幼馴染でマジカルなアレが固くなる

余るガム

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第二部 高校生編

キャラの使い倒し方は作者の腕の見せ所さん

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 散々『次からまともに連絡よこすよーに!』と釘を刺され、部長個人の連絡先まで貰ってしまった。
 ここまでされては蔑ろにするわけにもいかない。
 しかしそもそも俺自身に蔑ろにした自覚がないのだが。

 未読スルーはした。通知もしこたま溜め込んだ(132件。部長以外も含む)し、軽く流し読みしただけの既読スルーもした。

 が、果たしてその連絡はなじみとの時間をわざわざ割いてまで確認するような価値のあるものだったか?

 答えは否だ。
 業務連絡の様な見逃してはいけないものは通知音が鳴るのでわかるが、それが鳴ったことはなかった。

 優先順位をつけ、SNSによるコミュニケーションを下に付けたことを『蔑ろにした』というのであればなるほど確かにその通り。
 しかしなぜ今目の前にいる好きな女性との交流を断ってまでさして重要でもない相手と別に重要でもないことを画面越しに話さないといけないのだろうか。
 遠くの友より近くの他人とはよく言うが、近くの他人よりすぐ側の伴侶だろう。

 そのように理論武装した俺は暇な時には確認するようにしたが、あくまでもなじみ最優先というスタンスを崩さないようにしている。

 将来的にはともかく、学生の内はそれでなんとかなるだろう。



 世界を滅ぼす四大魔女。
 『お菓子の魔女』、『図書館の魔女』、『人魚姫の魔女』、『薔薇園の魔女』。
 主人公は女神ウェパルに力を与えられ、薔薇園の魔女を撃破することに成功。
 その時から世界中で人間同士の戦争が頻発。
 奔走している内に女神ウェパルは人間を滅ぼすために主人公を導いたこと。魔女は本来女神であり、それぞれ人を人たらしめる要素を世界に結び付けていたこと。薔薇園の魔女は本来愛情の女神であることが判明。
 さらにウェパルは主人公以外に三人、魔女への刺客として力を与えていた。
 真実を知った主人公は世界を救うため、三人の刺客へ戦いを挑む・・・。

 とまあ、これが多少詰めて作ったプロットである。
 タナトスだと直接的すぎると思って名前を変えた。まあウェパルってのが何かは知らんけど。
 ちなみに薔薇園以外が司っているのはそれぞれ『技術』、『歴史』、『空想』だ。

 火、水、風みたいな単純な属性分岐から外すのにはなかなか骨が折れた。
 テンプレに頼りたくなる気持ちも分かる。

 ともあれ、なじみが帰ってくるまではこの設定で小説を書いてみよう。
 サイトの執筆ページでポチポチとな。



 いや、これがなかなか面白い。
 しばらくは思い通りの文章が出てこなくて難儀するのだが、慣れてくるとスイスイ打ち出せる。

 ただ、書けば書くほどキャラが想定していない方向に暴走するのはなんとかならないだろうか。自然な流れを意識するとそうなるのだが。

 後スマホだとタイプミスが多すぎる。こうなるとパソコンとかで書きたいのだが、何せ高い。

「幸福であっても金は金、か」



「ただいまー」
「おかえり」

 なじみが帰ってきた。

「んふふ、玄関から入るって新鮮だね」
「そりゃそうだ。なにせずっとベランダからだからな」

 しかしこうなるとわざわざ取り外した仕切り板の意味がなくなってくるな。
 実はまだ大家さんには言っていないのだが、ちゃんと言って直してもらおうか。

 キンコーン。

「チャイム?」
「誰だ、こんな時間に・・・」

 ひとまず俺が出る。なじみには一見して見えない所まで引いてもらってから、ドアを開けた。

「どちらさんかな?」
「安心院? 俺だ」
「渡辺か」

 ドアチェーンを外して相対する。

「なんだ、こんな時間に。また蝶ヶ崎さん絡みか?」
「そうと言えばそうだし、違うといえば違うな」
「ハッキリ言ってくれ」

 渡辺は少し迷ってから、意を決して話し出した。

「実はお前のベランダの仕切り板が外れていたからな、いったい何があったのかと聞きに来たんだ」
「外れてるってーと、俺と蝶ヶ崎さんの所か」
「ああ、女性の一人暮らしに無防備な所があっては悪い男に付け込まれる。隣が男とくれば特にな」
「隣の男はお前もだがな」
「仕切りが外れてないから関係ないさ」

