジェリカにはそれを気にする余裕はなかった。
「え? 何? あなた、私の夢の中の人じゃなかったの!?」
「あなたのようなお美しい人の夢に出させてもらえたのなら、光栄ですね」
胡散臭い微笑みは、自称神瓜二つだと、アンジェリカは思った。
「でも……僕はきっと、君が会っていた人とは残念ながら違いますよ」
「どう言うこと……?」
「それはですね……」
その時だった。
自称神の言葉を、ドアのノック音が遮ったのは。
「はい、どうぞ」
戸惑いを引きずっているアンジェリカの代わりに、自称神が返事をした。
すると入ってきたのは、アンジェリカが予想もしない人物だった。
「お父様!?」
(どういう風の吹き回し!?)
アリエルの寝室ならいざ知らず、公爵がアンジェリカの部屋に入ってきたのは、アンジェリカの記憶の中では1度たりともない。
「お父様、一体どうして……」
アンジェリカが尋ねようと口を開いたタイミングで、甲高い声が聞こえてきた。
「アンジェリカ!私の可愛い娘!大丈夫なの!?」
公爵の後ろに、いたのだろうか。
アンジェリカの母が、重たそうなドレスの裾を翻しながら泣きながら走ってきた。
そして、ベッドで上半身だけを起こしているアンジェリカに抱きついた。
「お、お母様!?」
「ああ……アンジェ……私の可愛いアンジェ……」
アンジェリカの母親のお気に入りのおしろいや香水の匂い、そして力強い抱擁がアンジェリカの全身を攻撃してくる。
(く……苦しい…………)
「お母様、お気持ちは分かりますが、お嬢様が苦しそうですよ」
「あ、あら……!ごめんなさいアンジェ」
自称神が声がけしてくれたおかげで、アンジェリカは母の束縛攻撃から無事に解放された。
「い……いえ……げほっ……」
「あ、アンジェ!! 具合がまだ悪いのね!」
(まだ……? どういうこと……?)
ふと気づくと、父の顔もどこか険しかった。
「あの……教皇様?」
「はい」
教皇と言われて、自称神が頷いた。
「きょ、教皇!?あなたが!?」
「アンジェリカ!口を慎みなさい!お前を呪いから救ってくださったお方だぞ!?」
「の、呪い!?」
(一体何の話!? 今は一体いつなの?私の身体に何が起きているの……!?)
「呪いって……どういうこと?」
「どうもこうも、アンジェ……1週間前のこと、何も覚えていないの?」
「1週間前?」
(そもそも、今日が何年何日なのか。現状が把握できなければ考えることすらできない)
「アンジェ、ああ……かわいそうに。呪いのせいで記憶まで消されてしまったなんて……」
「いや、だから……」
「教皇様、やはりうちの娘は呪いによって汚されてしまったのでしょうか?」
公爵も、いかにも「心配しています」と聞こえる声で尋ねている。
「ご心配なく。久々にお目覚めになられて混乱していらっしゃるのでしょう」
「久々に? え?」
アンジェリカは、教皇と呼ばれた自称神の顔を見た。
すると、自称神は、指先を唇の前に立ててアンジェリカを見た。
これが「何も話すな」という合図であることに、アンジェリカはすぐ気づいた。
「お嬢様にかけられた呪いは、まだ体内に残っています」
「まあ……!」
「何と言うことだ……!教皇様、そこの娘はすでに第1王子の婚約者に内定している大事な娘なのです。明日には、お披露目も兼ねた舞踏会が開かれることになっています」
その言葉で、ようやく今がいつかを、アンジェリカは知ることができた。
でも、1週間前に何が起きたかは、まだ分からない。
「呪いは、解けるのでしょうか?教皇様」
「公爵、できる限りのことはいたしましょう。ですので……お嬢様をこのまま聖堂に連れていってもかまいませんか?」
「え?」
「聖堂で、闇払いの儀式を行います」
「そうすれば、明日の舞踏会までには呪いが解けるのでしょうか?」
「それは、やってみなくてはわかりませんね」
そう言ってすぐ、教皇様と呼ばれた自称神が、いきなり私を抱き上げた。
「きゃっ!?」
「どちらにしろ、このままではお嬢様は呪いに体を蝕まれてしまうことでしょう」
「そ、それは困る」
「ですよね。では……このままアンジェリカ様を聖堂まで連れていきますので」
「よ、よろしくお願いします」
「よろしくお願いしますって……お父様!?」
「アンジェリカ、教皇様を信じれば、きっと大丈夫だから」
「きっと大丈夫って……何!?」
それからアンジェリカは、屋敷の前に止められていた馬車に乗せられた。
普段自分が乗っているものと、似たような乗り心地だったことに驚いた。
もっと聖人が使う馬車は、質素なものに乗るのだとアンジェリカは考えていたから。
「さっきからどうしたんだい?」
「何がですか」
「ずーっと僕の顔を見たまま、何かおっしゃりたい気持ちを抑えているように見えましたので」
「…………言っても良いの?」
(言いたいこと? そんなのは山ほどあるわ……)
まず、呪いがアンジェリカを蝕むとはどういうことなのか、ということ。
あの場にいた人間は、当たり前のようにアンジェリカが呪いにかかっていたという前提で話をしていた。
それなのに、アンジェリカには一切心当たりがない。
ただ、そんな事よりも私がずっと問いたかったのは、また別のこと……。
アンジェリカの夢の中で見た、自称神と瓜二つの容姿をした男だった。
「自称神? 何ですか?それ。 面白いことを言いますね。あ、水もっといります?」
自称神らしき男は、水差しを指差しながらアンジェリカに尋ねる。
だが、アンジェリカにはそれを気にする余裕はなかった。
「え? 何? あなた、私の夢の中の人じゃなかったの!?」
「あなたのようなお美しい人の夢に出させてもらえたのなら、光栄ですね」
胡散臭い微笑みは、自称神瓜二つだと、アンジェリカは思った。
「でも……僕はきっと、君が会っていた人とは残念ながら違いますよ」
「どう言うこと……?」
「それはですね……」
その時だった。
自称神の言葉を、ドアのノック音が遮ったのは。
「はい、どうぞ」
戸惑いを引きずっているアンジェリカの代わりに、自称神が返事をした。
すると入ってきたのは、アンジェリカが予想もしない人物だった。
「お父様!?」
(どういう風の吹き回し!?)
