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私、怨霊になりますので
5.次、会ったら許さないので
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「な、何よこれ……」
さっきまで、アンジェリカの身体は翼が生えたように軽かった。
でも、アンジェリカの身体から黒いもやが出始めてから、急激に重くなった。
それこそ、立っていられなくなるほど。
「くっ……」
まるで、頭上から重たいものに押しつぶされているかのようだ。
「まずい……君の怨霊化が始まった……このままじゃ、本当に取り返しがつかなくなる!!」
そう言うなり、自称神はアンジェリカの砂時計をひっくり返そうとした。
でも、私は少しずつ黒く染まっていく腕を伸ばし、自称神の砂時計を掴んだ。
「このままでいれば、私は怨霊になれるのよね……」
「ダメだ!1度怨霊になれば、魂が消滅するしか救われる方法がなくなる! せっかく見つけた僕の神候補を、こんな形でみすみす失くす気はないよ!」
「……それよ」
「え?」
「私は、これまで他人の希望を叶えるための傀儡だった。ようやく私自身の意思でなりたいと思ったのが、あいつらを呪える怨霊だったのに……どうしてまた、他人の気持ちに左右されなくてはいけないの!?」
アンジェリカは、自称神から砂時計を奪おうと掴んだ。
でも、自称神は決してアンジェリカに砂時計を譲ろうとしない。
「君が考えている怨霊がどんなものかは、分からない。でも話を聞いている限り……君は怨霊という存在を勘違いしている」
「なんですって……!?」
「僕が知っている怨霊はね、君が考えているものよりずっと悲しくて虚しい存在だ。決して、自分から望んでなるべきものじゃ、ないんだよ」
そう言うなり、自称神はアンジェリカを突き飛ばした。
アンジェリカの手が、自称神が掴んでる砂時計から離れたと同時に、自称神が砂時計をひっくり返した。
砂時計が、落ち始めたと同時に、アンジェリカの身体が今度は白く光り始め、アンジェリカの身体を染めていた黒いもやはその光に吸い込まれていった。
「よし……間に合った……」
その言葉で、アンジェリカは自分の怨霊化が無理やり止められたことが分かった。
「か、勝手なことしないで!」
アンジェリカは、砂時計をもう1度ひっくり返せばまた怨霊になれるのではないかと思い、自称神に手を伸ばした。
けれど、私の手は自称神を通り抜けてしまった。
「ねえ、どうしたのよこれ……!」
しかし、私が尋ねても自称神はただこれしか言ってくれない。
「聖女になって。まずはそれからだよ」
「まずはそれからって……」
「ああ、そうそう。君の助けになってくれるような人は用意してあるから、そこだけは安心してね」
「何が安心して……よ!できるわけないじゃない!こら!待ちなさい!!自称神!!」
アンジェリカは文句を言いたかった。
今まで、誰にも言えなかった文句を、ここぞとばかりにぶつけたかった。
でも、あっという間に目の前が白い霧のようなものに覆われ、息をした瞬間くらりと目眩がした。
「次、会ったら許さない……」
それから、アンジェリカの視界はまたもや暗闇に飲み込まれた。
しばらくは、無音が続いた。
まるで、ぷかぷかと水の中に浮いているようだと、アンジェリカは思った。
それから少しずつ、暗闇の中に白い光が差し始めた。
アンジェリカは、自然と光に導かれて手を伸ばした。
そして…………。
「んん……?」
気がつくと、見慣れた天井がアンジェリカを見下ろしていた。
窓からは、すでに数時間前に昇った太陽の光が燦々と入っていて、ひどく眩しい。
(ここは私の部屋……? 今までのことは、全部夢だったの? この、つまらなく堅苦しい牢獄から抜け出したいと願い続けたから見てしまった、悪夢なのだろうか?)
内容を思い出すだけで、アンジェリカは気分が悪くなりそうだった。
それからアンジェリカは、深呼吸をして心を落ち着かせてから、ベッド脇のサイドテーブルに手を伸ばした。
「はい、水」
「ありがとう」
アンジェリカは、グラスを受け取り、いつものように朝の習慣として水を飲み干す。
(はあ……染みる……)
寝起きに水を1杯飲むことは、身体の自律神経を目覚めさせるだけでなく、心筋梗塞や脳卒中などの病気を防ぐのにいいらしいと、アンジェリカは本で読んだことがあった。
その話を知ってすぐ、食事の場で言ってみたら、ほとんどの人間は
「お前なんかの話、誰が聞くか」
と言いたげな目だけ向けてから、何も反応しなかったが、アンジェリカの母だけは次の日ベッドサイドに水差しを用意するようになっていた。
ちなみに公爵は別々の寝室を使っているのは言わずもがな。
「もう1杯いかがですか?」
「そうね、いただくわ」
そうしてアンジェリカが空のグラスを差し出し、水が注がれる音を聞きながら、ようやく今起きている出来事の違和感に気づいた。
アリエルの部屋には24時間、侍女の誰かが必ず1人はいる。アリエルの発作的なワガママにすぐ対応できるように。
でもアンジェリカは、夜くらいは誰とも関わらずに過ごしたい派だ。
アンジェリカが寝室に入ったら、朝呼び出しベルを鳴らすまでは誰も部屋に入らないようになっていた。
そんなアンジェリカは、水を飲んで頭を起こしてからベルを鳴らすようにしていた。
侍女であろうと誰であろうと、他人と話す時に寝ぼけた姿を見せてはいけないと考えていたから。
だから、アンジェリカに誰かが水を渡すなんて、あり得ない。
しかも、声は明らかに侍女が発することができない男声だった。
「だ、誰!?」
「ようやく気づきましたか」
