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第二部 高校生編
ナンパ撃退RTA
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なじみが珍しく鋼の意思を発揮して2着目のパーカーを買った。
店員さんに『まじかこいつら』みたいな目で見られたが、まあ今のご時世、相当なバカップルでもないとペアルックなんてしないだろうからな。おまけにこんな美少女が、とくれば一入であろう。
しかしまあ、これで俺の問題は解決したが、なじみの問題は未解決なままなわけで。
「どうしよ・・・」
「余所で探すか?」
「あるとも限らないから、それは無し。といってもないものはないし」
店員に聞いてみた所『そのサイズは無い』と嫉妬交じりに言われてしまった。
何がとは言わないが、目測でBの女性店員だった。何がとは言わないが、言わないが。
「通販サイトで探すか? いや3日後だしなぁ。ちょっと時間が足りないか?」
「そもそも通販サイトなんてどこも登録してないじゃん。カードとかもないし」
「じゃあ・・・もういっそ作るか?」
冗談半分の提案だったが、どうやらなじみの琴線に触れるものがあったようで。
「作る・・・そっか、その手があった」
「おいおい、そんなノウハウ無いだろ。ネットで調べてもろくに出来るとは思えん。泳いでる最中に解れて脱げるなんてことになったら本末転倒だろうが」
「いやいやケーくん、私はちょっと思い当たる節があるよ・・・」
*
「ん、まあ・・・経緯は分かったわ」
なぜか不敵な笑みを浮かべたなじみは帰路についた。
はて、道中に服飾店などあっただろうか。
などと考えながらなじみに付いていき、しかし真っ直ぐ自宅まで帰り着いてしまった。
かと思えば、なじみはどうやら既に手配を終えており、部屋の前には微が立っていたという訳である。
「で? 私にどうしろと?」
「水着作りたいから教えて!」
あー、そういえば微って自分の下着作ってるんだっけ。
そりゃこの特大サイズじゃ日本にまともなものはあるまいよ。海外からいちいち取り寄せるぐらいなら、と高度な縫製技術を会得したという訳か。
しかし水着と下着、確かに形状は似ているが、同じ要領で作れるもんなのか?
「言いづらいんだけど、流石に私も水着を作ったことは無いわ。泳ぐことなんてあんまりなかったし、その時は普通にお店で買ってたもの」
「そっかぁ・・・」
買ってた、というよりは買えてた、と言った方が正確ではなかろうか。
「でも私が昔使ってたやつなら、まだ実家にあると思うわ。それならどう?」
「えっと・・・良いの?」
「別にもう使わないだろうし、まだ私の胸も尋常の範疇の頃だったからサイズも合うかも。結構趣味も似てるみたいだしね。カップ数は?」
「前測った時はGだった」
「じゃあ・・・うん、大丈夫だと思うわ」
なんか濁してない? 本当に大丈夫か?
「確かワンピースタイプの黒だったと思うんだけど、どう?」
「あ、割とばっちり」
「じゃあ決まりね。ところで・・・私、最近安心院君とあんまり一緒に居ないのよ。委員会の時も子供誑かしてるし」
「だからあれはそういうのじゃないと何度言ったら」
「Shut UP」
「ウィッス」
やはり二股した手前、女性が絡むと一切強気に出れないな。
いや、そもそも強気に出ちゃいけないんだけれども。
というか恋人と浮気相手が水着の貸し借りで和気藹々してるの意味わからんな。
双方理解した上でっていう点が一番訳わからん。
「だから水着取りに行くとき、安心院君も一緒に居て欲しいのだけど、どうかしら?」
「・・・まあ、いいよ。配慮はしてくれてるみたいだし」
渋々、といった感じを隠そうともしない。
ありがとう、とにこやかに返す微はそれを重々承知の上なのだろうが、君ら結局仲いいのか悪いのかよくわからん。
「あの、ちなみに俺の意思は」
「Shut UP」
「ウィッス」
*
待ち合わせ場所を指定されたので、そこにさっさと向かう事にする。
遅れるのは紳士的じゃない。
「だからできれば早めに家を出たいんですがねなじみさん」
