幼馴染でマジカルなアレが固くなる

余るガム

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第二部 高校生編

誰だよ、あのページにBGM付けた奴

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「つまり正確な周波数を打ち出すことで対象は華麗に爆発四散するわけですが、ここで一つ問題点があります」
「それは?」

 部長があきれ顔で聞いてくるが、ここが一番重要な点なのだ。

「石やブロックなどの個体でしたらその固有破壊振動数を求めるのに大した労力を必要としませんが、複雑な実体・・・それこそ人体などではその計算量は筆舌に尽くしがたいものでしょう。さらに複雑な構造体を相手取ったときに重要なのは『当たり所』です。成功時の破壊力には目を見張るものがありますが、その一方で狙った地点を打ち抜けなかった場合振動数が変化し、期待通りの効果は見込めないでしょう。繊細な技なわけです」
「なるほど、それで?」
「更に実戦で導入するとなると難点も非常に多い。目まぐるしく変わる戦いの刹那にその膨大な演算をこなしきれるか、を始めとして・・・」
「なるほど、それで?」
「つまりは実用に耐える技ではないという事になります。では次に量子・・・」
「はいはい、ストップストップ」

 部長の放った二発の柏手とともに、俺はチョークを置いた。

「・・・なんですか」
「いやいや、なんですか、はないだろう」

 ないだろう、はこちらのセリフだ。

「だって、部長が教えてくれって言ったんじゃないですか」
「限度ってものがあると知れっ!」



 先日、つまりは月曜日の放課後。
 部長の華麗な足刀は俺の水月に襲い掛かるも狙いが逸れ、腹筋に直撃した。
 しかしここで俺が何食わぬ顔で耐えていたのが後からじわじわと悔しくなったようで、本日火曜日の放課後に部長が会うなり言ったのだ。

 『君は武道の心得はあるか?』と。

 ぶっちゃけそんなもの何一つ持ち合わせちゃいなかったが、あまりにも真剣な瞳で聞いてくるので理由を聞いてみると。

 『君の腹筋をぶち抜けるだけの技が欲しい』

 そう返答された。

 そこで俺は前世の知識から『おそらく論理的に考えて可能だが、現実的ではない絶技』を伝授することにした。
 言ってしまえばゲームの世界の住人にTASのテクニックを教える様なものだが、まあ頑張ればなんとかなるよの精神で色々言っていた。

 そういう経緯で黒板まで使って懇切丁寧に説明していたというのに、この部長はそれが不満だという。
 ここまでさせておいてちゃぶ台返しとは人の心がないのだろうか。

「心ないのは君だっ。僕の真剣な顔を見て何を言い出すかと思えば『量子もつれ現象を用いて遠隔の対象を破壊する』だの、『量子を殴って重ね合わさった生死を確定させる』だの、挙句『握力で拳に重力崩壊を引き起こす』だの! フィクションと現実の区別ぐらい付けろッ!」
「部長、その程度の分別はあります。あったうえで『部長ならいけるかなー』と思って言いました」
「根拠が! 何も! ないだろう!」
「おっ、さっそく実践ですか」
「やかましい!!」

 ちんちくりんの体でぶんぶんと拳を振るう部長は実に可愛らしい。
 その拳のキレと鋭さを除いて。

 しかして部長に俺以上の運動能力、および持久力があるわけでもなく。
 やがて疲労した部長は椅子に座りこんで自分の水筒からお茶を飲んだ。

「ふう・・・ふう・・・」
「部長も頑固ですね。大体なんで俺の腹筋をぶち抜くことにそこまで真剣なんですか。なにか恨み買うようなことしました?」
「ふう・・・いや、君はしていない。しかし君以外の人間はいくらでもするんだよ、僕の恨みを買うようなことをね」
「ほーん」

 何やら訳アリのようだが、あいにくそんな踏み込んだところまで聞けるほど歩み寄っているわけじゃない。
 保留だな。そもそもさして興味があるわけでもないし。

「なんだいほーんって」
「ふーんの上位互換です」
「本当に?」
「嘘です」
「・・・君は何でそうすぐ白状する程度のウソを言うのかな」
「部長の反応が面白いもので」
「・・・そうか。友人にも似たようなことを?」
「面白い人にはしますけど、部長以外だとあんまり」

