幼馴染でマジカルなアレが固くなる

余るガム

文字の大きさ
101 / 117
第二部 高校生編

ナンパ撃退RTA

しおりを挟む
 なじみが珍しく鋼の意思を発揮して2着目のパーカーを買った。
 店員さんに『まじかこいつら』みたいな目で見られたが、まあ今のご時世、相当なバカップルでもないとペアルックなんてしないだろうからな。おまけにこんな美少女が、とくれば一入であろう。

 しかしまあ、これで俺の問題は解決したが、なじみの問題は未解決なままなわけで。

「どうしよ・・・」
「余所で探すか?」
「あるとも限らないから、それは無し。といってもないものはないし」

 店員に聞いてみた所『そのサイズは無い』と嫉妬交じりに言われてしまった。
 何がとは言わないが、目測でBの女性店員だった。何がとは言わないが、言わないが。

「通販サイトで探すか? いや3日後だしなぁ。ちょっと時間が足りないか?」
「そもそも通販サイトなんてどこも登録してないじゃん。カードとかもないし」
「じゃあ・・・もういっそ作るか?」

 冗談半分の提案だったが、どうやらなじみの琴線に触れるものがあったようで。

「作る・・・そっか、その手があった」
「おいおい、そんなノウハウ無いだろ。ネットで調べてもろくに出来るとは思えん。泳いでる最中に解れて脱げるなんてことになったら本末転倒だろうが」
「いやいやケーくん、私はちょっと思い当たる節があるよ・・・」



「ん、まあ・・・経緯は分かったわ」

 なぜか不敵な笑みを浮かべたなじみは帰路についた。

 はて、道中に服飾店などあっただろうか。
 などと考えながらなじみに付いていき、しかし真っ直ぐ自宅まで帰り着いてしまった。

 かと思えば、なじみはどうやら既に手配を終えており、部屋の前には微が立っていたという訳である。

「で? 私にどうしろと?」
「水着作りたいから教えて!」

 あー、そういえば微って自分の下着作ってるんだっけ。
 そりゃこの特大サイズじゃ日本にまともなものはあるまいよ。海外からいちいち取り寄せるぐらいなら、と高度な縫製技術を会得したという訳か。

 しかし水着と下着、確かに形状は似ているが、同じ要領で作れるもんなのか?

「言いづらいんだけど、流石に私も水着を作ったことは無いわ。泳ぐことなんてあんまりなかったし、その時は普通にお店で買ってたもの」
「そっかぁ・・・」

 買ってた、というよりは買えてた、と言った方が正確ではなかろうか。

「でも私が昔使ってたやつなら、まだ実家にあると思うわ。それならどう?」
「えっと・・・良いの?」
「別にもう使わないだろうし、まだ私の胸も尋常の範疇の頃だったからサイズも合うかも。結構趣味も似てるみたいだしね。カップ数は?」
「前測った時はGだった」
「じゃあ・・・うん、大丈夫だと思うわ」

 なんか濁してない? 本当に大丈夫か?

「確かワンピースタイプの黒だったと思うんだけど、どう?」
「あ、割とばっちり」
「じゃあ決まりね。ところで・・・私、最近安心院君とあんまり一緒に居ないのよ。委員会の時も子供誑かしてるし」
「だからあれはそういうのじゃないと何度言ったら」
「Shut UP」
「ウィッス」

 やはり二股した手前、女性が絡むと一切強気に出れないな。
 いや、そもそも強気に出ちゃいけないんだけれども。

 というか恋人と浮気相手が水着の貸し借りで和気藹々してるの意味わからんな。
 双方理解した上でっていう点が一番訳わからん。

「だから水着取りに行くとき、安心院君も一緒に居て欲しいのだけど、どうかしら?」
「・・・まあ、いいよ。配慮はしてくれてるみたいだし」

 渋々、といった感じを隠そうともしない。
 ありがとう、とにこやかに返す微はそれを重々承知の上なのだろうが、君ら結局仲いいのか悪いのかよくわからん。

「あの、ちなみに俺の意思は」
「Shut UP」
「ウィッス」



 待ち合わせ場所を指定されたので、そこにさっさと向かう事にする。
 遅れるのは紳士的じゃない。

「だからできれば早めに家を出たいんですがねなじみさん」
「待って待って。確かこの辺に・・・」

 なじみがどうしてもというので、珍しく入ったなじみの部屋でなじみが荷物を物色するのを眺めている。

 思えばこの部屋、全然使っていない。ほぼ同棲状態なので物置同然だ。漂う空気もどこか余所余所しく感じる。
 積まれたままの段ボールも多くあるので、実際圧がある。

「あった! これ着てって!」

 そうしてなじみが取り出したのは・・・まあ、なんだ。
 俗に『クソださTシャツ』と呼ばれる部類の衣装だった。

 真っ白なTシャツだというのに、前面に大きくプリントされた『有名税』の3文字がすべてを台無しにしている。
 どこから手に入れたんだ、こんなもん。

 なじみの意向は分かる。
 要するに、酷い着こなしで実家デートの雰囲気をぶち壊そうという魂胆なのだろう。
 微のものと同等か、それ以上に目を引く胸元である。どういい雰囲気になろうとチラつく『有名税』でろくに集中できまい。