「待って待って。確かこの辺に・・・」
なじみがどうしてもというので、珍しく入ったなじみの部屋でなじみが荷物を物色するのを眺めている。
思えばこの部屋、全然使っていない。ほぼ同棲状態なので物置同然だ。漂う空気もどこか余所余所しく感じる。
積まれたままの段ボールも多くあるので、実際圧がある。
「あった! これ着てって!」
そうしてなじみが取り出したのは・・・まあ、なんだ。
俗に『クソださTシャツ』と呼ばれる部類の衣装だった。
真っ白なTシャツだというのに、前面に大きくプリントされた『有名税』の3文字がすべてを台無しにしている。
どこから手に入れたんだ、こんなもん。
なじみの意向は分かる。
要するに、酷い着こなしで実家デートの雰囲気をぶち壊そうという魂胆なのだろう。
微のものと同等か、それ以上に目を引く胸元である。どういい雰囲気になろうとチラつく『有名税』でろくに集中できまい。
「だがなじみ。流石にこれはどうかと思うぞ」
「あ、気に入らない? じゃあこっちの『ひねもすチャージ中』にする?」
「いやそういう問題じゃなくて。もっとこう、普通の服で行くから。お前の思惑はまあ分かるが、着る俺の方がしんどいから」
というか恥ずかしいわ。
「むー・・・じゃあ最大限地味な服でね! 買い出しに使う様なやつ!」
「はいはい、デート用のは持ってかないよ」
俺にまで被害が出る様なタイプの妨害はやめて欲しい。
なじみにだって独占欲があるのだから、妨害自体は咎めないが。
「あ、ついでにペンでなんか顔に書いてく?」
「化粧もせんのになんのついでだ。ちなみになんて書きたい?」
「・・・『スイッチオン』?」
「将来化粧することがあってもお前には頼らん」
とはいえワードチョイスの絶妙なダサさにはある種のセンスを感じないでもない。
あって嬉しいセンスではないが。
*
結局少し遅れることになってしまった。
超能力を使えば間に合ったが、まあ無暗矢鱈に使うものでもない。
あ、いた。この距離からでもシルエットだけで分かる。
だが少し予想外、いやある意味予想の範疇ではあるのだが、ナンパと思しき男に声を掛けられている。
物凄くにこやかに話しているが、微は相手が嫌いであるほどにフレンドリーになる変人なので、彼に芽は一切ない。
そしてなまじフレンドリーな所為で、より強く絡まれている様だ。
人間スケールで駆け寄るが、それより先にナンパ男が微に手を伸ばす。
それを見た微はナンパ男の右太腿の外側に蹴りを入れ・・・男が『吐血』した。
吐血というのは内臓を痛めたから起きる現象である。
それを内蔵とは程遠い部位への打撃で発生させるなど、本来はあり得ない。
だが、彼女にはできるのだ。
人体が駆動するのに必要不可欠な、関節とはまた違ったベクトルの歪み。流動するツボと表現できるそれを、被服の上からでも感覚的に知覚し、正確に打ち抜くことで異常な費用対効果の攻撃を生み出す。
体が動くという前提がある限り逃れられない、超能力染みた、しかし決してそうではない単純な技能である。
そんな説明を何度か受けたが、結局理解はできなかった。
彼女自身理解されようとも、されたいとも思っていない様だったし。
酷い厨設定だと思わんでもないが、この技能に覚醒した経緯を知る者としては、見ていて気持ちのいいものではない。
微の方は、もうすでに割り切っているようだが。『これのおかげで私は虐めから脱却した。つまるところ、全員苦も無く殺せるという前提が、私の心に余裕を作った。いざとなれば殺せるのだから、嫌われようと構わない。そういう余裕が私の仮面の材料になった』と彼女はあっけらかんと笑っていた。
「あ、安心院君。行きましょうか」
「ん、ああ・・・いいのか? それ」
崩れ落ちるナンパ男を指していう。
「手酷く振られるのも経験でしょ。これに懲りたら女性にはみだりに触らない事ね」
「そういうもんかね」
「あ、別に安心院君なら良いわよ?」
「遠慮しとく。こんな公衆の面前ではな」
「ふふ、そういう所よ」
連れ立って歩き出す。
せめて俺に撃退されるなら、彼もいくらか面目が立ったろうに。微がこんなスタイルしておきながら堂々としている時点で妙な部分を嗅ぎ取ってはくれなかっただろうか。