「あ、あなた……どうしてここに……」
ベッドサイドの椅子に座って、水差しを持ちながら微笑んでいたのは……。
さっきまで、アンジェリカの身体は翼が生えたように軽かった。
でも、アンジェリカの身体から黒いもやが出始めてから、急激に重くなった。
それこそ、立っていられなくなるほど。
「くっ……」
まるで、頭上から重たいものに押しつぶされているかのようだ。
「まずい……君の怨霊化が始まった……このままじゃ、本当に取り返しがつかなくなる!!」
そう言うなり、自称神はアンジェリカの砂時計をひっくり返そうとした。
でも、私は少しずつ黒く染まっていく腕を伸ばし、自称神の砂時計を掴んだ。
「このままでいれば、私は怨霊になれるのよね……」
「ダメだ!1度怨霊になれば、魂が消滅するしか救われる方法がなくなる! せっかく見つけた僕の神候補を、こんな形でみすみす失くす気はないよ!」
「……それよ」
「え?」
「私は、これまで他人の希望を叶えるための傀儡だった。ようやく私自身の意思でなりたいと思ったのが、あいつらを呪える怨霊だったのに……どうしてまた、他人の気持ちに左右されなくてはいけないの!?」
アンジェリカは、自称神から砂時計を奪おうと掴んだ。
でも、自称神は決してアンジェリカに砂時計を譲ろうとしない。
「君が考えている怨霊がどんなものかは、分からない。でも話を聞いている限り……君は怨霊という存在を勘違いしている」
「なんですって……!?」
「僕が知っている怨霊はね、君が考えているものよりずっと悲しくて虚しい存在だ。決して、自分から望んでなるべきものじゃ、ないんだよ」
そう言うなり、自称神はアンジェリカを突き飛ばした。
アンジェリカの手が、自称神が掴んでる砂時計から離れたと同時に、自称神が砂時計をひっくり返した。
砂時計が、落ち始めたと同時に、アンジェリカの身体が今度は白く光り始め、アンジェリカの身体を染めていた黒いもやはその光に吸い込まれていった。
「よし……間に合った……」
その言葉で、アンジェリカは自分の怨霊化が無理やり止められたことが分かった。
「か、勝手なことしないで!」
アンジェリカは、砂時計をもう1度ひっくり返せばまた怨霊になれるのではないかと思い、自称神に手を伸ばした。
けれど、私の手は自称神を通り抜けてしまった。
「ねえ、どうしたのよこれ……!」
しかし、私が尋ねても自称神はただこれしか言ってくれない。
「聖女になって。まずはそれからだよ」
「まずはそれからって……」
「ああ、そうそう。君の助けになってくれるような人は用意してあるから、そこだけは安心してね」
「何が安心して……よ!できるわけないじゃない!こら!待ちなさい!!自称神!!」
アンジェリカは文句を言いたかった。
今まで、誰にも言えなかった文句を、ここぞとばかりにぶつけたかった。
でも、あっという間に目の前が白い霧のようなものに覆われ、息をした瞬間くらりと目眩がした。
「次、会ったら許さない……」
それから、アンジェリカの視界はまたもや暗闇に飲み込まれた。
しばらくは、無音が続いた。
まるで、ぷかぷかと水の中に浮いているようだと、アンジェリカは思った。
それから少しずつ、暗闇の中に白い光が差し始めた。
アンジェリカは、自然と光に導かれて手を伸ばした。
そして…………。
「んん……?」
気がつくと、見慣れた天井がアンジェリカを見下ろしていた。
窓からは、すでに数時間前に昇った太陽の光が燦々と入っていて、ひどく眩しい。
(ここは私の部屋……? 今までのことは、全部夢だったの? この、つまらなく堅苦しい牢獄から抜け出したいと願い続けたから見てしまった、悪夢なのだろうか?)
内容を思い出すだけで、アンジェリカは気分が悪くなりそうだった。
それからアンジェリカは、深呼吸をして心を落ち着かせてから、ベッド脇のサイドテーブルに手を伸ばした。
「はい、水」
「ありがとう」
アンジェリカは、グラスを受け取り、いつものように朝の習慣として水を飲み干す。
(はあ……染みる……)
寝起きに水を1杯飲むことは、身体の自律神経を目覚めさせるだけでなく、心筋梗塞や脳卒中などの病気を防ぐのにいいらしいと、アンジェリカは本で読んだことがあった。
その話を知ってすぐ、食事の場で言ってみたら、ほとんどの人間は
「お前なんかの話、誰が聞くか」
と言いたげな目だけ向けてから、何も反応しなかったが、アンジェリカの母だけは次の日ベッドサイドに水差しを用意するようになっていた。
ちなみに公爵は別々の寝室を使っているのは言わずもがな。
「もう1杯いかがですか?」
「そうね、いただくわ」
そうしてアンジェリカが空のグラスを差し出し、水が注がれる音を聞きながら、ようやく今起きている出来事の違和感に気づいた。
アリエルの部屋には24時間、侍女の誰かが必ず1人はいる。アリエルの発作的なワガママにすぐ対応できるように。
でもアンジェリカは、夜くらいは誰とも関わらずに過ごしたい派だ。
アンジェリカが寝室に入ったら、朝呼び出しベルを鳴らすまでは誰も部屋に入らないようになっていた。
そんなアンジェリカは、水を飲んで頭を起こしてからベルを鳴らすようにしていた。
侍女であろうと誰であろうと、他人と話す時に寝ぼけた姿を見せてはいけないと考えていたから。
だから、アンジェリカに誰かが水を渡すなんて、あり得ない。
しかも、声は明らかに侍女が発することができない男声だった。
「だ、誰!?」
「ようやく気づきましたか」
「あ、あなた……どうしてここに……」
ベッドサイドの椅子に座って、水差しを持ちながら微笑んでいたのは……。
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