「だがなじみ。流石にこれはどうかと思うぞ」
「あ、気に入らない? じゃあこっちの『ひねもすチャージ中』にする?」
「いやそういう問題じゃなくて。もっとこう、普通の服で行くから。お前の思惑はまあ分かるが、着る俺の方がしんどいから」

 というか恥ずかしいわ。

「むー・・・じゃあ最大限地味な服でね! 買い出しに使う様なやつ!」
「はいはい、デート用のは持ってかないよ」

 俺にまで被害が出る様なタイプの妨害はやめて欲しい。
 なじみにだって独占欲があるのだから、妨害自体は咎めないが。

「あ、ついでにペンでなんか顔に書いてく?」
「化粧もせんのになんのついでだ。ちなみになんて書きたい?」
「・・・『スイッチオン』?」
「将来化粧することがあってもお前には頼らん」

 とはいえワードチョイスの絶妙なダサさにはある種のセンスを感じないでもない。
 あって嬉しいセンスではないが。



 結局少し遅れることになってしまった。
 超能力を使えば間に合ったが、まあ無暗矢鱈に使うものでもない。

 あ、いた。この距離からでもシルエットだけで分かる。

 だが少し予想外、いやある意味予想の範疇ではあるのだが、ナンパと思しき男に声を掛けられている。
 物凄くにこやかに話しているが、微は相手が嫌いであるほどにフレンドリーになる変人なので、彼に芽は一切ない。

 そしてなまじフレンドリーな所為で、より強く絡まれている様だ。

 人間スケールで駆け寄るが、それより先にナンパ男が微に手を伸ばす。
 それを見た微はナンパ男の右太腿の外側に蹴りを入れ・・・男が『吐血』した。

 吐血というのは内臓を痛めたから起きる現象である。
 それを内蔵とは程遠い部位への打撃で発生させるなど、本来はあり得ない。

 だが、彼女にはできるのだ。

 人体が駆動するのに必要不可欠な、関節とはまた違ったベクトルの歪み。流動するツボと表現できるそれを、被服の上からでも感覚的に知覚し、正確に打ち抜くことで異常な費用対効果の攻撃を生み出す。
 体が動くという前提がある限り逃れられない、超能力染みた、しかし決してそうではない単純な技能である。

 そんな説明を何度か受けたが、結局理解はできなかった。
 彼女自身理解されようとも、されたいとも思っていない様だったし。

 酷い厨設定だと思わんでもないが、この技能に覚醒した経緯を知る者としては、見ていて気持ちのいいものではない。
 微の方は、もうすでに割り切っているようだが。『これのおかげで私は虐めから脱却した。つまるところ、全員苦も無く殺せるという前提が、私の心に余裕を作った。いざとなれば殺せるのだから、嫌われようと構わない。そういう余裕が私の仮面の材料になった』と彼女はあっけらかんと笑っていた。

「あ、安心院君。行きましょうか」
「ん、ああ・・・いいのか? それ」

 崩れ落ちるナンパ男を指していう。

「手酷く振られるのも経験でしょ。これに懲りたら女性にはみだりに触らない事ね」
「そういうもんかね」
「あ、別に安心院君なら良いわよ?」
「遠慮しとく。こんな公衆の面前ではな」
「ふふ、そういう所よ」

 連れ立って歩き出す。
 せめて俺に撃退されるなら、彼もいくらか面目が立ったろうに。微がこんなスタイルしておきながら堂々としている時点で妙な部分を嗅ぎ取ってはくれなかっただろうか。

 まあ、彼よりは自分のための仮定だとは、自覚しているのだが。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

俺を振ったはずの腐れ縁幼馴染が、俺に告白してきました。

true177
恋愛
一年前、伊藤 健介(いとう けんすけ)は幼馴染の多田 悠奈(ただ ゆうな)に振られた。それも、心無い手紙を下駄箱に入れられて。 それ以来悠奈を避けるようになっていた健介だが、二年生に進級した春になって悠奈がいきなり告白を仕掛けてきた。 これはハニートラップか、一年前の出来事を忘れてしまっているのか……。ともかく、健介は断った。 日常が一変したのは、それからである。やたらと悠奈が絡んでくるようになったのだ。 彼女の狙いは、いったい何なのだろうか……。 ※小説家になろう、ハーメルンにも同一作品を投稿しています。 ※内部進行完結済みです。毎日連載です。

【R18】幼馴染がイケメン過ぎる

ケセラセラ
恋愛
双子の兄弟、陽介と宗介は一卵性の双子でイケメンのお隣さん一つ上。真斗もお隣さんの同級生でイケメン。 幼稚園の頃からずっと仲良しで4人で遊んでいたけど、大学生にもなり他にもお友達や彼氏が欲しいと思うようになった主人公の吉本 華。 幼馴染の関係は壊したくないのに、3人はそうは思ってないようで。 関係が変わる時、歯車が大きく動き出す。