まあ、彼よりは自分のための仮定だとは、自覚しているのだが。
店員さんに『まじかこいつら』みたいな目で見られたが、まあ今のご時世、相当なバカップルでもないとペアルックなんてしないだろうからな。おまけにこんな美少女が、とくれば一入であろう。
しかしまあ、これで俺の問題は解決したが、なじみの問題は未解決なままなわけで。
「どうしよ・・・」
「余所で探すか?」
「あるとも限らないから、それは無し。といってもないものはないし」
店員に聞いてみた所『そのサイズは無い』と嫉妬交じりに言われてしまった。
何がとは言わないが、目測でBの女性店員だった。何がとは言わないが、言わないが。
「通販サイトで探すか? いや3日後だしなぁ。ちょっと時間が足りないか?」
「そもそも通販サイトなんてどこも登録してないじゃん。カードとかもないし」
「じゃあ・・・もういっそ作るか?」
冗談半分の提案だったが、どうやらなじみの琴線に触れるものがあったようで。
「作る・・・そっか、その手があった」
「おいおい、そんなノウハウ無いだろ。ネットで調べてもろくに出来るとは思えん。泳いでる最中に解れて脱げるなんてことになったら本末転倒だろうが」
「いやいやケーくん、私はちょっと思い当たる節があるよ・・・」
*
「ん、まあ・・・経緯は分かったわ」
なぜか不敵な笑みを浮かべたなじみは帰路についた。
はて、道中に服飾店などあっただろうか。
などと考えながらなじみに付いていき、しかし真っ直ぐ自宅まで帰り着いてしまった。
かと思えば、なじみはどうやら既に手配を終えており、部屋の前には微が立っていたという訳である。
「で? 私にどうしろと?」
「水着作りたいから教えて!」
あー、そういえば微って自分の下着作ってるんだっけ。
そりゃこの特大サイズじゃ日本にまともなものはあるまいよ。海外からいちいち取り寄せるぐらいなら、と高度な縫製技術を会得したという訳か。
しかし水着と下着、確かに形状は似ているが、同じ要領で作れるもんなのか?
「言いづらいんだけど、流石に私も水着を作ったことは無いわ。泳ぐことなんてあんまりなかったし、その時は普通にお店で買ってたもの」
「そっかぁ・・・」
買ってた、というよりは買えてた、と言った方が正確ではなかろうか。
「でも私が昔使ってたやつなら、まだ実家にあると思うわ。それならどう?」
「えっと・・・良いの?」
「別にもう使わないだろうし、まだ私の胸も尋常の範疇の頃だったからサイズも合うかも。結構趣味も似てるみたいだしね。カップ数は?」
「前測った時はGだった」
「じゃあ・・・うん、大丈夫だと思うわ」
なんか濁してない? 本当に大丈夫か?
「確かワンピースタイプの黒だったと思うんだけど、どう?」
「あ、割とばっちり」
「じゃあ決まりね。ところで・・・私、最近安心院君とあんまり一緒に居ないのよ。委員会の時も子供誑かしてるし」
「だからあれはそういうのじゃないと何度言ったら」
「Shut UP」
「ウィッス」
やはり二股した手前、女性が絡むと一切強気に出れないな。
いや、そもそも強気に出ちゃいけないんだけれども。
というか恋人と浮気相手が水着の貸し借りで和気藹々してるの意味わからんな。
双方理解した上でっていう点が一番訳わからん。
「だから水着取りに行くとき、安心院君も一緒に居て欲しいのだけど、どうかしら?」
「・・・まあ、いいよ。配慮はしてくれてるみたいだし」
渋々、といった感じを隠そうともしない。
ありがとう、とにこやかに返す微はそれを重々承知の上なのだろうが、君ら結局仲いいのか悪いのかよくわからん。
「あの、ちなみに俺の意思は」
「Shut UP」
「ウィッス」
*
待ち合わせ場所を指定されたので、そこにさっさと向かう事にする。
遅れるのは紳士的じゃない。
「だからできれば早めに家を出たいんですがねなじみさん」
「待って待って。確かこの辺に・・・」
なじみがどうしてもというので、珍しく入ったなじみの部屋でなじみが荷物を物色するのを眺めている。
思えばこの部屋、全然使っていない。ほぼ同棲状態なので物置同然だ。漂う空気もどこか余所余所しく感じる。