 こういうのは許容量ってのがあるからな。
 それも個人個人で若干ずつ違うのだから、会って早々にこんなことは出来ない。
 そういう意味では、部長は特別でもあった。

 初対面の時部長が一瞬見えなかったのは紛れもない事実だが、それへの悪ノリを部長が許してくれ、さらにその対応が面白かった。

 そのため今は許容ラインを見定めているところだ。
 最も今回の件は割かしギリギリだったようなので、もう一線を越えることはそうそうあるまい。

「・・・そうか」

 それだけ呟いて、部長は机に突っ伏してしまった。
 そのまま何も言わないので、そのまま沈黙だけが場を支配する。
 二言三言話しかけてみるも、反応なし。

 ・・・。
 ああ、ピンとこない。こういうのじゃないだろ。こういうのじゃ。

 俺は部室の中を歩きだす。
 その先にあるのは、普段俺が使っているピアノ。

 椅子の高さは体験入部の時から俺の体に合わせてある。
 蓋を開けばいつでも演奏を始められる態勢だ。

 バタン。

 蓋の開く音に部長が反応する。ピクリと動いただけだが、それだけでも十分だ。反応がないよりずっといい。

 適当な所を二、三か所叩き、音を確認する。

 音を耳に染み込ませたら、後は指が勝手に動いてくれる。

 その時俺が弾き始めたのは前世にも今世にもない曲だ。
 当然といえば当然。なにせ俺は今感情と直感に任せて適当に音を出しているだけなのだから。文字通りの『幻想即興曲』だ。
 しかしそれでもある程度旋律らしい旋律になっていくのは、憧れ混じりとはいえ流石幼少期から続けてきただけのことはある、という事だろうか。

 しばらく続けていると、部長がもぞもぞしだした。

 大きく音を鳴らして伝える。
 『来い』と。

 それを契機に部長が勢いよく立ち上がり、猛然とギターラックに向かった。
 荒々しくつかみ取られたギターが抗議の音を鳴らすがそんなものは無視だ。

 俺のピアノが小休止する間、部長のギターがチューニングされていく。

 やがてピックを握りギターを構えた部長がこちらを見て。
 挑発するように笑った。

 俺はもう一度演奏を始める、部長はそれを引っ張るかの様に苛烈な演奏で続く。

 ギターとピアノ。
 一般論における相性は知らない。
 しかし、今この瞬間。この場所に限って言えば。

 最高だ。



 どれくらい演奏していただろうか。
 覚えていないが、俺はそんなに疲れた実感がないのであまり長い時間ではないだろう。
 いや、違うな。

「こひゅー・・・こひゅー・・・」

 死に体の部長がいる辺り、世間一般ではそこそこ以上の時間演奏していたようだ。
 鍵盤を軽く掃除した後蓋を閉じ、机に置きっぱなしになっていた部長の水筒を部長に持っていく。

「あ、あいあと・・・」

 多分ありがとうと言ったのだろう。
 生憎微に対するレベルの読心術を部長に持っていないので、さっさと人語を会得しなおしてほしいのだが。

 ぜえぜえ息を切らしては、時折お茶をちびちび飲む。

 見てられなかったので背中をさすっていると、多少楽になってきたようだ。

「ごめんなさい」
「何がです?」
「せっかく良い感じのセッションだったのに。私の所為で中断して」
「別に演奏しながら死ぬ願望とかないので構いませんよ。それに楽しかったですし」
「そうかい・・・」
「部長は楽しくなかったですか?」
「君ね、その聞き方はずるいだろう」
「すいません」

 しばらく沈黙が戻る。

「・・・楽しかった」
「それは良かった」

 小さくつぶやいたそれを、俺は聞き逃さなかった。

「安心院君」
「なんです?」
「君は、僕を子供だと思うかい?」

 多分だが、外見の話をしているわけではないのだろう。
 彼女の言動には幼いと思う部分がいくらかあったが、そんなもの人間ならだれでも持ってるレベルだ。
 しかしそれは子供であるかどうかの判断材料にはならない。

「知りません」
「君ね・・・」
「自分が何者かは自分が決めることです。自分が自分はこういう存在であると確信できるなら、それが答えでしょう。部長が自分は大人だと思うなら、それでいいのでは?」

 なんとなく求められている答えとは違うような気もするし、はぐらかした自覚はある。
 しかし俺は、彼女がなんであるか鑑定できるほど彼女を知っているわけではない。

「そうか・・・」

 それでも部長はなんとなく納得したような表情になったので、それはそれで複雑な気分だ。

「うん、わかった」

 部長は何かを決するような表情をその幼い相貌に浮かべ。

「僕は、子供だ」

 しかし豁然と笑った。

「だから、自由に、思うがままに行動する!」
「はあ、まあ部長がそれでいいなら、良いですけど」

 物事には往々にして自重すべき場面があったりするので、自由なのもどうかと思うが。

「じゃあ安心院君、とりあえずジュース買ってきてくれるかい? フェンタで良いよ」
「部長、それは汚い大人のやり方です」
「あれぇ!?」
「それとコーヒーじゃないんですか?」
「なんであんな苦いの飲まないといけないのさ」
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