 ふむ、しかし来た理由は分かった。
 気になってる異性が別の男と仕切り無しで過ごしているなど耐えられまい。

「ふむ・・・では少し待ってくれるか。お前が来たのはある意味丁度良かったやもしれん」
「ちょうどいい、ね。わかった、待っていよう」
「助かる」

 ドアを閉めて部屋の中に戻る。
 ベッドでシーツを被っているなじみを見つけて声をかける。

「なじみ、仕切り板についての話し合いを渡辺に立ち会わせる。合わせろ」
「ああ、直すかどうかって話ね。わかった」

 シーツを蹴飛ばし居住まいを正して、なじみが座りなおす。
 それを見て再度ドアを開けた。

「すまんな、準備完了だ。入ってくれ」
「何をしていたのやら・・・」

 渡辺を部屋の中に招き入れ、なじみのいるリビングに向かう。

「え!? 蝶ヶ崎さん!?」
「あ、渡辺君。こんばんわ」

 案の定驚愕しているな。

「どういうことだ! 説明しろ安心院ゥ!」
「どうもこうもない。お前がさっき言ってた仕切り板の話で来てもらっただけだ。原因の究明、修繕費用の負担とかな。狭苦しいところに招き入れてすまないね。蝶ヶ崎さん」
「いやいや、ケー、安心院君と私の部屋の間取り一緒だし」

 そんな風に話してからそれぞれ座る。
 四面テーブルの一面ずつ使う形だ。

「さて、じゃあとりあえず決まったことを上げていこうか。方針は修繕、費用は二分割。大家さんへの報告は俺がする。明日にでも話を通そう。他に議題はないかな」
「ないと思うよ」
「じゃ、それで決定だ。そういうことだから渡辺、お前が心配するようなことは何もない」
「そうか・・・」

 コップに入った茶を呷って、一息つく。
 空気こそ弛緩しているが、誰も何もしゃべらない。
 ・・・こういう時、意味不明なことを絶叫したくなるのは俺だけだろうか。

 テーブルの下で俺となじみの足がくっつく。

「帰らんのか?」
「いや、俺は蝶ヶ崎さんと一緒に帰ろうかと・・・」
「確かに夜道だが、10mもない距離を送るのも手間だろう」
「私はこのお茶飲んだら帰るね。おいし」

 ただの麦茶なのだが。

「だそうだが、どうする渡辺。お前も一杯飲むか?」
「いいや。帰るよ」
「そうか」

 渡辺はそういうと割かしあっさり帰った。
 もう少し渋ってもいいと思うのだが・・・妙だな、定期的にインターホンを押していた執着心を感じない。

「それじゃ、お邪魔しました」

 ドアから出ていく渡辺を見守る。
 気を抜きかけたなじみを手で制止し、テーブルの下へもぐりこむ。
 俺の予想通りなら・・・。

「・・・あった」

 それはただの黒い点。
 ともすればゴミしか見えないだろうが、赤く点滅するライトがそれを否定する。

 盗聴器だ。

 奴め、かなりめちゃくちゃな手段を使ってきたな。
 入手ルートも気になるが、なんでこんなもの持ってきたのかが不明だ。

 元々俺の部屋に付けるためのものではないだろう。
 本来は別の所に付ける予定だったが、予定通りにいかなかったので急遽標的変更、という所か。

 動機は・・・短期的にはこの状況で俺がなじみに不埒を働かないかどうかの監視。長期的には弱みを握って手足にしたいって所か?

 全くリスクを恐れない大胆さ。倫理観の欠如した手口。そのうえ機転も利いている。相当知恵が回るぞ。
 こんなサイコがストーカーになれば、なじみの心情への悪影響は強いだろう。

 折るしかない。

 奴のプランと、心を。

 しかしどうする?
 この盗聴器、壊すのが一番安全だが、同時にこちらからのアクションも起こしづらくなる。
 少なくとも相手に壊されたという事実は知られるからだ。

 まず奴の大目標はなんだ?
 なじみをストーキングすることではあるまい。なじみと親密になり、可能なら付き合いたい、とそんなところだろうか。もっとデカい陰謀があったとしても分からんし、この想定で行くか。

 これを前提とするなら、邪魔者である俺の排除は何としても行いたい所だろう。
 教室の有象無象とは違い、自宅が隣というのは渡辺のほかには俺だけ。
 それでも委員長のアドバンテージがあるが、可能なら隣というアドバンテージも生かしたいはず。
 渡辺からすれば、俺さえ排除できれば後はほぼ消化試合と考えているのだろう。ライバルがいなくなるのだからゆっくり攻略できる。

 弱みを握って排除のついでに手足を増やせれば一石二鳥、といったところか。
 しかし弱みらしい弱みがないので、渡辺の策自体は空振りだ。
 なじみと付き合っていることが弱みではあるのだろうが、その時点で渡辺の大目標の不達成が決定するだけだし。

 とはいえそれがストーカー化を防ぐわけじゃない。
 むしろ加速するだろう。
 俺の弱みならまだしも、なじみの弱みを握って肉体関係を要求する、なんてことも考えられる。

 なら、奴に諦めさせるには・・・。

「・・・」
「どーしたの?」
「よし。とりあえずベッドにおいで」
「ッ!」

 徹底的に失恋させる。
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