罰ゲームから始まった、五人のヒロインと僕の隣の物語

ノン・タロー
恋愛
高校2年の夏……友達同士で行った小テストの点を競う勝負に負けた僕、御堂 彼方(みどう かなた)は、罰ゲームとしてクラスで人気のある女子・風原 亜希(かざはら あき)に告白する。 だが亜希は、彼方が特に好みでもなく、それをあっさりと振る。 それで終わるはずだった――なのに。 ひょんな事情で、彼方は亜希と共に"同居”することに。 さらに新しく出来た、甘えん坊な義妹・由奈(ゆな)。 そして教室では静かに恋を仕掛けてくる寡黙なクラス委員長の柊 澪(ひいらぎ みお)、特に接点の無かった早乙女 瀬玲奈(さおとめ せれな)、おまけに生徒会長の如月(きさらぎ)先輩まで現れて、彼方の周囲は急速に騒がしくなっていく。 由奈は「お兄ちゃん!」と懐き、澪は「一緒に帰らない……?」と静かに距離を詰める。 一方の瀬玲奈は友達感覚で、如月先輩は不器用ながらも接してくる。 そんな中、亜希は「別に好きじゃないし」と言いながら、彼方が誰かと仲良くするたびに心がざわついていく。 罰ゲームから始まった関係は、日常の中で少しずつ形を変えていく。 ツンデレな同居人、甘えたがりな義妹、寡黙な同クラ女子、恋愛に不器用な生徒会長、ギャル気質な同クラ女子……。 そして、無自覚に優しい彼方が、彼女たちの心を少しずつほどいていく。 これは、恋と居場所と感情の距離をめぐる、ちょっと不器用で、でも確かな青春の物語。

人狼な幼妻は夫が変態で困り果てている

井中かわず
恋愛
古い魔法契約によって強制的に結ばれたマリアとシュヤンの14歳年の離れた夫婦。それでも、シュヤンはマリアを愛していた。 それはもう深く愛していた。 変質的、偏執的、なんとも形容しがたいほどの狂気の愛情を注ぐシュヤン。異常さを感じながらも、なんだかんだでシュヤンが好きなマリア。 これもひとつの夫婦愛の形…なのかもしれない。 全3章、1日1章更新、完結済 ※特に物語と言う物語はありません ※オチもありません ※ただひたすら時系列に沿って変態したりイチャイチャしたりする話が続きます。 ※主人公の1人(夫)が気持ち悪いです。

田舎に帰ったら従妹が驚くほど積極的になってた話

神谷 愛
恋愛
 久しぶりに帰った田舎には暫くあっていない従妹がいるはずだった。数年ぶりに帰るとそこにいたのは驚くほど可愛く、そして積極的に成長した従妹の姿だった。昔の従妹では考えられないほどの色気で迫ってくる従妹との数日の話。 二話毎六話完結。だいたい10時か22時更新、たぶん。

美人四天王の妹とシテいるけど、僕は学校を卒業するまでモブに徹する、はずだった

ぐうのすけ
恋愛
【カクヨムでラブコメ週間2位】ありがとうございます! 僕【山田集】は高校3年生のモブとして何事もなく高校を卒業するはずだった。でも、義理の妹である【山田芽以】とシテいる現場をお母さんに目撃され、家族会議が開かれた。家族会議の結果隠蔽し、何事も無く高校を卒業する事が決まる。ある時学校の美人四天王の一角である【夏空日葵】に僕と芽以がベッドでシテいる所を目撃されたところからドタバタが始まる。僕の完璧なモブメッキは剥がれ、ヒマリに観察され、他の美人四天王にもメッキを剥され、何かを嗅ぎつけられていく。僕は、平穏無事に学校を卒業できるのだろうか? 『この物語は、法律・法令に反する行為を容認・推奨するものではありません』

手が届かないはずの高嶺の花が幼馴染の俺にだけベタベタしてきて、あと少しで我慢も限界かもしれない

みずがめ
恋愛
 宮坂葵は可愛くて気立てが良くて社長令嬢で……あと俺の幼馴染だ。  葵は学内でも屈指の人気を誇る女子。けれど彼女に告白をする男子は数える程度しかいなかった。  なぜか? 彼女が高嶺の花すぎたからである。  その美貌と肩書に誰もが気後れしてしまう。葵に告白する数少ない勇者も、ことごとく散っていった。  そんな誰もが憧れる美少女は、今日も俺と二人きりで無防備な姿をさらしていた。  幼馴染だからって、とっくに体つきは大人へと成長しているのだ。彼女がいつまでも子供気分で困っているのは俺ばかりだった。いつかはわからせなければならないだろう。  ……本当にわからせられるのは俺の方だということを、この時点ではまだわかっちゃいなかったのだ。

処理中です...