アリエルの寝室ならいざ知らず、公爵がアンジェリカの部屋に入ってきたのは、アンジェリカの記憶の中では1度たりともない。
「お父様、一体どうして……」
アンジェリカが尋ねようと口を開いたタイミングで、甲高い声が聞こえてきた。
「アンジェリカ!私の可愛い娘!大丈夫なの!?」
公爵の後ろに、いたのだろうか。
アンジェリカの母が、重たそうなドレスの裾を翻しながら泣きながら走ってきた。
そして、ベッドで上半身だけを起こしているアンジェリカに抱きついた。
「お、お母様!?」
「ああ……アンジェ……私の可愛いアンジェ……」
アンジェリカの母親のお気に入りのおしろいや香水の匂い、そして力強い抱擁がアンジェリカの全身を攻撃してくる。
(く……苦しい…………)
「お母様、お気持ちは分かりますが、お嬢様が苦しそうですよ」
「あ、あら……!ごめんなさいアンジェ」
自称神が声がけしてくれたおかげで、アンジェリカは母の束縛攻撃から無事に解放された。
「い……いえ……げほっ……」
「あ、アンジェ!! 具合がまだ悪いのね!」
(まだ……? どういうこと……?)
ふと気づくと、父の顔もどこか険しかった。
「あの……教皇様?」
「はい」
教皇と言われて、自称神が頷いた。
「きょ、教皇!?あなたが!?」
「アンジェリカ!口を慎みなさい!お前を呪いから救ってくださったお方だぞ!?」
「の、呪い!?」
(一体何の話!? 今は一体いつなの?私の身体に何が起きているの……!?)
「呪いって……どういうこと?」
「どうもこうも、アンジェ……1週間前のこと、何も覚えていないの?」
「1週間前?」
(そもそも、今日が何年何日なのか。現状が把握できなければ考えることすらできない)
「アンジェ、ああ……かわいそうに。呪いのせいで記憶まで消されてしまったなんて……」
「いや、だから……」
「教皇様、やはりうちの娘は呪いによって汚されてしまったのでしょうか?」
公爵も、いかにも「心配しています」と聞こえる声で尋ねている。
「ご心配なく。久々にお目覚めになられて混乱していらっしゃるのでしょう」
「久々に? え?」
アンジェリカは、教皇と呼ばれた自称神の顔を見た。
すると、自称神は、指先を唇の前に立ててアンジェリカを見た。
これが「何も話すな」という合図であることに、アンジェリカはすぐ気づいた。
「お嬢様にかけられた呪いは、まだ体内に残っています」
「まあ……!」
「何と言うことだ……!教皇様、そこの娘はすでに第1王子の婚約者に内定している大事な娘なのです。明日には、お披露目も兼ねた舞踏会が開かれることになっています」
その言葉で、ようやく今がいつかを、アンジェリカは知ることができた。
でも、1週間前に何が起きたかは、まだ分からない。
「呪いは、解けるのでしょうか?教皇様」
「公爵、できる限りのことはいたしましょう。ですので……お嬢様をこのまま聖堂に連れていってもかまいませんか?」
「え?」
「聖堂で、闇払いの儀式を行います」
「そうすれば、明日の舞踏会までには呪いが解けるのでしょうか?」
「それは、やってみなくてはわかりませんね」
そう言ってすぐ、教皇様と呼ばれた自称神が、いきなり私を抱き上げた。
「きゃっ!?」
「どちらにしろ、このままではお嬢様は呪いに体を蝕まれてしまうことでしょう」
「そ、それは困る」
「ですよね。では……このままアンジェリカ様を聖堂まで連れていきますので」
「よ、よろしくお願いします」
「よろしくお願いしますって……お父様!?」
「アンジェリカ、教皇様を信じれば、きっと大丈夫だから」
「きっと大丈夫って……何!?」
それからアンジェリカは、屋敷の前に止められていた馬車に乗せられた。
普段自分が乗っているものと、似たような乗り心地だったことに驚いた。
もっと聖人が使う馬車は、質素なものに乗るのだとアンジェリカは考えていたから。
「さっきからどうしたんだい?」
「何がですか」
「ずーっと僕の顔を見たまま、何かおっしゃりたい気持ちを抑えているように見えましたので」
「…………言っても良いの?」
(言いたいこと? そんなのは山ほどあるわ……)
まず、呪いがアンジェリカを蝕むとはどういうことなのか、ということ。
あの場にいた人間は、当たり前のようにアンジェリカが呪いにかかっていたという前提で話をしていた。
それなのに、アンジェリカには一切心当たりがない。
ただ、そんな事よりも私がずっと問いたかったのは、また別のこと……。
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