積まれたままの段ボールも多くあるので、実際圧がある。
「あった! これ着てって!」
そうしてなじみが取り出したのは・・・まあ、なんだ。
俗に『クソださTシャツ』と呼ばれる部類の衣装だった。
真っ白なTシャツだというのに、前面に大きくプリントされた『有名税』の3文字がすべてを台無しにしている。
どこから手に入れたんだ、こんなもん。
なじみの意向は分かる。
要するに、酷い着こなしで実家デートの雰囲気をぶち壊そうという魂胆なのだろう。
微のものと同等か、それ以上に目を引く胸元である。どういい雰囲気になろうとチラつく『有名税』でろくに集中できまい。
「だがなじみ。流石にこれはどうかと思うぞ」
「あ、気に入らない? じゃあこっちの『ひねもすチャージ中』にする?」
「いやそういう問題じゃなくて。もっとこう、普通の服で行くから。お前の思惑はまあ分かるが、着る俺の方がしんどいから」
というか恥ずかしいわ。
「むー・・・じゃあ最大限地味な服でね! 買い出しに使う様なやつ!」
「はいはい、デート用のは持ってかないよ」
俺にまで被害が出る様なタイプの妨害はやめて欲しい。
なじみにだって独占欲があるのだから、妨害自体は咎めないが。
「あ、ついでにペンでなんか顔に書いてく?」
「化粧もせんのになんのついでだ。ちなみになんて書きたい?」
「・・・『スイッチオン』?」
「将来化粧することがあってもお前には頼らん」
とはいえワードチョイスの絶妙なダサさにはある種のセンスを感じないでもない。
あって嬉しいセンスではないが。
*
結局少し遅れることになってしまった。
超能力を使えば間に合ったが、まあ無暗矢鱈に使うものでもない。
あ、いた。この距離からでもシルエットだけで分かる。
だが少し予想外、いやある意味予想の範疇ではあるのだが、ナンパと思しき男に声を掛けられている。
物凄くにこやかに話しているが、微は相手が嫌いであるほどにフレンドリーになる変人なので、彼に芽は一切ない。
そしてなまじフレンドリーな所為で、より強く絡まれている様だ。
人間スケールで駆け寄るが、それより先にナンパ男が微に手を伸ばす。
それを見た微はナンパ男の右太腿の外側に蹴りを入れ・・・男が『吐血』した。
吐血というのは内臓を痛めたから起きる現象である。
それを内蔵とは程遠い部位への打撃で発生させるなど、本来はあり得ない。
だが、彼女にはできるのだ。
人体が駆動するのに必要不可欠な、関節とはまた違ったベクトルの歪み。流動するツボと表現できるそれを、被服の上からでも感覚的に知覚し、正確に打ち抜くことで異常な費用対効果の攻撃を生み出す。
体が動くという前提がある限り逃れられない、超能力染みた、しかし決してそうではない単純な技能である。
そんな説明を何度か受けたが、結局理解はできなかった。
彼女自身理解されようとも、されたいとも思っていない様だったし。
酷い厨設定だと思わんでもないが、この技能に覚醒した経緯を知る者としては、見ていて気持ちのいいものではない。
微の方は、もうすでに割り切っているようだが。『これのおかげで私は虐めから脱却した。つまるところ、全員苦も無く殺せるという前提が、私の心に余裕を作った。いざとなれば殺せるのだから、嫌われようと構わない。そういう余裕が私の仮面の材料になった』と彼女はあっけらかんと笑っていた。
「あ、安心院君。行きましょうか」
「ん、ああ・・・いいのか? それ」
崩れ落ちるナンパ男を指していう。
「手酷く振られるのも経験でしょ。これに懲りたら女性にはみだりに触らない事ね」
「そういうもんかね」
「あ、別に安心院君なら良いわよ?」
「遠慮しとく。こんな公衆の面前ではな」
「ふふ、そういう所よ」
連れ立って歩き出す。
せめて俺に撃退されるなら、彼もいくらか面目が立ったろうに。微がこんなスタイルしておきながら堂々としている時点で妙な部分を嗅ぎ取ってはくれなかっただろうか。
まあ、彼よりは自分のための仮定だとは、自覚しているのだが。
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