Mの憂鬱とSの街

喧騒まみれの日曜日の朝

「……キャハ♪キャハハハ♪」
とある日曜日の午前10時。
高層ビルの屋上にその少女はいた。
ピンクと黄色の水玉模様が所々に印刷された斬新で奇抜なドレスを着こなし、右手にステッキを左手に箒を携えて、足元には小さな黒猫の使い魔と通信機が。
ピンク色のツインテールを風になびかせつつ、口に咥えたペロキャンがカロッと小気味の良い音を鳴らす。
彼女の目は宇宙のように煌めいていて、見る者すべてを吸い込んで魅了してしまう。
『こちらブルー。配置完了しました』
『こちらイエロー。同じく』
足元の通信機からそう告げられると、彼女の目がより一層の輝きを見せる。
「よし、これで準備は完了かな♪」
そう言って、彼女は手にしていた箒にまたがると、ニヤリと口角を上げる。
「しっかり捕まってて」
彼女はそう言うと、足元の黒猫を胸元に押し込む。
彼女はなまじスタイルが良く、胸も大きいせいか、胸元で圧迫されて黒猫は少し苦しがっている。
そんな黒猫をよそ目に
「じゃあ、行くよー♪」
と、言うや否や思いきって助走をつけると、彼女はビルからパッと飛び降りた。
僕はフリーフォールで落ちていくあの感覚を一瞬体で感じたかと思うと、一瞬の停止の後、車の走行中に窓から顔を出した時のような感覚を味わう。
「キャハ♪キャハ♪キャハハハハハ♪」
頭上から楽しそうな笑い声が聞こえてくる。
「ねぇ、クロ！ここから始まるわよ！私とあなたの革命が！」
そう満面の笑顔で彼女は言う。
この革命で何人も死ぬと知っていながらもこの笑顔なのだ。狂気極まりない。
けど、だからこそ。
「アハハ、アハハハハ！ついに始まりますね！僕らの革命が！」
僕は彼女に惹かれたのだ。

これは、黒猫と魔法少女の物語。

あるいは、どこにでもいた少年の人生の追憶である。