麻布十番の妖遊戯

酒処のん平

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第一話:霊 瑞香

思い出せ最期の時! いらん出会いもあるもんだ

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 四

 大学を卒業した瑞香は渋谷区にあるとある不動産会社で事務員として働き始めた。

 与えられた仕事は、部屋を借りにくるお客さんの接客、空き部屋の清掃、事務処理がほとんどだったが、基本的に真面目な性格な上、遅刻、無断欠勤もせずコツコツと仕事をこなしていた。

 浮ついた話もないまま、年は二十六にさしかかろうとしていた。同年代の友人はほぼ結婚して子供を作り家庭を持ち始めると、自然と会う回数も減っていった。

 瑞香も焦りを覚えたが、その頃には仕事でも面白みを感じ始め、後輩もでき、毎日が忙しく潤っていた。
 仕事に邁進しているので、良い人と出会う機会は無いに等しかった。

 そんな時に会社の友人の一人に教えてもらったのがネットでの出会い系サイトだった。
 忙しい人用に作られたサイトで、瑞香みたいに仕事漬けで出会いもろくすっぽ無い男女が登録しているので、もしかしたら合う人が見つかるかもしれないから、暇つぶしにやってみたらと誘われた。

 瑞香もそれならと気軽な気持ちで登録し、使い方もよくわからなかったので作ったまま放ったらかしにしていたある日、登録しておいたメールに一通のメッセージが届いた。

 茨城県に住む男性からのものだった。
 自分よりも十程離れている人だった為、最初は当たり障りなく社交辞令に会話をしていたが、マメに連絡を寄越してくる男性に少しずつ好感を持ち始めていた。

 彼は名を、斎藤司といった。
 茨城県の北に位置する農村部で一人暮らしをしていた。
 仕事はウェブデザイナー。フリーランスなので時間は自由、趣味で畑で野菜を作ったり裏の山で花を育てる毎日を送っているというメッセージに、自分が育てた花の写真を添付して送ってきた。

 都会で生活している瑞香にとって、のんびりした田舎暮らしは憧れるところであった。

 毎日、起きたい時間に起きて、畑で採った新鮮な野菜で手間暇かけてゆっくり料理をし、自然の中で自然の音を聴き、緑を見ながら食事をする。その後、畑仕事をして、朝ごはんのついでに作ったお弁当を外で食べる。鳥の声に遠くに見える山々、綺麗な空気の中で食べるごはんは最高だ。

 そんなやりとりを何度か続けるうちに、自分もそこで暮らしてみたいと思うようになっていった。

 そんな気持ちになっていったのは、大親友だった愛子が結婚するという連絡を受けたからなのかもしれない。

 そうこうしている間に週末に茨城県まで遊びに行くようになり、畑仕事を手伝ったりしているうちに、この素朴な生活も自分には合っているかもしれないと確信するようになった。

 司も優しい人だし、いつも瑞香を気にかけてくれる。
 何より、自分で植物を育てて収穫するという田舎の生活に生きがいを見つけられるかもしれないと思ったのだ。

 それからというもの、事はとんとん拍子に進み、まずは婚約という形を取り不動産会社を寿退社、茨城に引っ越し、司と一緒に生活をするようになった。

 そこから瑞香の悪夢は始まったのである。

「悪夢ってのはあれかい、男が豹変したっていうありきたりなやつかい?」

 瑞香が重いため息をつき一呼吸置いて話を区切ったところで入ってきたのは太郎だ。一緒になった途端に豹変するのは今も昔も変わらないなあと昭子に同意を求めると、昭子もまた、そりゃ男と女だもん、時代が変わったとて大して変わりゃしないだろうさ、特に人間なんてものはさあ。などと鼻で笑った昭子に瑞香の眉が困ったように下がる。

「一緒に住んでから悪夢が始まったのよねえ。そうね、こんなのはどうかしら。その男は実はすごく弱虫で事あるごとに女みたいに泣きわめいたとか」
「ああなるほど。女みたいな男ってえのは最初はそれを見せないようにうまく化けるっていいますからねえ」
「おや、そりゃあんたのことかい? 太郎、あんたはうまあく化けてるわよねえ」
「いやいや、俺は女々しくないですよ。昭子さんこそ立派な男じゃないですか」
 昭子と太郎の掛け合いを止めるように、

「お前ら話の腰を折るなよ。話はこれからじゃねえか。その男が殺したんだろう、そりゃどんな豹変ぶりをしたのか聞きてえじゃねえか。さ、続きを話してくんな」

 右隣からいきなり聞こえた声にびくりと身体が跳ねた。

 瑞香は昭子から声の主の方へ身体を向ける。

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